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「イージス・アショアの代替手段を言わない河野防衛相は無責任」香田元自衛艦隊司令官インタビュー(了)

木村正人在英国際ジャーナリスト
イージス・アショアの配備計画を突然、中止した河野防衛相(写真:つのだよしお/アフロ)

[ロンドン発]新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画中止や在日米軍の経費負担問題、北朝鮮情勢について、香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官におうかがいしました。

「イージス・アショアは弾道ミサイル攻撃という嵐をしのぐ家」

木村:河野太郎防衛相は、新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の停止を突然、表明しました。この方針転換についてはどう思われますか。

香田氏:実は、計画停止だけで問題は解決したと言えません。河野防衛相はブースターの落下がコントロールできずにおカネがかかるからやめたと言っています。

しかし、それよりも深刻な問題として、イージス・アショアの機種選定において防衛省が非常に不透明な手続きにより「問題のある方のシステムを選んだのでは?」という疑問が、防衛省の回答や説明がないまま残っていることがあります。

専門家の間にいくつかの疑問があるのに、防衛省はそれらに一切答えずに、ブースターが民家に落ちる問題が解決できないという理由で突然かつ一方的に計画を停止したのです。しかしイージス・アショアをやめる場合、日本をどのように守るかという基本的な問題が残されています。

さらに、わが国防衛の結果として、日本人の生命財産とともに守られてきた在日米軍の防護については、今回の中止決定において論議さえされていません。

イージス・アショアを配備しないということは日本国民を守ることができないことに加え、在日米軍や日本周辺に展開している米軍も守れないということです。

この観点からは、今次決定は日本国民のみならず同盟国アメリカに対しても無責任以外の何物でもありません。報道情報から判断すれば、これについて日本政府も防衛省も一切、考慮していないように映ります。

日本はイージス艦を8隻(最終8番艦が来年3月就役予定)保有していますから、イージス艦の能力を転用した応用動作としての弾道ミサイル防衛、つまり雨の日に傘をさすことはできます。

しかし、本格的な弾道ミサイル攻撃に対する専従防衛システム、言い換えれば風雨の強い嵐を確実にしのぐ堅固な屋根付きの家は建てていません。イージス・アショアというのは、この堅固な屋根付きの家なのです。

イージス艦というのは、とりあえず雨をしのぐための傘でしかありません。もちろん、傘も、持たないよりははるかに良いのですが、やはり100%ではありません。

イージス・アショアの計画停止、すなわち屋根付きの家の建設をやめることは、傘の機能は限定的で完全ではありませんので、相手につけ込むチャンスをたくさん与えます。

この観点からいえば、わが国政府と防衛省は、計画停止は決定したものの、日本国民とアメリカの大きな安全保障上の財産である在日米軍をどう守るかについてまだ答えを出していません。

イージス・アショアの概念図(防衛省資料より)
イージス・アショアの概念図(防衛省資料より)

「代替手段を言わない河野防衛相は無責任」

木村:イージス・アショアがだめなら在韓米軍に配置されるTHAAD(終末高高度防衛)ミサイルということになりますか。

香田氏:ここで、一つ申し上げることがあります。現在、韓国や欧州に配備されているTHAADやイージス・アショアは配備国の軍隊ではなく、米国の財産、つまり米軍の展開部隊が全責任を持って運用し、整備し、管理をしています。

韓国配備のTHAADも、韓国軍の装備ではなく、米軍のものです。このように、アメリカは弾道ミサイル防衛体制構築に当たり、日本以外は全てアメリカの予算を投入してきました。

日本がすごくて素晴らしいことは、北朝鮮、そして将来的には中国の弾道ミサイルの脅威を自国のものと深刻にとらえたうえで、自由世界第2位というわが国の経済力も考慮して、世界で唯一、自前の予算で自衛隊の装備としてイージス・アショアの導入を決定したことです。

つまり、韓国も、NATOも弾道ミサイル対処は全て米軍に頼っています。日本のイージス艦やイージス・アショアは全て、日本の予算で賄っており、その運用者は自衛隊です。ここが他国との大きな違いです。

