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明らかにMLBとは異なったGM職の捉え方 楽天・石井一久新監督のGM兼任は理想的なのか?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
GM兼任で現場の権力を握るかたちになった楽天の石井一久新監督のGM兼任(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

【楽天が石井一久GMの監督兼任を発表】

 楽天が11月12日、石井一久GMの監督就任を発表した。

 速報ニュースに触れた段階では詳細を確認することができなかったが、その後報じられる詳細記事を読み、石井新監督がそのままGM職を兼任することが分かった。正直驚きしかなかった。

 多少不確かな記憶ではあるが、20年以上のMLB取材を経験した中でGMが監督を兼任したケースにお目にかかったことがない。とりあえず何度もネット検索をしてみたが、そうしたケースを発見することもできなかった。

 元々MLBとNPBでは、GMの考え方がかなり違うのは理解していた。GM、監督ともに計り知れない重責を担わなければならない。果たして楽天が考えているように、2つのポジションを兼務することができるのだろうか。

【MLBが考えるGMの理想像】

 2020年シーズンの公式戦最終日にビリー・エプラーGMの解任を発表したエンジェルス。シーズン後に実施したシーズン総括会見でジョン・カルピーノ球団社長は、新GMの人選作業について以下のように発言している。

 「経験が1つのファクターになるだろう。またスカウト力、選手育成力、ロースター構築力、コミュニケーション能力も同じくファクターになってくる。そうしたすべての能力を備えた人物が素晴らしいGMの条件だと考える」

 カルピーノ社長の発言からも理解してもらえるように、GMはチーム全体の戦力を見渡しながら、選手補強や育成を担当する現場総監督といえるものだ。そうした立場からGMは、当然のごとく選手のみならずコーチ陣やチームスタッフの人事権を掌握している。

 つまり楽天の今回の人事は、監督の人事権をもつGM自らが、監督に就任するようなものなのだ。その異様さを理解できるだろう。

【GM兼任監督は企業のワンマン社長のような存在】

 ただ石井新監督は自らの意思で監督に就任したわけではなく、チームからの要請で監督就任を受託したものだ。やはりMLBとは違い、監督人事がGMに一任されていなかったことが窺い知れる。

 それでも石井新監督は、これまでGMとしてドラフトやトレードに携わり、チームづくりを担ってきた。自らチーム強化を目指し集めた選手なのだから、他人に任せるより自ら指揮をとった方が、自分の理想通りに選手を生かせる面があるかもしれない。

 その一方で、間違いなくデメリットもある。今後も石井新監督がGMを兼任する限り、彼がある程度の人事権を握ることに変わりはない。そうした人物が、現場で指揮をとることになるのだ。

 それはまさに、絶対的な権力を持つ企業のワンマン社長のようなものだ。監督とコーチ陣の関係は、間違いなく変化してしまう。コーチが監督に意見することすら気を遣うケースも生じてくるだろう。

 最悪の場合、社長に意見するものは次々に粛正され、彼の周りにはイェスマンばかりが付き従うことになるという、ステレオタイプ的な悲劇が起こりえる可能性を否定できない。

 選手も同様だ。彼らの人事権を握っている監督の起用法に戦々恐々とし、生きた心地がしない選手も出てきてもおかしくはない。

【権力集中はチーム状況を変化させる劇薬】

 もちろん石井新監督が、ワンマン社長になると断定しているわけではない。ただ彼がGMを兼任することで、現場に関するある程度のことを独断で決定できる立場になったといえる。

 確かに非常事態の際は、1人の責任者に権力を集中させた方が、スムーズに対処できるだろう。だが現在の楽天は非常事態に陥っているわけではない。野球界に限らず一般社会においても、普通は1人の人間に権力を集中させるのを防ごうとする。

 ある意味今回の人事は、チーム状況を変化させるための劇薬のようなものではないだろうか。良薬として機能することもあれば、毒としてさらにチームを悪化させることもある。

 立花陽三社長は今回の人事について、「チームを中期的にも、短期的にも強くする」ためだと説明しているが、現場の権力を一手に握った石井新監督の下、チームは期待通りに機能していけるのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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