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もうすぐセンバツ! その3 21世紀枠・豊橋工の森奎真はライアン2世?

楊順行スポーツライター

「成章に小川がいたときに匹敵する存在感だと思います」

というのは豊橋工・林泰盛監督だ。成章の小川とは08年、同じ愛知からの21世紀枠でセンバツに出場し、1勝を挙げたライアン・小川泰弘(現ヤクルト)のことだ。筑波大時代、首都大学リーグで首位打者を獲得した林監督の眼力、さらになじみのある同じ東三河地区のチームだから、小川に並ぶ存在感というのは決してオーバーではない。エース・森奎真への評価である。

豊橋工は、1944年創立の県立校。6学科があって、卒業後は多くの生徒が県内企業に就職し、製造業が盛んな「ものづくり愛知」の発展を支えて求人倍率は高水準だ。47年に創部した野球部は、60年夏に準優勝を果たしているが、愛知は私学4強が断然で、甲子園は遠い。ただ14年、秋としては初めて県3位となり、東海大会に初出場した。そこでは初戦敗退ながら、BSO表示板や防球ネット、トンボなどの練習用具を課題などで製作する工業高校らしさや、学校周辺の毎朝の清掃活動で日本善行賞を受けるなど、地域との積極的な関わりが21世紀枠での選出につながった。

ちなみに、林監督が卒業した時習館は、奇遇なことに道路をはさんだ目と鼻の先(これも奇遇なことに、同じ21世紀枠で選出された桐蔭・伊藤将監督は、筑波大野球部の同期だ)。

「当時から豊橋工とはよく練習試合をしましたが、そのころは選手の元気がよすぎて(笑)、なるべく目を合わせたくなかった」

というが、いまの選手たちは気持ちのいい挨拶、てきぱきした受け答えなど、なかなか好感が持てる。

さて、エースの森だ。昨秋は、チーム公式戦13試合のうち11試合に登板し、10完投で初めての東海大会出場に導いた。182センチの長身から、最速143キロのストレートとキレのあるスライダーを武器に、防御率1.27。奪三振率は、出場32チームのエース中、10位にランクする。

豊橋市立五並中学時代は、さしたる実績はない。ただ、軟式で130キロ超を投げる森には、東邦など私学の強豪からも多くの誘いがあった。だが、

「兄(海人さん)がいたし、公立で強い私学を倒したい」

と、豊橋工に進学。1年時は制球がめちゃめちゃだったが、「先輩と冬の間にしっかり走り、春からは試合でたくさん投げさせてもらって」急成長。昨年春先には、甲子園常連の宇治山田商との練習試合で好投し、自信をつかんだ。それが春、夏と、2大会続けて東邦を追い詰める投球につながった。ことに夏は、8回まで2失点。自分を誘ってくれた強豪に9回、逆転サヨナラ負けを喫したが、そのまま甲子園に出場する東邦・森田泰弘監督をして「愛知ナンバーワン右腕」と言わしめている。

公立高校で強い私学を倒したい

そして迎えた新チーム。

「前のチームでは東邦に2回惜敗しましたが、コースに決まれば、強豪私学にも通用するとわかった。それと新チームになってから、力で押すだけじゃなく、打たせて取る投球を意識しています」

と本人が言うように、「相手を見て組み立てるクレバーさ」(林監督)が、さらに成長を後押しした。変化球でカウントが取れるのが強みで、球速の落ちるカーブ、ときおり左打者に投げるチェンジアップは、緩急をつけるのに有効だ。秋以降は、肩を休めるためにほぼノースロー。体幹を鍛え、肩甲骨周りの可動域を広げ、体重増に努めた。キャッチボールを再開したのは1月下旬だが、経過は良好だという。

「早く投げたかったし、不安もありましたが、基礎が大事ですから。いまはスムーズで、早くあそこに立ちたいですね。第1球は、ストレートを投げようと思います」

あそこ、とは13年の夏、近畿遠征の合間に見学した甲子園だ。沖縄尚学や弘前学院聖愛などのレベルの高さに、大いに刺激を受けたものだ。「早く投げたい」のに、しんがり・6日目の登場(対東海大四)というのはなんとも皮肉だが、林監督が引き合いに出した08年センバツ、成章の初戦は対照的に開幕試合。小川の2失点完投で、成章は2回戦に進出している。思えば小川も、「名古屋の強豪を倒したい一心だった」と、自身の高校時代を振り返ったものだ。さあ、森も続こうか。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は64回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて55季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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