ツイッターに突然現れた「岡江さんはヘビースモーカーだった」というデマ
2020年8月5日追記
ご家族の大和田美帆さんが本件に関してツイートされました。
この記事の執筆時には、事実かどうかの検証ができませんでしたので、以下の言説を「デマ」と決めつける表現は避けていました。ただし、大和田さんのコメントを受けて、タイトルを修正しています。(本文はそのまま)
お断り
本記事は COVID-19 に関する情報提供ではありません。また、ファクトチェックを目的にした記事ではありません。
岡江さん訃報直後から流れ始めた「ヘビースモーカー」説
周知の通り、新型コロナウイルスに関連したネットの流言(デマ)は跡を絶たないが、本記事では、ツイッター上でいままさに拡散されつつある、ある言説に注目したい。これは流言だということが確定したわけではないが、流言の挙動に非常に似ており、注目に値する。
それは、4月23日に逝去された岡江久美子さんに関するものである。
重症化につながった要因のひとつとして、報道の多くは、岡江さんが少し前におこなったがん治療の影響を触れていた。しかし、ツイッター上では、「真の原因」があると、訃報直後からささやかれはじめた。それが、喫煙習慣(とくにヘビースモーカー・チェーンスモーカーだったこと)である。
後述するとおり、「岡江さん=ヘビースモーカー」説の多くが、断定調か伝聞調でツイートされる一方、「写真や映像で見た」「報じている記事を読んだ」という体験談に基づくものがほぼ見当たらないという不思議な状況にある。
ツイートの増加状況
Yahoo!リアルタイム検索で、「岡江久美子 (ヘビースモーカー or 喫煙者) -RT」という検索式でツイートを取得した。(2020年4月27日正午まで)。
合計463件がヒットした。
取得したツイートをグラフ化したのが下図である。なお、Yahoo!リアルタイム検索は過去1ヶ月間は検索可能だが、4月23日より前には1件もヒットしていない。
ついでに言えば、ツイッターでもっと過去にわたって検索をかけても訃報以前はまったくヒットしない。これはウェブ全体でも同じことで、グーグル検索を使っても訃報以前に岡江さんの喫煙習慣に言及するものはほとんど見つからない。今回かろうじて見つかったのが、2005年のヤフー知恵袋の記事くらいである。(他に見つけた方はぜひご教示下さい)。要するに、ネット上に限定すれば、この話は訃報のあった2020年4月23日以降にツイッター上で爆発的に増えた説だと言える。
図からわかるように、訃報が流れた直後からツイートが増え始めた(もっとも、すべてのツイートが「岡江さん=喫煙者」説に言及しているわけではないので注意してほしい。たとえば、志村けんさんの喫煙習慣と、岡江さんのがん治療を併記するものなど)。
ツイート数も訃報からおよそ1日間は急激に増える気配はなかった。
爆発的リツイートの存在
23日時点でのツイートがこちら。(ツイート内容と日時のみ。ツイート内のURLは削除。実際のツイートを確認したい場合はツイートの文字列で検索して下さい)
すでに訃報直後の15時の段階で「岡江さん=喫煙者」だという前提でのツイートが見られるが、一方で、「本当に岡江久美子さんが重度?の喫煙者だったのか今の段階では微妙かも」という懐疑的なツイートもある。
なお、特筆すべきが5番目のツイートだ。このツイートは、その後、17,000以上もリツイートされることになる(27日15:00現在)。期間中全体の463ツイートと比較しても、そのリツイート数の大きさがよくわかる。個々のツイートよりも、この5番のツイートが非常に大きな影響力を持ったというわけだ。
しかし、このツイートは「喫煙歴とかチェーンスモーカーだったこととかそっちをちゃんと伝えないと、誤解をうむ」とか「喫煙者であったことが急激な悪化に繋がった」と喫煙者であったことを周知の事実のように書いているが、その出典を明示していない。リプライには出典を要求している人もいるが、ツイート主が示している出典(のようなもの)は「吸ってるところを見てるので」くらいだ。