木村さんの質問に対する直接的な回答は、イージス・アショアは脅威となる弾道ミサイルの最高飛行点を含む高高度(大気圏外)での迎撃を主務としているのに対し、THAADミサイルは、その名称が示す通り、脅威の弾道ミサイルの飛行経路後半の落下機動における迎撃を狙ったものです。

この観点からいえば、イージス・アショアとTHAADは二者背反ではなく、理想を言えば、両者共存が一番望ましいといえます。少し言葉は汚くなりますが、イージス・アショアをやめたからTHAADという選択は、「ど」素人のなせる業でしょう。

理想的には、イージス・アショアとTHAADの組み合わせ装備、単独とすればイージス・アショアで、次いでTHAAD と言えます。

韓国は中国に気兼ねしてか、THAAD配備自体に難色を示し、あるいは配備後の増強を認めないなどと馬鹿なことを言っています。日本でも、イージス・アショアの価格が高いからやめるとか、技術的に難しいからやめるなどと議論しています。

このようないわば末端の論議に比べ、肝心のわが国防衛上の観点からの必要性に関する論議は皆無のように見受けられます。

代替手段は、短絡的な敵基地攻撃能力だけではないはずです。弾道ミサイル防衛に関する、実現性に優れる他の選択肢もあると考えられますが、それに関しては、論議どころか門前払いというのが今のわが国の現状と言えます。

そのような中、河野防衛相は、精緻に検討された代替手段について言及をしていません。報道からすると、防衛省では検討さえしていないように思えます。無責任です。

好意的に評価するとすれば、防衛省はこの先、何か考えるのでしょうけれど、今回の決定とそれ以後の流れは、正直なところ評価の対象にもならないということです。かつてかかわった専門家として、大変「がっかり」しています。

木村:代替手段を明確に示さない限り、この決定はあり得ないということですね。

香田氏:屋根付きのしっかりとした家を建てないと日本国民と在日米軍は守ることはできないということです。イージス艦の傘というのは、あくまで応用動作です。

「米国が攻撃されている時に日本人が家でソニー製のテレビを観ているということはあり得ない」

木村:在日米軍を守るというお話が出ましたが、在日米軍を駐留させる経費負担(思いやり予算)について、そろそろ俎上に乗ってきているのではないでしょうか。

回想録を出したジョン・ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障担当)が日本側負担に関し、年間80億ドル(約8500億円)を求めるドナルド・トランプ米大統領の意向について日本メディアの取材に「米軍の縮小や撤退を検討する可能性も十分にあり得る」と述べています。

具体的にどんな話になるのでしょうか。

香田氏:日本政府は一度、論点を整理して米政府に伝えるべきだと思います。

アメリカが攻撃されている時に、トランプ大統領が揶揄(やゆ)したような、日本人が家でソニー製のテレビで、戦死者を出しながら戦っている米軍の戦闘を観ているということはあり得ません。

アメリカが攻撃されている時に、日本はすでに戦争になっています。その時、日本は、米国よりもっとひどい戦いになっているでしょう。

もう一つは、第1回のインタビューでも触れたことですが、世界の中で唯一、日本だけがアメリカの空母の前方展開を可能としていたことに代表される、日本のみが米国に提供できる総合的な支援能力です。

それはまさに日本の地理的な位置とインフラストラクチャーに支えられた、いわば日本の宝ともいえる支援能力です。日本提供の支援能力と基地群がないとすれば、アメリカは本土のサンディエゴ(カリフォルニア州)や中間地点のハワイまで帰らないとなりません。

最低1カ月半の作戦遅れが出ますが、これは世界最強の米軍にとっても致命的です。それが日米同盟の一番の特徴です。この現実を前にすれば、在日米軍の縮小や撤退などはあり得ません。

また、作戦運用面では次のことが言えます。日本を守るのは自衛隊(盾)です。米軍(矛)は、憲法の制約がある日本になりかわって敵国を攻撃して、その対日侵攻意図と能力を削ぐのです。

日米安保の機能(盾と矛)分担を一度アメリカときちんと話し合わなければなりません。今まで日本政府は明確にそれをやって来ていませんでした。今回、逆にいい機会だと思います。

