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「ロリコン、性差別」「海の文化バカにするな」サミット開催地・志摩で海女の萌えキャラ大炎上

木村正人在英国際ジャーナリスト
大論争を呼んでいる海女の萌えキャラ「碧志摩メグ」(C)Maribon

「碧志摩メグ」は日本の正しい姿?

来年、伊勢志摩サミット(主要国首脳会議) が開催される三重県志摩市公認の海女の萌えキャラ「碧志摩(あおしま)メグ」が、「胸や太ももを強調しすぎ」「海で生きてきた海女の伝統と文化をバカにしている」と大論争を呼んでいる。

「すべての女性が輝く社会づくり」を掲げる安倍晋三首相。サミット開催について「伊勢神宮をはじめ、日本の伝統や文化、美しい自然を存分に味わっていただきたい。日本の『ふるさと』の素晴らしさを世界に発信する機会にしたい」と意気込む。

反対署名を始めた志摩市の主婦、宇坪伊佐子さん(39)は「乳首までうっすら認識できる巨乳、性器方向へはだけた裾、どんなやらしいことも受け入れそうな恥ずかしそうな表情」と、萌えキャラに怒っている。一方、オタクの若者は「メグちゃんを守れ」と盛り上がる。

海女萌えキャラ「碧志摩メグ」(志摩市提供)
海女萌えキャラ「碧志摩メグ」(志摩市提供)

来年、サミットが開かれる志摩市には主要国の首脳や世界中のメディアがやってくる。萌えキャラは日本では許されるのかもしれないが、世界的な基準で見ると性的すぎて批判は免れない。「碧志摩メグ」は日本の正しい姿なの?

夢は「日本一の海女」

まず、大論争になっている「碧志摩メグ」のプロフィールを「志摩市公認 海女萌えキャラクター 碧志摩メグ」公式サイトから紹介しよう。

メグは明るく元気で、ちょっとドジな17歳。身長158センチ。体重46キロ。ボーイフレンド募集中。将来の夢は「日本一の海女」。尊敬する人は「海女の名人のおばあちゃん」。両親はサラリーマン。可愛くオシャレな海女を目指しているが、まだ、さほど潜れない。

海女萌えキャラ「碧志摩メグ」(志摩市提供)
海女萌えキャラ「碧志摩メグ」(志摩市提供)

市観光戦略室の説明では、三重県出身のバイクレーサーが経営する企画会社から無償で提案があり、昨年10月、イラストが市の観光PRキャラクターに公認された。名前は約1800人の応募の中から市と企画会社の協議で選ばれた。

志摩市には古くから「しま子」さんという海女のキャラクターがいる。平成の大合併による志摩市誕生から10年に当たる昨年には着ぐるみの「しま子」さんもつくられた。「高齢化が進み海女の人口は減少している。若い世代にアピールするには『ゆるキャラ』や『萌えキャラ』も必要」と市観光戦略室はメグ採用の背景を説明する。

これまでの海女キャラ「しま子」さん(志摩市提供)
これまでの海女キャラ「しま子」さん(志摩市提供)

PRキャラクターによる観光キャンペーンはオカネをかけても不発に終わることが多い。企画会社からの提案は無償で、市には渡りに船。公認話はトントン拍子で進んだ。「碧志摩メグ」のキャラクターは無料通話・メールアプリLINEで40種類が販売されるほどの人気だ。

「しま子」さんのキャラクター(志摩市提供)
「しま子」さんのキャラクター(志摩市提供)

「ロリコン丸出し」

反対署名を始めた前出の宇坪さんは母も曾祖母も海女という家庭で生まれ、育った。今年2月、近所に貼られていた「碧志摩メグ」のポスターを見て、目を丸くした。「胸を強調していてロリコン丸出し。近づいて見ると、市公認だったので二度びっくりしました」という。

伊勢志摩サミットが決定したとき、「嫁さんもろたときよりうれしい」と万歳三唱した大口秀和・志摩市長の顔が思い浮かんだ。市は「碧志摩メグ」のポスター2千枚を配布し、持ち帰り用フライヤーも用意。観光三重の表紙にもなり、ネット上でも発信されている。

宇坪さんは言う。

「鳥羽・志摩の海女漁技術は三重県無形民俗文化財に指定されています。その潜水技術や民俗的知識とともに信仰も文化財指定されています。こういう文化的で信仰を伴ったものを『萌えキャラ』扱いして良いのでしょうか?」

海女の山下真千代さん(山下さん提供)
海女の山下真千代さん(山下さん提供)

「私は海女漁が盛んな土地で、この信仰の中で育ちました。石を拝み、海に米をまき祈り、自然と共存してきた志摩の先人の知恵を知っています。みな命懸けで海で働いています。海で亡くなる方もおり、亡くなった方を弔う祭事も浜で行われています」

海女の山下真千代さん(山下さん提供)
海女の山下真千代さん(山下さん提供)

海女が多い三重と石川の県教育委員会は漁の技術を県無形民俗文化財に指定して、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への登録を目指している。

NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」も初めて北三陸にやってきたヒロインが現役の海女を続ける祖母と出会い、海女を目指すシーンから始まった。

