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jshrm中島豊会長に聞く「人事の役割変化」~「働く」はLaborからFavorへ~最終回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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厚生労働省が発表した2020年の人口動態統計によると、日本の出生率は5年連続低下しました。これから日本の労働人口がどんどん減り、マーケットも縮小していくと予想されます。企業にはグローバルの視野がないと成り立っていきません。企業を支える人事もまた、世界に目を向けて勉強していく姿勢が求められています。具体的にはどのようなことを知っておくべきでしょうか。中島豊先生に聞きました。

<ポイント>

・人事は英語と統計学を勉強すべき

・人事のプロが世界中から集まって議論したときに、日本は弱い

・日本人とアメリカ人では、努力の考え方が違う

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■人事が世界に目を向けるべき

中島:私が卒業したミッション系の学校のモットーなのですが、「Be women and men」、実は男子校だったので、これは「Be men」なのですが、――「whose eyes are open to the world」、世界に目を向けた人になれということです。まずは人事が世界に目を向けるべきだと思います。客観的にわれわれの働き方や人生というものを見ていって、それを自分の行動で示していくというのが大事だろうと思います。ただ、もちろんそのためには勉強が大事です。人事や法律の勉強も大事なのですが、意外と手をつけていないのが英語と統計学です。これは声を大にして言いたいところです。

これからの日本は日本自体の人口がどんどん減り、マーケットも減っていきます。どうしてもグローバルの視野がないと企業は成り立っていかないわけです。

倉重:どのような企業でもですね。

中島:例外なくそうなってくるはずです。そうなったときに、海外に目を向ける手段というのは英語であって、もう一つは、万国共通の言語は数字です。数字と英語に強い人事が、私は必要だろうと思っています。

倉重:確かにそうですね。今はまさにHRテクノロジーがどんどん発達していく中で、テクノロジーの効果が合っているのかどうかも定期的に検証していく役割が求められています。そこには当然統計的な手法が絡んでくるので、少しでも理解しているとまったく扱い方が変わってきますね。

中島:事実を客観的に見ていくということが、やはり人事にとって大事でしょう。今は、特に個人個人がばらばらなので、その人たちが全体でどうなっているのかを見るためには、ある程度の統計的な知識も必要だと思っています。

倉重:そうでしょう。やはり社内のサーベイを作るときでも、そういった知識があるかないかでは、まったく変わってきますから。

中島:よく自分の組織では言っていることは、「平均値で語ることはやめましょう」ということです。

倉重:恐らく誰からも相手にされない中身になってしまいます。おっしゃるとおりです。具体的な人なのか、最大公約数なのかという話でしょうね。

中島:はい。

倉重:ありがとうございます。最後は中島さんの夢をお聞きしたいと思っています。

中島:ありがとうございます。個人の夢はたくさんあります。個人的には沢山あります・・・

ベンチプレスで80Kgを挙げたい

スクワットで100Kg持ち上げたい

ドライバーで300ヤード打ちたい

エイジシュートを達成したい

スナックを開店したい

人事に関することは、夢ではなくAgendaです。

倉重:すごいですね。結構重た目ですね。

中島:でも、倉重先生には負けるということが、この前分かりました(笑)。

倉重:私は昔から応援団のときからやっていましたので。

中島:夢というと、かなわないことのほうが多く見えるではないですか。

倉重:そういうニュアンスが入ってしまっているのではないかと。

中島:はい。ですから、あまり夢と言いたくありません。人事に関することは夢ではなくて、これはアジェンダだと思っています。達成していくための計画ですね。

倉重:自分の中長期計画ですね。

中島:そうです。そういう意味でのアジェンダは、日本の企業の中核である人事が強くなっていくことです。

強いというのは、国内だけではなく、世界に対して強いということです。個人的にこれは感覚値なのですが、やはり人事のプロが世界中から集まって議論したときに、日本は弱いです。知識面、考え方、哲学というところで議論すると負けます。

