突如1000倍輝いてそのまま暗くならない!?謎多き天体「オリオン座FU星」の新事実が判明
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「最新観測で判明した謎多き増光天体の新事実」というテーマで動画をお送りします。
1936年、「オリオン座FU星」という星が突如として大幅に増光しました。
その増光については、発生から90年近くが経った現在でも多くの謎が残っています。
そんな中、世界有数の巨大電波望遠鏡である「アルマ望遠鏡」による詳細な観測によってオリオン座FU星の未知の構造が判明し、様々な事実が判明しました。
本動画ではまず水素の核融合が始まる前段階の恒星について解説し、その後オリオン座FU星の基本情報や新事実について解説していく。
●核融合開始前の恒星
宇宙空間に存在する、低温の水素ガスの高密度領域は「分子雲」と呼ばれます。
分子雲内でさらに高密度領域が形成されると、重力によって高密度領域がより高密度になっていきます。
このような高密度領域が一定以上の温度・圧力を獲得すると、水素の核融合が開始し、一般的な恒星となります。
恒星の一生のうちの大部分が、この水素の核融合を起こしている「主系列星」という段階で、太陽ももちろんこの段階にあります。
一方、恒星は主系列星へと進化する前、まず最初に分厚い塵やガスの雲に覆われた「原始星」という段階を経て、その後雲が晴れた「Tタウリ型星」へと進化します。
主系列星の前段階である原始星やTタウリ型星は、まとめて「前主系列星」と呼ばれます。
前主系列星の輝きは核融合によるものではなく、重力によって大量の物質が収縮することで解放された重力エネルギーによるものです。
この後登場する「オリオン座FU星」や「オリオン座FU型星」は、前主系列星段階の恒星です。
●突如増光した「オリオン座FU星」
○基本情報
今回の主役であるオリオン座FU星は、地球からオリオン座の方向に約1360光年の彼方にある、比較的小さな2つの星から成る連星系です。
北にある方が太陽質量の0.6倍、南にある方が太陽質量の1.2倍程度の質量を持ち、両方とも水素の核融合が始まる前の「前主系列星」段階にある、まさに生まれたての星です。
それぞれ塵とガスから成る降着円盤と、さらにその外側の物質に囲まれています。
外側の物質→降着円盤→星本体へと物質が流れ込むことで、星は現在も徐々に成長しています。
○増光について
1936年、オリオン座FU星はわずか数か月で16等級から9等級へと大幅に増光しました。
約1000倍も明るくなった計算になります。
増光したのは連星のうち北の方の星であるとわかっています。
当初、増光の規模などから、この現象は白色矮星の表面で起こる「新星爆発」であると考えられましたが、その後も長期にわたって減光が見られないことから、新星爆発のような突発的な爆発現象ではなく、さらに既知の分類には当てはまらない特殊な天体であると考えられました。
その後しばらくしてから、同様の増光現象を起こす前主系列星がいくつか発見され、このような前主系列星の変光星は「オリオン座FU型星」と分類されるようになりました。
●オリオン座FU型星
大幅な増光を見せる前主系列星である「オリオン座FU型星」についてもう少し掘り下げます。
現在の理解では、オリオン座FU型星に分類されるような特徴的な増光は、比較的低質量の前主系列星で起こると考えられています。
そして高光度の段階は一般的に数年~数十年の単位で継続しますが、例外的に、この分類の元祖である「オリオン座FU星」は、90年近くたった現在でも高光度の状態を維持しています。
○増光メカニズムの謎
オリオン座FU型星の増光は、何らかの原因で若い星の降着円盤が不安定になり、そこから大量の熱や物質が放出されることで生じている可能性があります。
その際、降着円盤は数千度にまで過熱されるそうです。
また、降着円盤周囲のガス雲から降着円盤への質量移動と、降着円盤から恒星本体への質量移動との間の不均衡が降着円盤の不安定性を引き起こし、大規模な増光が発生するのではないかという見解もあります。
しかしオリオン座FU型星の増光メカニズムについては、未だ謎が多い現状です。
●最新観測と新事実
アルマ望遠鏡はかつてない精度で「オリオン座FU星」を観測し、その研究成果が2024年4月末に発表されていました。
この図は、新たに判明したオリオン座FU星周囲の一酸化炭素ガスの分布を示しています。
星から南の方に伸びる構造が目立ちますが、これは周囲の空間から降着円盤に降り注いでいる、「降着ストリーマー」と呼ばれる一酸化炭素のガスの流れです。
この降着ストリーマーの規模は非常に小さく、1936年から現在に至るまで継続している増光を全く説明できませんが、これはより以前に星々に流れ込んださらに大規模な質量降着の残骸であると考えられています。
つまりこの降着ストリーマーの存在自体が、大規模な増光の原因となった巨大な質量流入の存在を示すものであり、初めて増光の燃料となる物質の直接的な観測的証拠を得たことになります。
また今回の観測で、オリオン座FU星の北側の星から伸びる、また別の一酸化炭素のガスの流れが存在することも明らかになりました。
このガスは逆に星から流出する方向に流れており、最近の増光とは無関係の特徴とのことです。
このような流出は、他のオリオン座FU型星では一般的に観測されていたものの、オリオン座FU星ではなぜか観測されておらず、謎に包まれていました。
しかしこのような一般的な特徴が発見されたことで、この点においては、オリオン座FU星は特別ではないことを示しています。
研究者たちは、全ての恒星が初期段階にオリオン座FU型星のような大規模な増光を起こしていると考えています。
これらの大規模な増光は、生まれたばかりの星の周りの降着円盤や、最終的に形成される惑星の化学組成に影響を与えるので、極めて重要な研究対象と言えます。