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引き際が難しい、南スーダンPKO

dragonerWebライター(石動竜仁)
UNMISSへ増援として首都ジュバに到着した国連部隊(国連サイトより)

2013年12月15日に勃発した南スーダンの内戦は、1月19日には停戦合意に至ったとの報道もなされましたが、依然として戦闘が続く地域もあると伝えられており、戦闘終結の見通しは立っておりません。

南スーダンは2011年にスーダンから独立した新しい国で、国連は国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS:United Nations Mission in the Republic of South Sudan)を組織し、各国は南スーダンの国造りを支援してきました。日本も2012年から、陸上自衛隊の施設部隊を派遣し、首都ジュバ近郊で300名以上の隊員がインフラの整備等を行っています。

南スーダンで道路整備を行う自衛隊(防衛省サイトより)
南スーダンで道路整備を行う自衛隊(防衛省サイトより)

日本では国連PKO活動へ参加する基準として、PKO参加5原則を定めており、UNMISSへの参加もこの5原則を満たしているとの判断から参加しました。ところが、内戦の勃発により、その前提が揺らています。ここで、5原則の内容を見てみましょう。

  1. 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
  2. 当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
  3. 当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
  4. 上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
  5. 武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。

昨年末の内戦勃発で第1原則が崩壊しており、今現在伝えられている停戦合意も、今後の展開により、反故にされる可能性が捨てきれない状況です。第4原則では、第1から第3までの原則のいずれかが満たされない場合、部隊を撤収する事を求めています。

PKO参加の自衛隊部隊の撤収については、12月24日の菅官房長官の会見1月6日の小野寺防衛大臣の会見においても否定されています。政府の見解としては、自衛隊が活動する首都ジュバは情勢が安定しており、引き続き情勢は注視するが撤収は考えていないようです。また、安倍内閣は2013年12月17日に閣議決定された「国家安全保障戦略」で、世界の安定に積極的に関与する事を示した「積極的平和主義」を打ち出したばかりで、他国に先駆けてUNMISSから手を引く事はあり得ないという見方が強いと報道されています。今ここで撤収しては、「積極的平和主義」が看板倒れになると懸念されているそうです。

しかしながら、以前から「積極的平和主義」と同様に、世界の安定への積極的関与を打ち出し、平和活動への自国軍参加を積極的に行っていたドイツでは、10年以上に渡るアフガニスタン派遣で300名以上の死傷者を出しており、政府は厳しい批判を受けています。ドイツ軍は平和目的で派遣されており、戦争下にある地域への派遣は違法とされています。しかし、多くの犠牲者を出したアフガニスタンは戦争下ではないのかという批判に対し、ドイツ政府はアフガニスタンの状況について、”Kriegsaehnliche Zustaende”(「戦争に類似した状態」)にあると説明しました。「戦争に似ているが戦争ではない」と言ったわけです。ドイツ政府のこの詭弁は国民の顰蹙を買いましたが、首都ジュバ近辺が安定している事を根拠に自衛隊撤収を否定した日本政府も、今後の事態の推移によっては、ドイツ政府と同じ罠に陥る可能性も捨て切れません。

アフガニスタンで殉職した有志連合軍兵士、ドイツ軍兵士らの慰霊碑
アフガニスタンで殉職した有志連合軍兵士、ドイツ軍兵士らの慰霊碑

過去に国連PKOから撤収した例を挙げれば、1996年から続いていたゴラン高原での国連兵力引き離し監視隊(UNDOF:United Nations Disengagement Observer Force)への自衛隊派遣が、2011年に勃発したシリア内戦に伴う治安状況の悪化により、2013年に撤収したことがありました。この撤収については、治安悪化で隊員の安全確保が困難になった事による撤収であり、5原則が崩れたという判断によるものではないと説明されています。

最悪の事態は、引き際を見誤る事です。昨年末にお伝えした「南スーダンで進展している虐殺の危機」の記事中で、虐殺の可能性について懸念しましたが、国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、政府軍・反政府軍双方による特定民族を標的とした虐殺が行われており、懸念が現実のものになってしまいました。

一般市民に対し、民族だけを理由として恐ろしい犯罪が続いている。両陣営とも一般市民を争いに巻き込んではならない。そして助けが必要な人びとに人道支援団体の手が届くよう計らい、信頼にたる独立した犯罪の調査を受け入れる必要がある。

出典:ヒューマン・ライツ・ウォッチ:ダニエル・ベケレ アフリカ局局長

このような政府軍・反政府軍双方による虐殺が行われている中、これまで通り政府に協力する形でPKO活動を続けた場合、反政府側の民族から反感を買う可能性があります。また、南スーダン情報相が「国連宿営地は反政府軍を匿っている」と主張するなど、政府側にも国連PKOへの疑心暗鬼が生じている状況です。停戦合意により事態が終息する事を期待して留まるか、今後の一層の事態悪化を懸念して撤収するか、どちらかの選択を迫られています。引くタイミングを誤った場合、その悪影響は大きなものになるでしょう。

ここで自衛隊部隊をPKOから撤収した場合、立ち上げたばかりの「積極的平和主義」の看板に傷が付くのは避けられませんし、なによりこの2年間の復興支援の多くが水泡に帰します。一方で、今後も十分想定される事態悪化と、隊員の安全を考えると、撤収もやむ無しという選択もあり得ます。仮に隊員に犠牲者が出た場合、積極的平和主義どころか、日本の平和政策が根本からひっくり返る事態になるのは想像に難くありません。

停戦合意で仕切り直しの時間を与えられた今(本当は与えられてすらいないかもしれないけど)、南スーダンに留まるか否かを真剣に考える必要があるでしょう。

※この記事は、dragoner.ねっと「引き際が難しい、南スーダンPKO」のYahoo!ニュース向け配信版です。

Webライター(石動竜仁)

dragoner、あるいは石動竜仁と名乗る。新旧の防衛・軍事ネタを中心に、ネットやサブカルチャーといった分野でも記事を執筆中。最近は自然問題にも興味を持ち、見習い猟師中。

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