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邦題と原題が全然違う! 原題を知ってから見て欲しい洋画3選

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー

洋画を見るときに、原題を気にしたことはありますか?
実は邦題と原題って意外と違うんです。

カタカナで表記する際に『ロード・オブ・ザ・リング(原題:The Lord of the Rings)』のように、[The]が抜けているとか、複数形の[s]が抜けていることは良くあります。
また、日本語に翻訳されているタイトルでは、直訳ではなく、作中における意味を踏まえて意味の近い別の言葉に置き換えられていることもあります。
カタカナ表記にせよ翻訳にせよ、外国語を日本語で表現するのですから、それくらいの変化はあって当然でしょう。

でも、中には、全く違ったタイトルになってしまっている作品もあります。
今回はそんな作品をパターン別に3作品ご紹介します。

分かりやすい言葉に変えたパターン

『クーデター』(原題:No Escape)

2015年の映画。ジョン・エリック・ドゥードル監督、主な出演はオーウェン・ウィルソン、レイク・ベル、スターリング・ジェリンズ。
東南アジアの某国に水道支援事業のために赴任したジャック(オーウェン・ウィルソン)。ところが、その国でクーデターが起こり、その影響でジャック一家は全ての国民たちから命を狙われるようになり、命がけの逃亡をするというスリラー作品。
全ての人が敵というような状況で子どもを守りながら逃げるジャックの懸命な姿や、圧倒的な孤立状態は見ていてハラハラする作品です。

また、公開当時の評価は少し辛かった本作ですが、現在の感覚で見ると世界的な情勢だとか背後関係が想像しやすく、社会派作品的なリアリティのあるアクション映画として充分楽しめると思います。

原題「No Escape」は直訳すると「逃げ場なし」のような意味になります。
作中ではクーデターが起こりますが、邦題はちょっと安直な気もするタイトルです。

巨額な融資がからむ水道支援事業がクーデターの引き金になり、水道事業者のジャックが窮地に立たされるというところから物語が始まるので、エッセンスとしては社会派要素もあります。
ですが、物語の中心はクーデターが起きた後、ほぼ孤立無援のジャックが妻と子どもを連れて必死で逃げる過酷な逃避行を描いた作品です。政治的な物語ではなく、国を打倒する話でもありません。
そのストーリーを思えば、やはり原題の方が、より作品にふさわしいタイトルでしょう。

ですが、「逃げ場なし」とすると語感が悪く、ノーエスケープとするとエスケープの意味を理解していなければ伝わらないタイトルとなってしまうので、もう少し分かりやすくクーデターにしたのでしょう。

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作品のイメージに沿わせたパターン

『天使にラブソングを…』(原題:Sister Act)

1992年の映画。エミール・アルドリーノ監督、ウーピー・ゴールドバーグ主演。
歌手のデロリス(ウーピー・ゴールドバーグ)は殺人の現場を目撃したことで命が危険にさらされ、女子修道院に匿われる。デロリスはその修道院で聖歌隊の指導を任される。そして、聖歌隊のシスターたちや修道院に大きな影響を与えていく。
コメディ、ヒューマンドラマ、音楽などが織り交ぜられた作品です。

日本でも現在に至るまで繰り返しTVで放送されている人気映画なので皆さんご存じだと思いますが、原題を知っている人はどれくらいいるでしょうか?
邦題が秀逸だと有名な本作ですが、原題はあまり知られていないのでは?

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原題「Sister Act」の[Act]は、行動・芝居・振る舞いなどを意味していて、原題はシスターたちによるパフォーマンスや、シスターのふりをするデロリスのことを指しています。

原題を翻訳してタイトルにするなら、「修道女の演技」みたいになるでしょうか。
英語がネイティブ並みに理解できていれば原題をカタカナにして「シスターアクト」でもアリですが、大半の人には真意が伝わらなかったはずです。
これらの邦題では、繰り返し放送される名作にはならなかったかもしれません。

シスターや修道女のイメージや、デロリスのイメージ、歌を通して人や環境が変わって行くストーリーなど、作品をぴたっと言葉にした『天使にラブソングを…』は、やはり秀逸な邦題ですね。

どうしてこうなった!?

『ゼロ・グラビティ』(原題:Gravity)

2013年の映画。アルフォンソ・キュアロン監督、サンドラ・ブロック主演。
宇宙での活動中にスペースデブリの衝突によるトラブルに遭ったライアン(サンドラ・ブロック)たちが、酸素低下、機械の故障、無線異常など様々な問題に見舞われながらも地球への帰還を目指す物語。
リアリティのある宇宙空間の描写や、宇宙ならではの展開、息つく間もなく訪れる危機的状況のスリルなど、高く評価されている。

こちらは、原題「Gravity(重力)」に対して「ゼロ・グラビティ(無重力)」と意味がまったく逆になっちゃっています。

宇宙空間での活動を描いた映画なので、むしろ原題の方が「どうして?」となりそうですが、作品を見た後には原題の方が作品に会ったタイトルなのが分かると思います。
この映画を見るときには、Gravity(重力)というタイトルを知っておくと、邦題のイメージで見たときよりも楽しめるはずです。

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洋画好きな人の中には、字幕版と吹き替え版を両方見るという人もいます。
ちょっとした表現が違っていたり、わりと大事な部分が飛ばされていたり、意外と違いがあって面白いのですが、同じ映画を二度見るのはなかなか大変ですよね。
そんなときにお手軽にできるちょっと通な楽しみかたとして、洋画を見る際には原題を調べて、邦題の違いに意識を向けてみるのはいかがでしょうか?

原題を知っていると、より深くその作品が理解できるはずです。
また、これまでに見てきた作品でも、原題を知れば新たな発見があるかもしれませんよ!

今回は邦題と原題が違う作品を3つ紹介しました。この他にも、いろいろな作品を紹介したり、分析したりしているので、興味のある方は合わせてごらんください。

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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