倉重:まず議論する土俵に立っていないかもしれませんね。

中島:立てていないです。そこを強くしていくことがアジェンダに入っていくと思っています。

倉重:いいですね。そういったプロがこのjshrmから、1人でも多く生まれないかという話ですね。

中島:「そういう場であってほしい」と思っています。

倉重:素晴らしい趣味だと思います。ちょうどいい感じの時間になってきました。いったん私からお伺いすることは以上にしたいと思います。どうもありがとうございました。

中島:こちらこそ、ありがとうございました。楽しくお話しさせていただきました。

■リスナーからの質問

倉重:では、会場の皆さんから質問を承りたいと思いますが、いかがでしょうか。ぜひマイクをオンにして、直接お話しいただければと思います。

B:よろしくお願いします。先ほどのお話を聞いている中で、若い人事パーソンの人たちに、人事や法律の勉強だけではなく、英語と統計学の勉強をしようとおっしゃっている部分が非常に面白かったです。私は社会人2年目で、1年目は会社の採用などに携わらせていただいて、人材マネジメントのプロフェッショナルに将来はなっていきたいと考えています。 

その中で人事の勉強と、英語の勉強だったらTOEICと決めているのですが、どの程度勉強したらいいのかというのもあります。これからの時代は、お金やITなどの勉強も必要です。することも多過ぎて、どの程度極めていいかも分からなくてということで、本当に迷うことばかりです。

中島:なるほど。確かにどこに選択と集中をするかは、結構大事ですね。

中島:今ふっと思い付いたのですが、私自身は経営や人事の勉強を、MBAに行っているので英語でしています。ですから、英語を取りあえずマスターして、英語で勉強したらどうでしょうか。意外と英語で勉強したほうが易しい科目があります。統計学などは絶対に英語で勉強したほうが易しいです。

倉重:漢字の概念が難しいわけですね。

中島:漢字の概念が難し過ぎて、多変量解析などと言われても何かわかりません。regression analysisと言われたほうが、よほど分かりやすいというのがあります。ITもそうではないかと思います。やはり共通言語で勉強するのが、本当に大事で、私はそれが理想だと思っています。英語と数字のことを勉強するのは、他の学問への入り口なのだと思います。

倉重:間口がより広がるという話ですね。

中島:そうです。TOEICの勉強は、ずっとやればいいですよ。

倉重:無駄にならないと。

シマ:分かりました。ありがとうございます。

倉重:Google翻訳では、やはり駄目ですか。

中島:Google翻訳だと、さっと意味を取るためにはいいのですが、言っていることがだんだんおかしくなって、結局手間が掛かります。

倉重:どんどん翻訳の精度も上がっていきますが、やはり人事は人でしかできないことです。それは直接言語を話したほうが、お互い分かり合えるという話ですね。

中島:そうです。残念ながら日本語で通じる場面は少ないです。

倉重:そういうことですね。Bさん、ありがとうございました。

C:中島さん、ありがとうございました。私も若干外資にいましたので、すごくよく分かる話もありました。その中で、ここの場の質問としていいのかどうか、労働価値観の違いのような話も今日少し出たと思います。私もすごく自分の中で残っているのが、「キリスト教文化においては、労働は罰なので日曜日は休みましょう」ということです。日本では、「労働とは修行だから積めば積むほどいいので、皆、死ぬほど働くのだ」という説があります。このギャップが例えば人事制度の論理的な進化を阻害しているような気がしています。

私自身も社内で「うちの会社は家族的な経営でずっと来たのに」ということを言われます。この労働価値観は変えていくべきもの、変えてはいけないもの、どうなのでしょうか。ご意見を頂ければと思います。

中島:労働価値観ですね。実はキリスト教の中でも、労働の考え方は2つに分かれています。私はミッション系の出身なので多少詳しいのですが、カトリック系が労働はLaborなのです。Laborは楽園から追放されたときに、神から与えられた罰だと考えます。

一方で、それに対して出てきているは、プロテスタントのカルヴァンの派の人たちです。あの人たちは、労働は神へ近づく手段だと考えているところもあります。そういう意味では、勤勉であることが敬虔(けいけん)なクリスチャンの証拠であるというので、やはりその辺の考えが強いのはドイツなどです。

どちらかというと日本の場合はそちらの考え方がなじみやすいし、明治維新後に入ってきて、一番強く影響を与えたのはプロテスタントのカルヴァンの派だと思います。

ですから日本のキリスト教徒は、やたらと真面目です。キリスト教徒は真面目だというのは大きな誤解で、南米あたりへ行くとまったく違いますから。そういう意味で勤勉であることは非常に大事な道徳であり、大事だと思います。これは変えなくていいし、変える必要はないでしょう。

 そういう意味では、努力していることが報われるような制度にしていきたいと思います。ただし、努力には2種類あります。日本人とアメリカ人の努力は違っていて、日本人の場合によくあるのは、「頑張ったのだけれども駄目だった」「頑張ったから、偉いね」と言うではないですか。