広がる反対署名

宇坪さんは法務局に2度も「人権侵害だ」と指摘したが、却下された。一方、私鉄は要望を受け入れ、駅や電車からパネルやポスターを撤去。スーパーや漁協もポスターをはがしてくれた。しかし市観光戦略室は「まあ、いろんな考え方がありますよね」と取り合わなかった。あまりの意識の低さに開いた口がふさがらなかった。

萌えキャラ「碧志摩メグ」の公認取り消しを求める署名サイト
萌えキャラ「碧志摩メグ」の公認取り消しを求める署名サイト

志摩市内の海女は昨年時点で約250人。海女とその家族211人と母親98人の反対署名を集めて8月13日、市に提出。ネット上でも公認取り消しを求める約7千人の反対署名が集まった。

市観光戦略室は「『碧志摩メグ』は性的な目的のために作ったキャラクターではありません。しかし胸などの部分を不快に思われる方もいらっしゃるようなので、イラストの描写についてはもう一度、検討します」と話すが、公認を撤回する予定は今のところないという。

萌えキャラで地方創生を

「碧志摩メグ」の企画プロデューサーで国際レーシングライダーの浜口喜博氏をメールで直撃した。

――雑誌の取材に「一部に批判もあるが、新しいものを取り入れることは必要」「オバマ大統領もアニメ好きと聞いている。サミットでもしっかりアピールしたい」と回答されていますが

「色んな力が合わさって、日本の良さを世界へ挑戦できる環境をつくらないと日本らしさも伝わらないと考えています」

――キャラクターを志摩市の大口秀和市長に持ち込んだ理由は

「ハマグチ・レーシング・チームと漫画のコラボ企画で2013年、14年と鈴鹿8耐に出ました。その反響がもの凄かった。13年は仏ル・マン24時間耐久レースに漫画文化とのコラボマシンを走らせて現地でものスゴイ喜びの声が聞けました」

「志摩市のミニコースで練習を重ね、フランス、カナダなどでプロレーサーとして活躍できたことを市長に報告した際、『若い人たちに志摩市の良さをもっと知ってもらいたい』という話を聞きました。自分たちが育てるキャラクターが誕生すれば若い人たちに興味を持ってもらえるといった内容で進めることで了承を得ました」

――萌えキャラについて、海女に対する誤解を広げてしまうとの批判がありますが。イラストの描写を変更する予定はありますか

「市の公認キャラですので、市との協議の上、変更する箇所が出てくるのは仕方がないことだと考えます。ただ、地域の将来をしっかり見つめた戦略でもあり、目的達成に向けて世界中で愛される、世界中から地域の良さを知ってもらえる環境をつくっていきます」

――LINEのスタンプの売れ行きはどうですか

「現在、世界49カ国で送受信された形跡があります。新しい企画も始まっています」

――炎上商法ではないかという指摘もありますが

「(サミット開催で)注目される地域となりましたので、いろんな方からの意見をいただく機会が増えたのは事実です。反対意見も頂かないとキャラも良いものにならないと考えております。キャラクター成長に向けて取り組んでいきたいと思っています」

「三重県、特に志摩市など南部地方へ行けば行くほど過疎化が進んでおり深刻な問題です。海女の歴史を伝えることも大事ですが、若い人たちに興味を持っていただき、存在や仕事内容を知ってもらわないと10年後、20年後、さらに減少していくことが目に見えています」

「メグが認知されれば、新しい文化の発祥地として多くの雇用や、田舎で生活しても絵を描いたり、造形ができたりする夢のある地域を目指せます。地方創生の取り組みの象徴としていきたいです」

「海女は海に潜ってナンボ」

海女の山下真千代さん(山下さん提供)
海女の山下真千代さん(山下さん提供)

これに対して、結婚して2児をもうけてから25歳で海女になった山下真千代さん(65)は「海女は海に潜ってナンボです。体をはって何十年も生計を立ててきて仕事にプライドを持っています」と言葉を強める。

「実際の海女とかけ離れたあのキャラを見て良い気はしません。あり得ない格好です。『何なん、これは』と不快に感じています。バカにしています。知らない人が見て、そういう風に思われるのは嫌です」

山下さんは小学校の頃からずっと海に潜っていた。子供を生むまでは体を冷やすといけないので控えていたが、「海が好きで、好きで仕方なくて海女になりました。そのとき、すでに伝統の白い磯着ではなく、ウェットスーツになっていましたが」と振り返る。

山下さんによると、海女の1年はこんな感じだ。

1~2月、体を休める

3月1日~、天然のワカメ漁

3月16日~9月14日、アワビ、サザエ漁

7月、アカウニ、イワガキ

10月1日~、イセエビや魚をつく

11月20日~、アカナマコ

激減する海女

民宿経営をしながら年に3~5日しか潜らない海女さんもいるが、鳥羽市と志摩市の海女操業人数は1949年の6109人から2014年には761人と8分の1に減少。志摩市だけをみると、2994人から256人と11分の1以下に激減している。

志摩市の資料より筆者作成
志摩市の資料より筆者作成

遠洋漁業のカツオ船が減り、真珠養殖の採算が取れなくなったため、男が海に潜る海士になるケースが増えたとも山下さんは言う。

「キャラクターについて個人のことなら放っておけば良いと思った。志摩市が一番いかんのは、公認を取り下げたらいいのに、取り下げられんと言っているだけだからだ。志摩市の恥は三重県の恥。サミットで世界に恥をさらすことになります」

山下さんの声は悲しさと怒りに震えているように感じた。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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