簡単に言いますと、アメリカが攻撃される時には日本はすでに戦争になっているのです。

また、これも前回のインタビューで申し上げましたが、台湾有事あるいは朝鮮半島有事において米軍が作戦をする場合、この事態において、自衛隊はわが国防衛のため、防衛出動は出ないかもしれませんが、周辺地域の警戒監視・情報収集等活動を直に開始するでしょう。

これは、作戦行動中の米軍部隊の近傍の活動となり、実質的に自衛隊と米軍がほぼ同じ場所で同一作戦目的のために行動することに繋がります。

さらに事態が拡大すれば、自衛隊にも防衛出動が下令されることになりますが、この場合は日米同盟体制下で自衛隊と米軍が共に戦うことになります。こう見ると、トランプ大統領の比喩は明らかに、理解不足あるいは不正確といえます。

さらに、この前制定された平和安全法制で日本も、一定条件の下で必要な時(存立危機事態)には、集団的自衛権の行使もできるわけです。要するにアメリカが本当に困った時には、日本に影響があると判断すれば自衛隊も米軍と一緒に戦うのです。

特に中国を考えた時に(1)日本の地理的な位置(2)前方展開の支援(3)日本に備蓄しているアメリカの弾薬と燃料等の要素を総合的に判断した場合、日本なしでアメリカはやれますか?ということです。その面の日本の価値は評価できないほど高いのです。

そういうことの整理を一度する必要があると思います。それがアメリカと40年間付き合ってきた私の経験からの結論です。

「米インド太平洋軍の予算は日本の防衛予算よりもはるかに多い」

木村:五分五分で十分話し合える立場に日本はあるということですね。

香田氏:もちろんです。その場合、中身を整理したうえで話し合わなければならないということです。もう一つ重要なことは、アメリカは7380億米ドルを国防予算に充てています。日本の防衛予算は換算値で485億米ドルです。

つまり、アメリカはこの地域の安定に思いやり予算とは桁の違うおカネを使っている現実を理解する必要があります。

公表はされていませんが、アメリカ最大の地域軍である米インド太平洋軍は日本の防衛予算よりもはるかに多い予算により、この地域の安定を維持していることに対する同盟国「日本」としての理解が重要なのです。

ここでの課題というか注目点は二つあります。まず、先ほど述べましたように、わが国の基地と支援の提供に加え、何かあった時には日本(自衛隊)はアメリカ(米軍)と一緒に行動しますということを明確にすることが一つです。

もう一つは7380億ドルと485億ドルの差が示すようにアメリカが世界の安定、特にわが国の安全に直結するインド太平洋地域の安定のために使っている総費用を考慮した場合、日本は思いやり予算とは別の形態で、より大きく貢献することが必要となるということです。

いま述べた論議と、従来の思いやり予算についてきちんと問題を整理して日米が話し合わなければなりません。

「防衛費のGDP2%引き上げは乱暴な話」

木村:北大西洋条約機構(NATO)に関して言えば、国内総生産(GDP)の2%を国防予算にという議論が欧州ではあります。日本も防衛費をGDPの2%に引き上げようという話になりますか。

香田氏:それは乱暴な話です。横須賀、日本のインフラや各地で提供している後方支援能力、米軍の作戦を直接支援する弾薬、燃料を安全に貯蔵していることを計算にいれれば、日本の言い分ではGDPの4%か5%ぐらいに換算できるでしょう。

しかし、常識的に言えば、この換算値を両国がスムーズに納得することもまた難しいでしょう。いずれにしても、日本の負担に満足できないから、GDPの2%という議論は不適切だと私は思います。

同時に、この論議の根底にアメリカが7380億ドルという圧倒的な予算を使い、日本は485億ドルしか使っていないという事実があります。

これも含めて、ここまで申し上げてきた多くの要素をきちんと整理をして日米がお互いにどれだけ貢献していくかということを、相互に納得して決める必要があります。要するに、日米同盟の要はGDPの何%という議論ではありません。

