やせ細る北極の海氷 異常気象の引き金に
この冬、北極海の海氷面積は1,477万平方キロメートルに達した。年最大値としては観測史上7番目に小さい。北極海の海氷は加速度的に減少していて、異常気象を引き起こす要因になることが指摘されている。
今年3月 海氷面積は最大に
アメリカ雪氷データセンター(NSIDC)は3月30日、北極海の海氷面積が1,477万平方キロメートル(3月21日)に達したとみられると発表しました。北極海の海氷面積は9月前半に最も小さく、3月前半に最も大きくなるという、季節変化をしています。
この冬の海氷面積は記録が残る1979年以降、2007年と並んで7番目に小さくなりました。北極海は世界で最も温暖化の影響を受けている場所として、専門家の注目を集めています。
海氷面積の年最大値は2015年以降、著しい減少を示しました。2020年は久しぶりに増加に転じ、記録にならなかったことがむしろニュースになったほどです。当たり前がニュースになる、北極海が置かれている現状を表していて興味深いです。
やせ細る海氷
北極海は周囲を大陸に囲まれているため、海氷の広がりが抑えられてしまいます。その分、海氷は厚みを増します。NASAゴダード(Kurtz and Harbeck、2017)の調査によると、海氷の厚みは最大で4メートルにも達するそうです。
しかし、最近は海氷の広がりだけでなく、厚みもなくなってきていることが指摘されています。海氷が薄くなればなるほど融けやすくなります。北極海の海氷は広がりと厚みの両方でやせ細っているのです。
北極海から海氷が消えるとき
毎年、北海道の面積に匹敵する海氷が消えて、このままでは海氷のない北極海が出現すると専門家は危機感をあらわにしています。有史以来、北極海から海氷が消えたことはがあったでしょうか。私たちは経験したことのない状況に直面しているのかもしれません。
極渦が不安定 異常気象の引き金に
北極海の海氷があまりに少なくなっているため、この影響は必ず、どこかに現れている、そう考える専門家がいます。
今年2月、アメリカに強い寒気が南下して、中部や南部で120人以上が死亡したと伝えられました。また、イギリス北部のブリーマー(Braemar)では2月11日、日最低気温がマイナス23度を記録、1995年以来の低温と話題になりました。
この極端な寒さは北極の上空に作られる極渦が崩壊したことで、ジェット気流が大きく蛇行し、強い寒気が南下したことで起こったとみられています。極渦の分裂を示す、成層圏の突然昇温が1月に大規模に起こっていたことも確認されました。
海氷の減少が北半球を取り巻く風の流れに影響し、極渦が不安定になるというのです。
今後、夏に向かって、海氷は急速に溶けていきます。2020年夏は観測史上2番目の368.91万平方キロメートルまで縮小しました。この夏も海氷は少なくなることでしょう。
一方、少ない海氷が常態化するなかで、異常気象と結びつけることに疑問を投げかける専門家もいます。北極海の海氷は私たちに何を訴えているのか、注意深く聞く必要がありそうです。
【参考資料】
アメリカ雪氷データセンター(NSIDC):Arctic sea ice reaches an uneventful maximum、March 30 2021
Kurtz, N. and J. Harbeck. 2017. CryoSat-2 Level-4 Sea Ice Elevation, Freeboard, and Thickness, Version 1. Boulder, Colorado USA. NASA National Snow and Ice Data Center Distributed Active Archive Center.
イギリス気象庁オフィシャルブログ:Record low temperature for the UK this millennium、11 February 2021
アメリカ海洋大気庁(NOAA):Understanding the Arctic polar vortex、March 5 2021
気象庁ホームページ:海氷に関する診断表、予報、データ