Yahoo!ニュース

相手が死んだ後の離婚に意味はある?「死後離婚」のメリットとデメリットを弁護士が解説

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:アフロ)

1 死後離婚とは?

「死後離婚」という言葉を初めて聞いたという方も多いと思います。

最近では脚本家・内館牧子氏の小説『すぐ死ぬんだから』や主演の泉ピン子さんの発言で死後離婚が話題になりました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/02aca2cb11545533679618233bc60325c12d236b

配偶者が亡くなった後にわざわざ離婚手続きをするの?と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。

実は「死後離婚」とは、離婚というよりも、配偶者の死後に「姻族関係」を終了させる手続きなのです。

姻族関係とは、一方の配偶者と他方の配偶者の血族との関係を言います。

簡単に言えば、義父母や義兄弟との関係が姻族関係です。

離婚をすれば姻族関係は終了しますが(民法728条1項)、婚姻期間中に配偶者が死亡した場合には、姻族関係は継続されたままなのです。

その姻族関係を終了させる手続きが「死後離婚」です。

死後離婚の件数は、2009年には1823件だったものが、2019年には3551件となっており、10年でほぼ倍増しています。(法務省戸籍統計より)。

今なぜ、死後離婚は増え続けているのでしょうか?今回は死後離婚について解説します。

2 死後離婚が増えている理由

写真:イメージマート

死後離婚が増えている最も多い理由は、義理の親との不仲だと思われます。

姻族関係が継続していれば、「介護」や「扶養」をしなければならない事情が発生する可能性があります。

例えば義理の親と同居していれば、義理の親が経済的に困ったときに「扶助」しなければなりませんし(民法730条)、同居していなくても、特別な事情がある場合には、家庭裁判所が「扶養義務」を負わせる可能性も考えられます(民法877条2項)。

夫の死後の義親の扶養義務は、通常は同居している嫁ではなく、最も近い直系血族である夫の兄弟姉妹が負うべきなのですが、生活苦などで扶養する能力がない場合等では、血のつながりはなくても3親等内の親族にあたる嫁が負わされる可能性も全くないとは言えないのです。

そのため、姻族関係を断ち切りたいと考える人が増えていることが考えられます。

姻族関係を終了する手続きとしては、配偶者が「姻族関係終了届」を自己の本籍地又は住所地の市区町村役場に提出する必要があります。この手続きには姻族の同意は不要です。

3 死後離婚のメリットとは

写真:イメージマート

死後離婚を選択したとしても、遺産相続はできますし、遺族年金ももらえますので、経済的な面でのデメリットはありません。

この点は死後離婚の大きなメリットだと思います。

また、配偶者本人と不仲であったようなケースでは、死後でもいいから完全に関係を断ち切りたい!法要にも関係したくない!という理由で、死後離婚を選択する場合もあるでしょう。

では、死後離婚にはどんなデメリットがあるのでしょうか?

4 死後離婚のデメリット

写真:イメージマート

デメリットとしては、一旦手続きをすれば取り消しができないことが挙げられます。

例えばお子さんがいる場合には、この死後離婚の手続き自体に理解が得られないケースもあるでしょう。

お墓参りや法要とも縁が切れてしまうので、なぜ死んだ後にまで縁を切るような酷いことをするのか?とお子さんが憤ることも十分に考えられます。

お子さんとの間で事後にトラブルが発生しても、もう一度元に戻すことはできません。

また、配偶者の祭祀(墓地・仏具・位牌)を承継していた場合には、その取り扱いについて関係者との間で協議する必要が出てきますし、紛争への発展も懸念されます。

そのため、手続きをする際には、関係者に事前にしっかり説明や相談をして、後々トラブルにならないよう慎重に判断する必要があるでしょう。

5 おわりに

写真:イメージマート

今回は、死後離婚のメリットとデメリットについて解説いたしました。

姻族関係にある者については最初から扶養義務があるわけではなく、家庭裁判所が「特別の事情」と判断しない限り扶養義務は発生しません。

ですので、例えば夫を亡くした妻が、「義理の両親の扶養義務を免れるためには、死後離婚をしなければ!」などと考える必要性は低いとも言えます。

ただ、それでも可能性がゼロではありません。

配偶者に先立たれた後、どのように生きるかはとても重要な問題です。

一度、検討してみておいても損ではありません。

もし不安がある場合は、前もって弁護士などの専門家に相談しておくとよいでしょう。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

後藤千絵の最近の記事