アメリカ人は頑張っても、もしそれが実現できなかったら、頑張りが足りないと思うのです。そういう意味の本当に頑張るというところの価値観は国際基準に合わせるべきだろうと私は思っています。日本独自の考え方でまとまっていると、やはり今後のグローバルな流れを勝っていけないというところは気になっています。

C:よく分かりました。努力は必ず報われるというのですが、あえていうと、報われたときに、それを努力と呼ぶという側面もあるのかと思います。

中島:おっしゃるとおりです。

C:ありがとうございました。キリスト教の中にも2つあるというのは、大変開眼しました。図らずも、瀬戸内海を挟んだ向かい側のカソリックの学校卒としては、大変不勉強を恥じるところです。どうもありがとうございました。

倉重:ありがとうございました。あと、他にお2人ぐらいは聞けますけれども、いかがでしょうか。

A:お話を伺っていて非常に共感しました。特に共感したポイントとしては、モデル化の弊害というところと、人事に限らないと思うのですが、日本人のディベート力の弱さというところに非常に共感しました。考え方のフローや仕組みが固くなり過ぎている日系企業が多いので、そこ以外をしっかり知ることが大事だということを感じました。あとは反論を受けてでも自分の意見を言って、たたかれて伸びる素地をつくることは非常に大事だと実感をしています。

感想なのですが、JSHRMでもそういった思考の枠を外してディベートするような場を設けていくと、日本の人事パーソンが経営者と一緒に矢面に立って議論していく一助にもなるのではないかと思いました。WWNのディスカッションも結構自由ですので、そういう形でしていけたらいいなと思いました。すみません、ほぼ感想ですが、ありがとうございました。

中島:今いいことを言われていました。議論する風土というか文化が日本には欠けています。この年になってくると、私が何か言って反論してくる人は少ないです。言い方も悪いのだと思うのですが、そういうところでチャレンジバックしてくる人は少ないです。それに対して海外の連中と議論していると、平気で反論を返してきます。ファーストネームでやりとりしているので、「豊、それは違う」などと言われたりして、すごく距離が近いのです。文化の差なのかよく分からないのですが、恐らく反論することがいいことだという社会的なコンセンサスがまだ足りないのかもしれません。そこを何とか増やしていきたいです。少なくともそういう気概を持った教育を受けている人たちが、現場に入ってつぶれることのないようにしていきたいです。

A:そうですね。あと要素があるとするならば、自分自身の発言に自信がないということと、減点主義で「何か言ったらマイナスされるかも」という仕組みにも問題があるのではないかと個人的には思いました。

中島:ただ、いろいろ聞いてみると、海外の人が意見を言いながら自信があるかというと、ないのですよ。なくても話してしまうという。

倉重:自信があるように見えるだけということですね。

中島:そうです。

A:それは文化もありますね。

中島:文化か訓練なのか。でも、それは大事です。有名なジョークがありますね。「会議の中で日本人を話させるのは非常に難しい。でも、もっと難しいのはインド人と中国人を黙らせることだ」と。

A:確かにそうですね。グローバルのリーダーシップの調査などをしても、その傾向は確かにあったと思います。

中島:そこを乗り越えたいですね。今の若い子たちは、学校でだいぶそういう訓練をしてきているはずですので、それをつぶさないようにしていきたいと思います。

A:ありがとうございます。私も大事にします。ありがとうございました。

中島:ありがとうございます。

倉重:ありがとうございます。小学校などを見ていますと、「反対意見を言うのは駄目だ」というような風潮も一部あるようです。教育も良くないし、そういう価値観の人は、逆に変えてあげたいと思いますね。

中島:そうですね。

倉重:あとは、Dさん、話せますか。

D:はい。お話ありがとうございました。「英語と数字」というお話をされていたので、私も若くもない40なのですが、これからでももっと身に付けていかなくては駄目だなと感じたりしています。私は、それほど外資の方や、外国の企業とやりとりすることはほとんどないので、英語は実際に出番がありません。職業柄コンサルタントですので、数字はよく使います。やはり分かりやすいですし、通じやすいですし、そういった点は、もっと自分でも力を付けていかなくては駄目かなと感じながらお話を聞いていました。ありがとうございました。

