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「公開処刑でも止められない」平壌市民の“禁断のお楽しみ”

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩夫妻とモランボン楽団(朝鮮中央テレビ)

 国民のプライベートにも踏み込んで取り締まりを行う北朝鮮。最近の最高人民会議(国会に相当)第14期第8回会議で採択された「平壌文化語保護法」は、北朝鮮の標準語である文化語を、韓国語の侵食から守るというものだ。

 だが、韓流ドラマ、映画、K-POP、ファッション、化粧品、電化製品、そして言語に至るまで「韓国のものがおしゃれでカッコいい」という考え方は、北朝鮮の若者の間で定着して久しい。何十年も前から、これらに対する取り締まりが行われているが、ほとんど実効性はない。

 北朝鮮の人々の間で人気があるが、当局が「好ましからざるもの」として取り締まりを続けているものの、全く根絶できていないものが他にもある。占いだ。

 新年を迎えた首都・平壌で「占いがはびこっている」として、当局が取り締まりに乗り出した。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

 平壌市安全局(警視庁)は最近、新年の運勢を占うとして、占い師を訪れる市民が多いとして集中取り締まりに乗り出した。

 北朝鮮で占いは、刑法256条迷信行為罪で違法と規定されている。2019年には占い師を公開処刑するという異常とも言うべき極端な取り締まりが行われているが、それでも一向に減る気配がないのだ。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 地方でも問題だが、思想的にガチガチに武装しているはずの平壌市民の間ですら、非社会主義的行為(社会主義にそぐわない風紀の乱れ)である占いが流行っている。下手をすれば「平壌から追放されかねない」(情報筋)ほどのことだが、それでも流行っていることに危機感を覚えたのか、当局は集中的な取り締まりに乗り出したようだ。

 区域(日本の区に相当)の安全部(警察署)が取り締まりを行っているが、兄弟山(ヒョンジェサン)区域は新年早々2人の住民を摘発、1月中旬には4世帯を摘発し、それぞれ3カ月と6カ月の労働鍛錬刑(短期の懲役刑)に処した。

 占い流行の背景には、北朝鮮で最も豊かな平壌ですら絶糧世帯(食べ物が底をついた世帯)が続出するほどの経済難がある。先の見えない苦しみや不安の中、占い師にすがろうとするのは、別に北朝鮮だけのことではあるまい。

 また、庶民のみならず、高位幹部に至るまで占いにハマっていると伝えられている。そのハマりぶりは、東海岸の咸興(ハムン)で「当たる」と評判だった占い少女を、保衛部(秘密警察)に命じて、わざわざ平壌に連れてきて占ってもらうほどだ。これではいくら取り締まりを行ったところで意味がないだろう。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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