今後、日本政府は、わが国の米軍に対する貢献を今まで以上に具体的かつ整理して米国に示すことは是非やらなければなりません。同時に、もっと重要なことは、必要な時に自衛隊が米軍と共に行動できる、作戦を行うということを米側に示すことなのです。

特に、米太平洋艦隊よりも駆逐艦や潜水艦そして哨戒機の保有数が多い自由世界第2位の海自と、米太平洋空軍よりも戦闘機保有数が多い空自が、西太平洋において米軍と共同体制を採ることができるということの日米同盟体制における意義は、明確に米側に理解してもらう必要があります。

この点をアメリカの指導者や国民一般に理解させないと、この問題(GDP)は終わらないかもしれません。そこには、マスコミにも大きな役割が出てきます。

「南シナ海に入っている頻度では米日仏豪加の順」

木村:南シナ海での「航行の自由」作戦に参加している国はアメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス、日本の5カ国ですか。

香田氏:数年前までオーストラリアは腰が引けていましたが、今は戻ってきました。フランスはアメリカのような「航行の自由」作戦とは言っていませんが、フランス流にやっています。

日本も日本流で南シナ海に艦を入れています。これら各国の活動を「航行の自由」作戦という言葉で一括りすることは無理だと思います。

南シナ海に対し、各国がそれぞれの立場で、中国の独善的な主張を認めない目的で艦を展開しています。イギリスは常駐していませんが、昨年の海軍補給艦のインド太平洋地区派遣時に、アメリカ類似のイギリス版「航行の自由」作戦を実施しています。

日本の場合は海賊対処や中東派遣の機会に護衛艦を頻繁に入れています。ただ中国の主張する(しかし、各国が認めていない)領海の中には入っていません。無用の摩擦回避のためでしょうが、いずれにしても南シナ海に艦を入れているということは重要です。

頻度で言えばアメリカ、日本、フランス、オーストラリア、カナダの順です。インドも不定期ですが南シナ海に軍艦を入れています。

木村:フランスの基地はどちらにありますか。

香田氏:南太平洋フランス領ポリネシアに属するソシエテ諸島のタヒチ島です。2年に一度、南シナ海方面に長期巡航しています。アメリカの「航行の自由」作戦と違うパターンですが、中国の主張は認めないという同じ目標の下で走っています。

「朝鮮半島の安定は米軍の運用も含め日本の協力なしにできない」

木村:韓国とは自衛隊としては普段通りお付き合いできているのでしょうか。日韓の摩擦は収束する気配が全く見えませんが。

香田氏:もう今は政治の問題です。両方ともシビリアン・コントロール(文民統制)の国なので、政治が決めなければ自衛隊も韓国軍も動けません。今は、客観的に見て韓国の方があまりに硬すぎるというか、主張が強すぎると言えます。

ただ、一つだけ韓国が理解しなければいけないのは、朝鮮半島の安定は米軍の運用も含めて、日本の協力がなければできないということです。韓国はそこをきちんと理解する必要があります。

私は日韓の関係改善を進めなければいけないと思っています。朝鮮半島で米軍が行動する際の支援というのは全て日本経由で行われます。

「北朝鮮は米大統領選が終わるまでは動かない」

木村:北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の動向はどうでしょうか。米大統領選の年に朝鮮半島はもめる法則があると言われていますが。

香田氏:金正恩委員長は米軍の力が、事前の予測よりもかなり強いということを知ったと思います。2017年の北朝鮮危機で、北朝鮮は中距離弾道ミサイルの火星12、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の火星14と火星15とたくさん弾道ミサイルの発射実験と、核実験を行いました。

あの時、アメリカは空母3隻を集中して日本海に展開しました。巡航ミサイルを150発搭載できる原子力潜水艦も投入しました。当時の米軍の巡航ミサイル発射可能数は、控えめに見て1000発を超えていたのです。

金正恩委員長の教訓として間違いなく、米軍をなめてかかると大変なことになる。米軍を本気にすれば太刀打ちでないということを学んだはずです。

いろいろと強いことを北朝鮮は言っていますが、その教訓を大前提として「どうするか」ということを考えていると推察します。

ただし米朝交渉が膠着状態にあるのも事実です。膠着状態が長期化する場合、その打開強硬策として核開発や大陸間弾道ミサイルの発射実験の再開が考えられます。問題は、どのタイミングでやるかです。