中島:ありがとうございます。英語はいつでも勉強して間に合いますよ。言葉はいつでも身に付けることができます。皆さんは恐らく感じていると思いますが、英語が勉強するのに一番易しい言語です。私は日本人でなければ、私は日本語を勉強しようとは思わなかったと思います。

倉重:確かにそうでしょうね。

中島:ドイツ語やフランス語にある動詞の格変化など、そのようなものはないし、非常にシンプルです。だから英語は世界に広がるのだと思うときがあります。

倉重:合理的ですね。

中島:合理的です。ちなみに日本人の英語は、意外と聞き取りやすくて、皆さんに評判がいいのですよ。

倉重:インド式などとは違うと。では、最後にヤマザキさん。

ヤマザキ:ありがとうございます。先ほどの自己紹介の中に触れられていなかったので、あえてというところがあるのですが、実は中島さんはjshrmのアドバンス講座の講師をされていらっしゃいました。

 私はアドバンス講座の受講生のほうでものすごく刺激を受けて、それで中島さんにはお話をしていますけれども、それでMBAへ行こう、博士へ行こうとなった、道をつくってくださったのは、実はjshrm アドバンス講座でした。

 ここからが質問なのですが、中島さんはご多忙ですので、J jshrm 活動から一度離れられた時期があって、今回またお願いしたら、比較的二つ返事でいいですよとおっしゃってくださったのがすごくうれしかったのですが。中島さんが、なぜもう一度jshrm で会長をやろうと引き受けてくださったのか、あるいはjshrm を使って日本の人事をどう変えていきたいという野望を最後に教えていただけると士気が上がるなと思っています。

中島:ありがとうございます。今の仕事に就くときに、だいぶ自分のいろいろなものを整理していきました。やはりグローバルのCHROをやっていくためには、24時間臨戦態勢でいなくてはいけません。ですから、学校で教えるのは時間が拘束され過ぎてという意味で、今回のお話を頂いてどうかなと実は悩んだのですが、ある程度時間の融通の幅の中でやらせてくださいと相談しました。

あとは、グローバルで仕事をしていて、意外と時間が取れる瞬間があるというのも理由の一つです。もしその辺でお役に立てることがあれば、何かできるだろうというのでお引き受けしました。

 ここで何をやりたいかというのは、シンプルなことです。当たり前の人事を当たり前のようにしてほしいというところがあります。人事はすごく誤解されやすいのですが、働いている人が、働きがいのある職場で、働きがいのある仕事をして、人生を楽しく過ごすためにあります。そことあまりにも懸け離れてしまっている会社や人事の人が多いのです。やはり当たり前のことを当たり前のようにしようというのが気持ちです。

ヤマザキ:ありがとうございました。

倉重:ありがとうございました。いい感じで締まったのではないかと思いますので、これから中島会長体制の下で、jshrmをどんどんいい感じにしていきたいと思いますので、皆さん、今後ともよろしくお願いします。

(おわり)

対談協力:中島 豊(なかじま ゆたか)、日本人材マネジメント協会(jshrm)会長

東京大学法学部卒業、ミシガン大学経営大学院修了(MBA)

中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了(博士)

大学卒業後、富士通にて人事・労務管理業務に従事。米国ミシガン大学のビジネススクールに留学し、欧米企業のHuman Resource Management(人的資源管理)の理論を学ぶ。帰国後、リーバイ・ストラウスジャパンと日本ゼネラルモーターズの人事部門で勤務し、外資系企業における人事管理の実務を経験した。傍ら、中央大学大学院の博士後期課程に入学し、バブル崩壊後の日本における新たな人事管理の変革について研究し、博士(総合政策)を取得。1999年からは、進出して間もない米国アパレル流通業のGAPの日本法人で人事部長の職務に就き、非正規人材を活用する米国型のビジネスモデルを展開に取り組んだことから、日本における働き方や雇用の在り方についての意見発信を行なった。さらに、CitiグループやPrudentialグループでM&Aに携わったことで、日本企業の人事をグローバル化に統合する経験も積む。現在も、企業の人事実務に携わる傍らで、グローバルな競争環境において、経営に資するための人材の育成や管理の在り方について研究や発信を行っている。2021年1月より、日本人材マネジメント協会会長に就任。

著書

『非正規社員を活かす人材マネジメント』 (2003年日本経団連出版),『人事の仕組みとルール』(2005年 日本経団連出版)、『社会人の常識―仕事のハンドブック』、(2010年 日本経団連出版)

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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