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金正恩が身寄りのないコチェビの「最終処理」に乗り出した

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

 コチェビとは、ストリート・チルドレンやホームレスを指す北朝鮮の用語だ。韓国JTBCは2011年、韓国に住む2万3000人(当時)の脱北者のうち、200人が元コチェビだと報じているが、その全体像は明らかになっていない。

 食糧事情や経済状況の影響で増減を繰り返しているようだが、2020年1月以降のコロナ鎖国により深刻な食糧難に襲われている現在の北朝鮮で、その数が増えていることは想像に難くない。社会安全省(警察庁)は、コチェビが増加しているとして、取り締まり命令を下した。

 咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、社会安全省は先月中旬、全国の安全局(県警本部)に指示文1541号を下した。その内容は、中国に国境を接する地域を中心にコチェビが急増しており、国家非常防疫事業に支障をきたし、人民の生命と安全を脅かす行為をしているばかりか、社会主義のイメージを乱しているとして、取り締まりに乗り出せというものだ。

 具体的には、取り締まり班を立ち上げて現場に派遣し、コチェビが現れないように統制、管理し、各道の安全局が責任を持って、市場や駅前、ゴミ捨て場、鉄道の線路、トンネル、橋の下に現れるコチェビを集中的に取り締まれと指示している。

 さらには、朝鮮労働党の地元の委員会や行政機関と協議して、臨時の建物やホテルなどを収容施設として、コチェビを「退治せよ」と命じた。取り締まりの期間は今年11月30日までだ。

 社会安全省は、住む家や家族を失った内陸地方のコチェビたちが、コロナ前までは比較的豊かだった国境沿いの地域へと移動したことで数が増えたと見ており、脱北する者が増える可能性があるとして、深刻に捉えていると情報筋は説明した。

(参考記事:美人タレントを「全身ギプス」で固めて連れ去った秘密警察の手口

 脱北して韓国や諸外国でメディアに出演し、北朝鮮の実情を語る人が少なくないが、北朝鮮当局は、国に残った家族に危害を加えるなどと脅迫して、出演を思いとどまらせようとする。しかし、身寄りのないコチェビに、この手の脅迫は通用しない。

 また、身分社会の北朝鮮では「下の下」に属するはずのコチェビが、韓国や諸外国で成功したという話が北朝鮮国内で広がることは、当局にとって非常に都合の悪い話だ。

 また、国境の向こうからコチェビの写真を撮影されることも懸念しているようだ。

「コチェビの写真がわが国(北朝鮮)の思想と社会主義制度を崩そうと血眼になっている敵どもの反共和国(北朝鮮)策動の資料として利用されうる」(社会安全省)

 実際、中国側から撮影されたと推定される北朝鮮の様子を収めた動画が、数多く動画サイトYoutubeに投稿され続けており、中にはコチェビと思しき少年が写っているものもある。国内の様子が非公式なルートを通じて海外に伝わることを極度に嫌う北朝鮮は、これらの動画をかなり気にしている模様で、それが「コチェビ退治作戦」の一因となっているとも考えられる。

 これを受けて、咸鏡北道安全局は道内の安全員(警察官)を集めて緊急会議を開き、責任者を任命して、取り締まり班の立ち上げ、収容施設や食糧の確保などを迅速に行なった上で、最終的には突撃隊(半強制の建設ボランティア)に入れて、労働力として活用することで「最終処理する」ように指示を下した。ナチスの「ユダヤ人問題の最終的解決」を彷彿とさせる言い回しだ。

 身寄りのないコチェビは、当局にとって便利な存在だ。誰も行きたがらない過酷な労働現場に投入し、こき使うことができて、労災事故で亡くなったり障害を負ったりしたとしても、家族に騒がれることもないからだ。かくして、コチェビたちは闇に葬り去られていく。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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