ちなみに、2番目にリツイートされたのが、2日後(4/25 9:08)の「岡江久美子さんがヘビースモーカーだったのは有名な話し。 放射線治療の免疫低下よりも、肺炎には喫煙が大敵。 マスコミは、志村けんのヘビースモーカーには触れても、彼女については全く触れないんですね。」というツイートだ(4,000RT以上)。このツイートでは、既成事実からさらに進んで「有名な話」にまでなっている。
ヘビースモーカー説の伝播
まとめると、訃報直後にツイートされた、断定調の「衝撃の真実」が爆発的にリツイートされることで、多くの人が「ええ、そうだったんだ」と「事実」を学んでいく。そして、「喫煙者だったらしいから云々」という伝聞調のツイートが増え、噂が増幅していくという構図が見られる。
しかも、ツイートを概観した限り、「たばこを吸っているのを(映像や写真で)見た」「ヘビースモーカーだという記事を読んだ」という体験談を語っている人が見当たらない。断定調でツイートする人のほとんどが、まるで「周知の事実」かのように語っている。
ここには典型的なデマの流通過程の特徴が見られる。
- (1) 断言調のツイートが爆発的にリツイートされる
- (2) 最初は「え、そうだったの?」「意外…」という反応もある
- (3) 次第に、(1) を既成事実と見なした新たなツイートが投稿される
- (4) 他の人の「断言」を目の当たりにし、多くの人が事実だと考えるようになる
繰り返すが、本記事はファクトチェックを目指すものではない。過去のいずれの時点においても喫煙者で「なかった」ことを検証するのは非常に困難であるし、芸能レポーターでもない筆者が扱うことにはあまり意味がない(ただし、「有名な話」というのは、どうやらファクトとは異なるようだ)。
そうではなく、ショッキングな訃報が、別のショッキングな、しかし出典不明の「真実」と合流することで、大きなうねりとなっていき、次第に「既成事実」「有名な話」のように尾ひれがついていく過程が観察できることを指摘したいのである。
反タバコ感情とマスコミ批判
上記の大きなうねりを生み出したのは、著名人の訃報や感染症への恐怖だけではない。マスコミ批判と反タバコ感情も重要である。
単に「岡江さん=ヘビースモーカー」説をツイートするだけでなく、その「真実」を報じないマスコミへの批判がセットになっている場合が多い。
上記の463件のツイートを、テキストマイニングで共起キーワードを描画したのが下図である。
図の中央を見ると、「報道」「原因」「乳がん」等を結びつけたツイートが多いことがわかる。実際のツイートにも、重症化の真の原因として乳がん治療ばかりに触れ、喫煙習慣に触れない報道姿勢について不満を述べる物が多い。実際、前述のリツイート数1位・2位のツイートはいずれもマスコミ批判のトーンがある。リツイート数で第3位(700RT以上)のツイートも「今朝のシューイチも、岡江久美子さんがヘビースモーカーだったことに触れなかった。」と具体的な番組名(シューイチ)を出し、報道姿勢を批判する。
反タバコ感情を持った人にとって、マスメディアがこの「真実」を報じないのは、隠蔽やタバコ産業への迎合に見えるのだろう。これが、著名人の訃報と喫煙習慣を結びつけるツイートが爆発的に拡散する土壌になっている。
参考:上位のキーワード
参考までに、テキストマイニングのために抽出した上位30位までのキーワードを記す。
トップ3は検索語なので当然だが、第4位に志村けんさんが入っているのが象徴的である。また、30番目には「ソース」があり、少なくない人がこの説の出所に疑いをもったことを示唆している。
- 岡江久美子 491件
- ヘビースモーカー 316
- 喫煙者 217
- 志村けん 103
- 喫煙 102
- コロナ 94
- タバコ 73
- 言う 73
- 放射線治療 63
- 思う 60
- 報道 53
- 亡くなる 50
- 重症 46
- 知る 46
- 吸う 45
- イメージ 40
- Twitter 38
- 免疫力 31
- 肺 31
- 肺炎 28
- 低下 28
- 治療 26
- 岡江 23
- 感染 23
- 原因 23
- 情報 23
- 乳がん 22
- リスク 22
- 禁煙 21
- ソース 20
※ 本記事のテキストマイニングは、※ユーザーローカルのテキストマイニングツール ( https://textmining.userlocal.jp/ ) を使用しました。