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ハワイ・キラウエア火山が再噴火 懸念される「ヴォッグ」とは

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
7日起きた噴火に伴う溶岩の状況 (USGS出典の図に筆者加筆)

女神「ペレ」は、気性が荒く、怒ると火山を噴火させるー。

昔からハワイの人たちはそう信じ、後世に言い伝えてきました。この恐ろしい神が住むとされる、ハワイ島キラウエア火山のハレマウマウで、7日(水)早朝、噴火が発生しました。

アメリカ地質調査所(USGS)のカメラが、その噴火の瞬間を捉えていました。暗闇の中、突如マグマが吹き出す様子が写っています。

当局によれば、溶岩は噴火口の中にとどまっているために、今のところ近隣住民の脅威にはなっていないとのことです。

なお、キラウエア火山ハレマウマウのライブ映像は、YouTubeで配信されています。

キラウエア火山は世界でもっとも活発な火山の一つで、1983年から頻繁に噴火しています。直近は今年1月で、2か月にわたって噴火が続きました。2018年の噴火では、溶岩流が次々と民家を飲み込んで、数百軒が被害に遭いました。

「ヴォッグ」とは何か

今回の噴火は2018年の規模には匹敵せず、現在のところ住民に大きな影響はないようです。ただ、懸念されるのが「ヴォッグ(Vog)」と呼ばれる現象です。

ヴォッグとは、火山を意味するボルケーノ(Volcano)とスモッグ(Smog)が合わさってできた造語です。

噴火で放出された二酸化硫黄が、水蒸気、酸素や太陽光などと化学反応を起こしてできる微粒子のことで、風に乗って広がるため、遠く離れた場所にも影響をもたらします。

目、鼻、喉の痛み、さらには喘息や気管支炎などをもたらす有害な物質です。

2009年に宇宙船アトランティスが撮影した、ハワイ島を覆うヴォッグ (出典: NASA Earth Observatory)
2009年に宇宙船アトランティスが撮影した、ハワイ島を覆うヴォッグ (出典: NASA Earth Observatory)

ヴォッグ予想

では、ヴォッグは今後どう広がるのでしょうか。

今週はいつものように北東風が吹き続けるため、ヴォッグの影響はキラウエア火山の風下にあたるハワイ島の南西部などに限られそうです。

ただ、ひとたび風向きが変われば、ホノルルのあるオアフ島など、そのほかのハワイ諸島にも影響が及びます。

ヴォッグの予想は、こちらのハワイ大学のサイトから見られます。

悲喜こもごも

キラウエア火山の噴火は健康被害を起こす恐れがあるものの、それを歓迎する人たちも少なくありません。

ハワイ島のロス郡長は噴火直後、こんな風に発言しています。

「噴火に伴う火山ガスには注意が必要です。ただ総じてみれば光景は壮観ですし、火山を訪れる絶好の時期です」

実際、多くの人たちがハワイ島行きの航空券を買い始めているようです。人の怒りは百害あって一利なしですが、ペレの怒りはほんの少し違うようです。

デビット・H・ヒッチコック氏が描いた女神ペレ。1929年。 (出典: Honolulu Star-Bulletin)
デビット・H・ヒッチコック氏が描いた女神ペレ。1929年。 (出典: Honolulu Star-Bulletin)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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