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アトピー性皮膚炎やぜんそくの世界的動向 - 地域差や社会経済的要因の影響とは?

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【世界のアレルギー性疾患の現状と日本の状況 - 最新のグローバル研究から読み解く】

アレルギー性疾患は、世界中で多くの人々に影響を及ぼしている健康問題です。中でも、ぜんそくやアトピー性皮膚炎は、患者数が多く、生活の質に大きな影響を与えます。今回取り上げる研究は、1990年から2019年までの期間に、これらの疾患の有病率や危険因子がどのように変化したかを明らかにしています。

【ぜんそくとアトピー性皮膚炎の世界的な有病率と地域差】

2019年の時点で、世界のぜんそく患者数は2億6200万人、アトピー性皮膚炎患者数は1億7100万人に上ります。年齢調整有病率(集団の年齢構成の違いを調整した有病率)は、ぜんそくが人口10万人あたり3416人、アトピー性皮膚炎が2277人でした。1990年と比べると、ぜんそくは24.1%、アトピー性皮膚炎は4.3%減少しています。

地域別に見ると、ぜんそくの有病率は北米とオーストラリアで特に高く、東アジアや南アジアで低い傾向にあります。例えば、2019年の年齢調整有病率は、北米が人口10万人あたり9848人、オーストラリアが8393人であるのに対し、東アジアは2026人、南アジアは2443人でした。一方、アトピー性皮膚炎の有病率は地域差が小さく、アフリカで若干低いものの、世界的にほぼ一定しています。

日本は、ぜんそくもアトピー性皮膚炎も有病率が比較的高い国の一つと言えるでしょう。実際、日本におけるぜんそくの有病率は、成人で5.1%、小児で9.1%と報告されています(参考:Fukutomi Y, et al. 2014; Akasawa A, et al. 2017)。アトピー性皮膚炎については、乳児期で12.8%、小学生で11.2%、成人で4.2%との調査結果があります(参考:Yamamoto-Hanada K, et al. 2020)。

【社会経済的要因とアレルギー性疾患の関連性】

興味深いことに、社会人口統計指数(SDI:所得、教育、出生率などから算出される指標)が高い国ほど、ぜんそくとアトピー性皮膚炎の有病率が高いことがわかりました。具体的には、SDIが最も高い国群では、ぜんそくの有病率が人口10万人あたり6855人、アトピー性皮膚炎が3540人であったのに対し、SDIが最も低い国群では、それぞれ2443人、1359人でした。

一方で、ぜんそくによる死亡率と障害調整生命年(DALYs:早死と障害により失われた健康な生活の年数)は、SDIが低い国の方が高い傾向にあります。2019年のデータでは、ぜんそくによるDALYsは、SDIが最も低い国群で人口10万人あたり553.9年、最も高い国群で273.6年でした。

これらの結果は、社会経済状況の違いがアレルギー性疾患の発症と重症度に影響を与えていることを示唆しています。社会経済状況の良い国では、衛生環境の改善によりアレルギー性疾患の発症リスクが高まる一方、医療アクセスの向上により重症化が防げているためと考えられます。この現象は、「衛生仮説」とも関連しており、幼少期の感染症罹患がアレルギー性疾患の発症を抑制するという説が提唱されています。対照的に、社会経済状況の悪い国では、診断や治療が不十分なため、有病率は低くても重症化するケースが多いのでしょう。

【ぜんそくの危険因子と皮膚疾患との関連】

ぜんそくの主な危険因子として、肥満、職業性ぜんそく誘発物質、喫煙が挙げられます。中でも肥満の影響が最も大きく、世界のぜんそく関連のDALYsの約30%を占めています。2019年の分析では、高BMI(体格指数)が原因のぜんそくDALYsは365万年、死亡者数は7万5377人に上りました。

喫煙と職業性ぜんそく誘発物質(粉塵、化学物質、ガスなど)の影響は地域によって大きく異なります。喫煙に起因するぜんそくDALYsの割合は、中央ヨーロッパで12.7%、西ヨーロッパで12.2%と高く、アンデス地域の1.3%が最も低くなっています。職業性ぜんそく誘発物質の影響は、東部、西部、中部サブサハラアフリカで特に顕著で、ぜんそくDALYsの10%以上を占めています。

皮膚疾患との関連では、アトピー性皮膚炎を持つ人はぜんそくを合併しやすいことが知られています。今回の研究でも、アトピー性皮膚炎とぜんそくの有病率には正の相関が見られました。アレルギーマーチ(アレルギー性疾患が年齢とともに変化していく現象)の観点から、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患の適切な管理がぜんそくの予防につながる可能性があります。

アレルギー性疾患は、世界的に見ても日本においても、国民の健康に大きな影響を及ぼす疾患群です。本研究の知見は、各国・地域の実情に合わせた予防・治療戦略の立案に役立つでしょう。特に社会経済状況の改善と医療アクセスの向上が、世界のアレルギー性疾患対策の鍵を握っていると言えます。また、肥満対策や禁煙推進、職場環境の改善など、ぜんそくの危険因子への介入も重要です。

さらに、アトピー性皮膚炎をはじめとする皮膚疾患の適切な管理がアレルギーマーチの予防につながることを強調したいと思います。皮膚バリア機能の維持・改善に向けたスキンケアや、炎症のコントロールなどを通じて、皮膚からの感作(アレルゲンに対する免疫反応が成立すること)を防ぐことが、他のアレルギー性疾患の発症リスクを下げる可能性があるのです。

アレルギー性疾患の予防と管理には、皮膚の健康が密接に関わっています。今後も、皮膚科からのアプローチがアレルギー対策に重要な役割を果たすことを期待しています。

参考文献:

1. Shin YH, et al. Global, regional, and national burden of allergic disorders and their risk factors in 204 countries and territories, from 1990 to 2019: A systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019. Allergy. 2023;1–23. https://doi.org/10.1111/all.15807

2. Fukutomi Y, et al. Nationwide cross-sectional population-based study on the prevalences of asthma and asthma symptoms among Japanese adults. Int Arch Allergy Immunol. 2014;164(4):281-288. https://doi.org/10.1159/000365630

3. Akasawa A, et al. Japanese guidelines for childhood asthma 2017. Allergol Int. 2017;66(2):190-204. https://doi.org/10.1016/j.alit.2016.11.003

4. Yamamoto-Hanada K, et al. Prevalence and risk factors for food allergy in Japan: A nationwide survey. World Allergy Organ J. 2020;13(3):100107. https://doi.org/10.1016/j.waojou.2020.100107

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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