金正恩の「拷問部隊」も震え上がる“五寸釘”の使い方
韓国大統領選挙の期間中だった昨年2月、当時与党だった共に民主党の関係者が、尹錫悦候補(当時)に見立てたわら人形に錐(きり)のようなものを突き立てる「五殺儀式」を行ったとSNSに投稿したことが波紋を呼び、民主党が謝罪する一件があった。
朝鮮においてわら人形は、呪いと同時に厄除けにも使われる点が日本と異なるが、呪いの場合に、錐や釘といった尖ったもので突き刺す点では共通している。相手の名前を赤色で書けばさらに「効果抜群」だ。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
韓国では「気味が悪いもの」という扱いとなる呪いの儀式だが、北朝鮮では刑法で禁じられた迷信行為に当たり、違反すれば死刑になることすらある。それでも、占い師やムダン(巫堂、シャーマン)は当局がいくら取り締まっても、一向になくならない。
最近、北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)金正淑(キムジョンスク)郡の安全部(警察署)が、この手の迷信行為の取り締まりを熱心に行っている。それは、ある事件がきっかけとなった。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
北朝鮮では、旧正月の前後に占い師にその年を運勢を見てもらうが、もし良くない結果が出た場合、占い師がその対処法を教えてくれる。
そんな誰かの仕業だろうか。旧暦の1月15日にあたる今月5日、邑(郡の中心地)に住む保衛員(秘密警察)の家の玄関ドアに、五寸釘2本が打ち込まれているのが発見された。これは、恨みを抱いた相手の家族を呪い殺す、またはその家庭をめちゃくちゃにする目的で行われる呪いの儀式だ。
情報筋は、どこかの占い師が客に対して、恨みのある相手の家にそうすればいいと指図したのだろうと見ている。
地域は上を下への大騒ぎとなった。通報を受けた安全部は、迷信行為を行っている者を片っ端から捕まえよと大々的な取り締まりに乗り出した。
事件の起きた人民班(町内会)では、2人の安全員が監視する中で、会議が行われた。安全員は「迷信行為をしないこと」「見かけたら通報すること」などと呼びかけると同時に、住民に対して「犯人はこの中にいるはずだ。重い処罰が下される前に自首せよ」と伝えた。
その後、人民班にいる情報員(スパイ)に占い師と目された人の一挙手一投足を監視させ、迷信行為防止と通報の呼びかけを郡内全域で行っているが、今のところ犯人は捕まっていない。
情報筋が伝えた、事件を受けての地元住民の声は冷ややかなものだった。
「保衛員は、自分のやったことを考えれば誰が犯人か見当がつくだろうに、犯人を捕まえようと大騒ぎする前に、自分がどんな行動をして恨みを買ったのか反省するのが先だろう」
保衛部は、金正恩総書記の恐怖政治を支えてきた実動部隊だ。他の国では罪にならないようなことで善良な市民を捕まえ、長期間にわたり凄惨な拷問を加え、多額のカネを搾り取ったり、管理所(政治犯収容所)送りにしたりなど、恨みを買うようなことばかりやってきた。その点では安全部とて変わらない。
その結果、保衛員や安全員、またはその家族に対する報復殺人が度々起きている。それを考えれば、呪いの儀式だけで済んだだけでもありがたいと思ったほうがいいだろう。