台湾海峡危機:中国の弾道ミサイルが台湾上空を通過
8月2日に台湾を訪問したアメリカのペロシ下院議長に激しく反発した中国は、8月4日から台湾の周辺海域を目標とした威嚇目的のミサイル演習を開始しました。演習初日の8月4日には多連装ロケットと短距離の弾道ミサイル複数が発射されています。
弾道ミサイルの幾つかは台湾の台北市の上空を飛行して台湾東部の海上に着弾しました。中国のミサイルが台湾の上空を通過するのは初めてになります。
弾道ミサイルの種類と発射数
使用された弾道ミサイルは中国側の発表動画内で短距離弾道ミサイル「DF-15B(東風15B)」の発射が確認できました。推定されている最大射程800kmの性能を持ち、DF-15の精密誘導型で機動式再突入体の弾頭を持ちます。なお今回の弾道ミサイルの発射数については各国の発表で食い違いがあります。
- 日本防衛省の発表 9発(うち4発が台湾上空通過)
- 台湾国防部の発表 11発(台湾上空通過を当初説明せず)
- 中国人民解放軍東部戦区司令部の発表動画内の説明CG 16発
弾道ミサイルの高度によっては遠距離からでは地球の丸みの影に隠れてしまい観測できないので、日本側と台湾側の観測数値の差はおそらくこれで説明できるでしょう。
中国軍東部戦区の発表動画内では16発のミサイルが着弾する様子のアニメーション動画による説明がありましたが、16発と数字で書かれていたわけではないので、単なるイメージ映像で実際には16発だったわけではない可能性もあります。
なお台湾国防部は当初、「中国共産党は東風シリーズの弾道ミサイルを台湾北東部と南西部の周辺海域に向けて発射した」と説明しているだけで、ミサイルが台湾上空を通過し東部の海上に着弾したことを説明していませんでした。
「中共向臺灣東北部及西南部周邊海域,發射多枚東風系列彈道飛彈」:中華民國國防部:中華民國歷111年8月4日1510時
そして同日中に後から事実と認めています。國防部發布新聞稿,說明「中共以我東部海域為目標,發射之彈道飛彈,是否飛越臺北上空」乙情
台湾国防部が最初の発表で説明していなかったのは、高く飛び上がる弾道ミサイルをレーダーで探知できていなかったということは有り得ず、わざと説明していなかったことになります。
多連装ロケットについて
中国側の発表した映像からPHL−16多連装ロケット(PCL-191と呼ばれる場合もある)が使用されたことが判明しています。この多連装ロケットについては台湾の西部の海上、今回のミサイル演習で中国が指定した海域で最も大陸に近い海域に着弾しています。なお台湾国防部と日本防衛省ともに多連装ロケットの発射については詳しい分析発表をしていません。
PHL−16多連装ロケットは基本口径が370mmロケット弾(4本×2)です。他に300mmロケット弾(5本×2)や、大きな戦術弾道ミサイルも搭載可能とされています。
このPHL−16に戦術弾道ミサイルを搭載していた場合、DF-15Bと思っていたものが幾つかは実はこっちだった、という可能性も有り得ます。ただし現時点では公表された映像からはPHL-16からはロケット弾を発射している様子しか映っていませんでした。
なおPHL-16多連装ロケットは陸軍の管轄で、DF-15B短距離弾道ミサイルはロケット軍(火箭軍)の管轄になります。