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北朝鮮が「日本非難」を再開! 拉致問題の解決は遠のく?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金正恩委員長(労働新聞から)

 年明けに開催された労働党第8回大会と関連イベントが終了すると同時にしばらく鳴りを潜めていた北朝鮮の対日批判が始まった。直近の3日間だけで国営通信の朝鮮中央通信が立て続けに3本の対日批判記事を配信していた。

 1本目は「大勢を正しく見て分別のある行動を取るべき」との題目で1月26日に配信された記事で、金正恩委員長が党大会で戦術核兵器や弾道ミサイルの多弾頭技術の開発に言及したことに関連し、岸信夫防衛相が12日に「北朝鮮の軍事動向には引き続き重大な関心を持って情報収集、分析に全力を挙げる」と語った発言を問題視していた。

 2本目は2021年の予算案に航空自衛隊の次世代戦闘機開発費用として数百億円が支出され、2隻の新型イージスシステム搭載艦に相手の射程圏外からの攻撃が可能な長距離巡航ミサイルを導入するための検討を正式に開始したとの日本の報道を受け、27日に配信した「日本が武力増強に引き続き拍車をかけている」の見出しの記事。

 そして、3本目は昨日の「想像を絶する日帝の朝鮮書画破壊略奪蛮行」との見出しの記事で、「高麗絵画や朝鮮封建王朝時代の絵画などが植民地時代に破壊し、略奪された」と、日本も認めているところの「不幸な過去」を持ち出していた。

 北朝鮮の対日批判は毎度おなじみだが、党大会での事業報告で金委員長が「対外関係を全面的に発展させる」と言明したことから日本はこれを肯定的に受け止め、菅義偉総理は18日の施政演説で対外分野では米国の次に北朝鮮との関係を取り上げ、重視する姿勢を見せた。近隣諸国との関係で中国、韓国、ロシアよりも北朝鮮を優先させたことは菅政権が懸案である拉致問題を何とか前進させたいとの思いが滲み出ていた。

 但し、内容は「金正恩委員長と条件を付けずに直接向き合う決意に変わりはなく、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指す」との一言で、昨年同時期の安倍晋三前総理の「日朝平壌宣言に基づき、北朝鮮との諸問題を解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指す。何よりも重要な拉致問題の解決に向けて、条件を付けずに、私自身が金正恩委員長と向き合う決意」とほとんど変わることはなかった。

 「金委員長に無条件に会う用意がある」は安倍政権以来の慣用語となっている。菅総理もステレオタイプ的に「金委員長と無条件に会う用意がある」と繰り返しているが、日本の呼びかけに北朝鮮もまた慢性化し、無反応のままだ。マンネリ化して新味を感じないのか、行動が伴わないため本気度を疑っているのかは定かではない。

 また、米国の政権が変わる度に大統領に協力を求めると言うパターンもマンネリ化し、今回もまた、菅総理はバイデン新大統領に拉致問題解決への協力を要請し、そしていつものように大統領から協力の言質を取り付けていた。

 しかし、米大統領が誰になっても拉致問題の進展は望めない。共和党のブッシュ大統領の時も、また民主党のオバマ大統領の時にも協力を求めてきたが、米国にとっては「理解を示す」のが精一杯。トランプ大統領は前任者とは異なり、初めて米朝首脳会談が実現したことで取り上げてくれたが、北朝鮮は右から左に聞き流したか、せいぜい「わかっている」と答えたのが関の山だろう。実際に先月も北朝鮮は「拉致問題は解決済」と繰り返していた。

 拉致問題の解決は他力本願では所詮無理である。日本独自で成し遂げなければならない。そのためには小泉元総理同様に総理が平壌に乗り込んで直談判する以外にない。そのことは菅総理もわかっているからこそ「金正恩委員長と直接向き合う」と再三口にしているのだろう。そうだとするならば、金委員長を動かすためにもう一歩踏み込んで「いつ、どこでも」とか「金委員長が望む時期、場所で」と呼び掛けてみるのも一つの手である。それで北朝鮮が「平壌ならば会っても良い」と言えば、しめたものである。「あらゆるチャンスを生かす、逃さない」と言うならば、そうした試みも必要である。

 菅総理は「あらゆるチャンス」の一つとして、東京オリンピックの機会を捉えようとしているのかもしれないが、東京五輪での日朝首脳会談はまずあり得ないだろう。仮に招待されても金委員長が来る可能性がゼロだからだ。その理由は、彼にとって訪日する必然性もメリットもないからだ。

 金委員長はプーチン大統領から招かれてもロシアの対独戦勝式典に一度も出席していないし、平昌冬季五輪の時も訪韓しなかった。五輪観たさに、又は日本の首相との会談のために重い腰を上げることはあり得ないからだ。

 菅総理が任期中に拉致問題の解決を真に考えているならば、良くも悪くも日本に関心を向けているタイミング,時期を捉えてあらゆる策を講じ、仕掛けることがマンネリの打破となる

(参考資料:北朝鮮労働党第8回大会の人事を徹底解剖!新たな党序列30位)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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