石黒浩氏の人間ロボットに、ノルウェーの人々はどう反応した?
ロボット工学者である石黒浩氏が、自身とそっくりの片割れを連れて、オスロの人々を驚かせた
10月12~16日に開催されていた欧州最大のイノベーション・コンベンションであるオスロ・イノベーション・ウィーク。科学技術をテーマとした「オスロ・テク」の催しでは、石黒氏とそっくりの「ジェミノイド」が会場で展示され、大きな注目を集める。
スマートフォンで一緒に記念撮影をする人や、英語で話しかける人が絶えない中、現地の人々はロボットにどのような印象を抱いたのか感想を聞いてみた。石黒氏のロボットはノルウェーではまだ一般的には知られていないので、「初めて見た」、という人も多い。全体的には、予想以上に現地の人々はロボットに抵抗がなく、笑いながら話しかけていた。
一番多かったアンドロイドに対する質問は、「恋人はいるのか」、「ランチは食べたのか」、「あなたは誰?」だった。
気味が悪い?
アンドロイドと会話をした人に感想を聞くと、目立ったのが「気味が悪くて、ぞっとする」という意味の英語の「クリーピー」(creepy)という表現だった。石黒氏にその話をしたところ、「クリーピーと言いながらも話しかけているから、それはクリーピーではない」と語る。
「ちょっと変なところがあるから、そう言うのかもしれないけれど、慣れて、すぐにしゃべっているし、”見たことがないもの”と”クリーピー”を区別していないのでしょう」。アンドロイドに対する反応は、日本も他国の人も一緒だと石黒氏は説明する。
独身ですか?
「独身ですか?」とアンドロイドに聞いていたのは、ノルウェー最大の産業革命の推進・支援企業、イノベーション・ノルウェーの代表アニータ・クローン・トローセット氏(冒頭写真)。人間とアンドロイドの石黒氏を目の前にして、笑いながら驚いていた。「変な感じはしたけど、クールな体験!有名なロボット工学者にオスロに来ていただき光栄です」と語る同氏。将来ロボットと交流して生活する未来が創造できるかという問いに、「もちろん!」と即答した。
ちょっと怖いね、でもいいね
一度話しかけてから、気になってまたアンドロイドのところに戻ってきたのは、8才のマックス君。「ちょっと怖い。でも、いいね」と、気になって仕方ないようだった。
白い赤ちゃんのようなテレノイドは、かわいい
オスロ大学薬剤部で学ぶ男女の学生は、必死にスマートフォンで撮影していた。「人間に見えるロボットを見るのは人生で初めて!人間らしくない声がちょっと気持ち悪いと思ったかも。でも素敵なロボットだわ」と語るナタリアさん(21)。反対に、白いテレノイドに対しては、そこまで抵抗感を感じなかったそうだ。「人間ではなくて、ロボットだと一目でわかるから、むしろ可愛いと思った」。
「面白いね。このロボットのことは、テレビか何かで見て知っていたんだ。血管がある手は、人間らしくないと同時に自然に見えるのが不思議だね」と話すアスケールさん(60)。「ロボットと暮らす未来はまだ考えられないかな」、と言いながら、「彼女いるのかい?ハハハ!」とアンドロイドに話しかけていた。
「ちょっとがっかりしてしまいました」と語るのはオスロ大学メディア・コミュニケーション学科のチャールズ・イース教授。ロボットと人間のコミュニケーションについて研究している。「今までこのロボットに関する映像や資料をたくさん見ていたので、私の期待が高すぎたのかもしれません。答える反応も早すぎて、偽物に見えすぎてしまう」。
アンドロイドと一緒にセルフィーをしている人は大勢いたが、「写真を撮ってもいいですか?」とわざわざアンドロイドに問いかけている人は少なかった。アンドロイドから写真撮影の許可をもらっていたのは、クリスティーナさん(42)。ロボットのことは知っていたので、楽しみにしていたという。「ロボットではなく、人間だと思って話しかけましたよ。2人の息子がどうしても会いたがっていたので、お願いして息子宛てにメッセージをもらいました」と、嬉しそうに語った。
デンマークでの高齢施設ではすでに遠隔コミュニケーションロボットとして使用されているテレノイド。ノルウェーでも使用されるようになる日は、そう遠くはないのかもしれない
Photo&Text:Asaki Abumi