仮に、北朝鮮がそのような強硬策を採れば、トランプ政権は米朝交渉を完全に切ってしまいます。

それも理解したうえで、北朝鮮はアメリカに対してかなり強い言葉で、交渉相手にならないとか、核開発の再開が回答だとか言っていますが、ボクシングに例えるとまだジャブを入れている段階です。おそらく米大統領選が終わるまでは北朝鮮も動かないでしょう。

ということで、米大統領選の年に朝鮮半島はもめるという法則は、少なくとも今回に限っては当てはまらない公算が大と推察します。

というのは北朝鮮が動いたらトランプ大統領にとって、選挙戦上の好機となります。それに対してアメリカが軍事も含め強く出れば国民の信頼と支持が現職のトランプ大統領に集まります。

また空母3隻入れるぞ、グアムに爆撃機を集めるぞ、ということです。アメリカ人はそういう時に団結します。

北朝鮮としては米大統領選が終わった後に強硬姿勢に出られる準備はするかもしれません。

トランプ氏か、民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領のどちらが米大統領になるかはまだ分かりません。

11月の大統領選が終わるまでは動かず、トランプ氏が再選したら米朝交渉をもう一度再構築し、バイデン氏になったらすべてをリセットしてゼロからのスタートとなるでしょう。ただし、金正恩委員長が強硬姿勢を取る可能性は十分にあり、準備をしておかなければなりません。

「北朝鮮は大陸間弾道ミサイルのイラン着弾試験を行うかもしれない」

木村:今のレッドライン(越えてはならない最後の一線)は新たな核実験と大陸間弾道ミサイルの発射実験です。それを踏み越えてくる可能性もバイデン氏が大統領になったら、あるということですか。

香田氏:誤解を避ける言い方が必要ですが、あえて荒唐無稽なことを言います。例えば北朝鮮からイランに向けて大陸間弾道ミサイルを撃ち込むという手があります。両国が合意の上のデモンストレーションとしてです。イランは北朝鮮の友好国で国土の大半が砂漠です。

イランも北朝鮮もアメリカに相当痛めつけられて、国際社会から疎外され、孤立しています。

バラク・オバマ前大統領時代に結ばれた核合意では、イランの弾道ミサイル開発を制限事項から外して盛り込みませんでした。極端な言い方ですが、イランは弾道ミサイルでは何をやってもいいことになっています。

北朝鮮が太平洋やハワイに向けて、2017年に実施できなかった大陸間弾道ミサイルの最大射程の試験発射を行えばアメリカが激怒することは確実です。

東に撃たずに、西の友好国のイランに対し、大陸間弾道ミサイルの試験発射をすれば、さすがのアメリカも「拳」の振り上げができないということです。宇宙空間は中国の上を飛ぼうが、ロシアの上を飛ぼうが国境はありません。

このような両国が連携した活動は、北朝鮮にとっては、対米抑止力の柱となるものの最終確認未了の大陸間弾道ミサイルの性能試験が実施でき、イランにとっても大きな対米牽制となる意味は大きいでしょう。

日本とアメリカは、現時点でこのようなことまでは考え、準備しておく必要があるのです。

イランとトランプ大統領の間は、ほぼ終わったといえます。もしトランプ氏が再選されるとしたら、いま述べた北朝鮮とイランの共同活動は起こり得ます。

少なくとも安全保障当局者、軍事当局者はそれぐらいのことは考えておかないと、発射されてから「いや大変な事態です!!!」などと言っていたのでは務まらないことは明白です。

香田洋二(こうだ・ようじ)氏

筆者撮影
筆者撮影

元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)。1972年防衛大学校卒業、海上自衛隊入隊。統合幕僚会議事務局長、佐世保地方総監、自衛艦隊司令官などを歴任し、2008年退官。09年から11年まで米ハーバード大学アジアセンター上席研究員。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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