Yahoo!ニュース

薬が原因の皮膚トラブル「固定薬疹」とは?症状から治療、予防法まで徹底解説!

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

【固定薬疹とは?症状や特徴を知ろう】

みなさんは「固定薬疹」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?固定薬疹は、特定の薬を服用した後に同じ場所に繰り返し現れる皮膚の発疹のことです。一般的な薬疹とは異なり、服薬のたびに同じ場所に症状が出るのが特徴です。

固定薬疹の症状は、円形または楕円形の赤みを帯びた斑点やかゆみのある発疹です。時間が経つにつれ、発疹部分は色素沈着し、灰色がかった色になります。固定薬疹は体のどの部位にも現れる可能性がありますが、特に口腔粘膜や性器周辺など、皮膚の薄い部分に出やすい傾向にあります。

原因となる薬剤は、抗生物質、解熱鎮痛剤、消炎鎮痛剤など多岐にわたります。中でもサルファ剤、テトラサイクリン系抗生物質、イブプロフェンなどのNSAIDsが主な原因とされています。固定薬疹の発症メカニズムは完全には解明されていませんが、薬物に対するアレルギー反応の一種と考えられています。

【診断と治療法について】

固定薬疹の診断は、症状と服薬歴から総合的に判断します。確定診断には、疑わしい薬剤を少量服用する「薬物誘発試験」が有効ですが、重症化のリスクもあるため慎重に行う必要があります。最近では、より安全なパッチテストが診断に用いられるようになってきました。

治療の基本は原因薬剤の特定と中止です。症状が軽い場合は、抗ヒスタミン薬の内服やステロイド軟膏の塗布で対処します。重症例では、短期間のステロイド内服が必要になることもあります。ただし、固定薬疹は薬剤を中止しても色素沈着が残りやすいのが特徴です。完全に元通りにするのは難しいのが現状です。

【予防と注意点 - 重症型の固定薬疹にも言及】

固定薬疹の予防には、原因薬剤の再服用を避けることが大切です。一度発症すると、少量でも同じ症状が再現されやすくなります。特に高齢者では、多剤服用による薬疹のリスクが高まるため注意が必要です。

また、稀ではありますが、全身に広がる重症型の「汎発性固定薬疹」というタイプも存在します。これは Stevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)との鑑別が難しく、適切な治療が遅れると命に関わる危険性もあります。皮疹が急速に拡大する場合は、速やかに皮膚科を受診することが大切です。

固定薬疹は、薬が引き起こす皮膚トラブルの中でも特徴的な症状を示す疾患です。原因薬剤の特定と回避が何より大切ですが、重症化のリスクもあることを知っておく必要があります。薬疹が疑われる症状が出た際は、早めに皮膚科専門医に相談することをおすすめします。

参考文献:

- Shiohara T, Mizukawa Y. Fixed drug eruption: a disease mediated by self-inflicted responses of intraepidermal T cells. Eur J Dermatol. 2007;17(3):201-8.

- Lee CH, Chen YC, Cho YT, Chang CY, Chu CY. Fixed-drug eruption: a retrospective study in a single referral center in northern Taiwan. Dermatol Sin. 2012;30(1):11-5.

- Am J Clin Dermatol. 2020 Jun;21(3):393-399.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

大塚篤司の最近の記事