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大衆薬ネット販売解禁で「立法・行政VS司法」のバトルが始まる?

岩崎博充経済ジャーナリスト

官僚が統制する日本の厳しすぎる規制

厚生労働省が、国会審議を経ていないにもかかわらず、省令で勝手に原則禁止とした「一般医薬品(大衆薬)のインターネット販売」が、最高裁の判決で「省令は違法で無効」とされた。以前から、日本の規制は、諸外国に比べても厳しすぎる上に、その決定プロセスが不透明といわれてきた。そういう意味では、今回の最高裁の判決は画期的といっていいだろう。

そもそも、日本の場合は政府や自治体などが、実に多彩でさまざまな「規制」のツールを持っている。国会審議を経て可決された法律は問題ないとしても、法律以外に「政令」「省令」「訓令」「要綱」「条例」など多彩なツールがある。さらに、単なる「通達」といったものまである。優先順位からすると、国会の決議を経て決められる法律、閣議で決められる政令、そして今回違法の判決が出た省令は省の担当大臣が決めた国のルールだ。ちなみに、内閣総理大臣が内閣府の長として発する命令を府令と呼び、省令と同じ扱いになっている。

担当大臣が決めたといっても、日本の場合は大臣の任期は短く、大半が官僚の言いなりになってしまうことを考えると、その省のトップが単独で決めることのできるルールといっていい。これまでは政府側が勝つケースが大半で、そういう意味では裁判所の風が変わりつつあるということかもしれない。

府令、省令だけで3500超の法令数

その府令や省令の数だが、総務省行政管理局が提供している法令データによると、2012年12月1日現在で以下のような数になる。

・法律・・・1882

・政令・・・1991

・府令・省令・・・3519

法令数全体が7812であることを考えると、ほぼ半数は府令や省令ということだ。この府令や省令が、日本の産業界に様々な規制となって存在していることは、あまり知られていないのではないか。今回の大衆薬のネット販売も、2009年6月に施行された「改正薬事法」に絡んでのものだが、厚生労働省はこまかな運用ルールを定めずに、薬事法に明記されていないにもかかわらず、省令で薬剤師の対面販売を義務付けて、大衆薬のネット販売を規制。それまで大衆薬のネット販売をしていた2社が、国を相手取って訴訟を起こした。結局、高裁の出した2審判決を最高裁が支持して、大衆薬品のネット販売規制は違法の判決となった。

ただ、今回の最高裁の判決には続きがありそうで、厚生労働省も、自民党も、最高裁の判断をスルーして省令がだめなら、法律を改正して何が何でも一般医薬品のネット販売は規制したいと考えているようだ。実際に、産経新聞などによると1月28日に予定されている通常国会で、時間がかからない議員立法による薬事法改正案を提出する予定で、省令ではなく薬事法改正によってあらためて一般医薬品のネット販売を規制する方針を固めたと報道されている。

薬事法が改正されるまでの間も、一般医薬品のネット販売については裁判に訴えた2社はやむをえないとしても、それ以外の他社には自制を求めている。最高裁の判断も軽く見られたものだが、そもそも厚生労働書には何が何でもネット販売を規制したい事情があるようだ。民主党政権時代にも、2011年7月にネット販売規制を見直す閣議決定をしているのだが厚生労働省側は慎重な姿勢を貫いた。意思決定レベルの高い閣議決定ですら、厚生労働省は動かなかったのだ。

厚生労働省は、どうやら最高裁の判決や時の政権の閣議決定よりも、自分たちの判断が正しいと信じているようだ。特に、最高裁の判断を特定の業者には適用するが、他の業者には自制を促すというダブルスタンダードを打ち出すとすれば、これは法の下に平等という規定を定める憲法にも違反する。

非処方箋医薬品のネット販売は当たり前の海外事情

では、海外の状況はどうなっているのか。米国は、医師の出す「処方箋医薬品」は薬局の対面販売が義務付けられているが、処方箋が不要な「非処方箋医薬品」は消費者の自己責任に基づいていて規制はない。英国では、米国のパターンに「薬局販売医薬品」という分類があり、解熱剤など一部の薬品に限って規制されているものの、それ以外の非処方箋医薬品には規制がない。面白いのはドイツで、ドイツでは日本同様に原則として非処方箋医薬品についてもネット販売が規制されているが、ドイツ国民は隣国のオランダからネットで購入してしまうために、国際間でトラブルになっている。しかし、ドイツとオランダの薬局が提訴した裁判では、欧州司法裁判所が「非処方箋医薬品のネット販売規制は正当化できない」というドイツ側敗訴の判決を出している。

日本の厚生労働省の場合は、医薬品を数多くの種類に分類してきめ細かな規制を行っている。きめ細かな規制というと前向きだが、何か問題が生じても厚生労働省に責任はないという意思が見え隠れする。官僚に丸投げするとこうなると言う典型的な省庁になっているといって過言ではないだろう。

「立法・行政」対「司法」というバトルは、最近やや目に付くようになって来た。裁判員裁判を導入させた自己解決能力がある司法に対して、行政に丸投げすることの多い立法、そして実質的に日本を牛耳ってきた行政の思惑や野心がどこまで通用するのか。少なくとも、立法は国民の審判があるから時には野に下って構造改革の必要性を実感する。しかし、行政だけはこれまでほとんど自分の思い通りにことを進めてきた。いまのところ唯一のチェック機関が裁判所しかない。

こうした立法・行政と司法との戦いは、過払い金訴訟で問題となった利息制限法の解釈で、最高裁が出した判断を行政側が法改正して阻止しようとした事件が知られるが、最終的には裁判所が過払い金返還に対して企業に厳しい判断を出すようになり、立法・行政が司法に従わざるを得なくなったという経緯がある。今回の大衆薬のネット販売に対する厚生労働省の判決後の動きは、再び司法とのバトルになる可能性を示している。

経済ジャーナリスト

経済ジャーナリスト。雑誌編集者等を経て、1982年より独立。経済、金融などに特化したフリーのライター集団「ライト ルーム」を設立。経済、金融、国際などを中心に雑誌、新聞、単行本などで執筆活動。テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活 動している。近著に「日本人が知らなかったリスクマネー入門」(翔泳社刊)、「老後破綻」(廣済堂新書)、「はじめての海外口座 (学研ムック)」など多数。有料マガジン「岩崎博充の『財政破綻時代の資産防衛法』」(http://www.mag2.com/m/0001673215.html?l=rqv0396796)を発行中。

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