日本代表、2017年秋ツアーへ。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチのプランは。【ラグビー旬な一問一答】
ラグビー日本代表は2017年10月19日、同月下旬から約5週間実施するツアーのメンバー34名を発表。就任1年を超えたジェイミー・ジョセフヘッドコーチが、薫田真広強化委員長とともに都内で会見した。
チームは19日に秋のツアーメンバーを決め、JAPAN XVとして10月に28日の世界選抜戦(福岡のレベルファイブスタジアム)へ、以後は日本代表として4日にオーストラリア代表戦(神奈川の日産スタジアム)、19日にトンガ代表戦(フランスのスタッド・アーネスト・ワロン)、26日にフランス代表戦(フランスのUアリーナ)へ挑む。
この秋は9月中旬から定期的に候補合宿を開催。2度おこなう予定だったフィットネステストのうち1回を延期とするなど、国内リーグ参加中だった選手の意を汲んだスケジューリングがなされた。
なおこの会見では、2018年以降に創設される日本代表のトレーニングスコッドに関する説明もなされた。
薫田
「2点、発表させていただきます。1点目はリポビタンD2017のメンバー。2点目は、ラグビーワールドカップのトレーニングスコッドについてです。今季トップリーグ終了から2019年ワールドカップ開幕までの約20か月、トレーニングスコッドを強化メンバーとして、強化を進めてまいりたいと思っています。最初にそのトレーニングスコッドについて、私の方から説明をさせていただきます。
これはトップリーグの全面協力を得ながら、トップリーグの期間中も選手をしっかりこちら主導で強化します。全体はマックス30名を予定しています(のちの取材によれば「人数はアバウト。場合によっては15名程度の可能性もある」)。発表のタイミングは今度の欧州ツアー後。12月、1月になるかはサンウルブズ(スーパーラグビーに参戦する日本チーム。ジョセフが指揮を執る)の契約状況などを見てということになります。
トレーニングスコッドのメンバーは、今回の遠征メンバーが中心にはなりますが、順次入替をおこないながら活動をしたい。またこのメンバーが2019年ワールドカップ出場確定というわけではない。あくまでもスコッドとして強化をしていく。現在、日本代表の資格を得ていない選手でワールドカップ時に取得できる選手も、このスコッドに入れながら、強化プランを考えてやっていきたい」
――メンバー発表。
ジョセフ
「最初に選手を発表し、ご質問をお受けしたいと思います(以下の選手名や所属先を列挙)。
<左プロップ>
石原慎太郎(サントリー/181/105/27/6)
稲垣啓太(パナソニック/186/116/27/16)★☆
山本幸輝(ヤマハ/181/118/26/4)★
<フッカー>
坂手淳史(パナソニック/180/104/24/8)★
日野剛志(ヤマハ/172/100/27/4)★
堀江翔太(パナソニック/180/104/31/52)★☆
<右プロップ>
浅原拓真(東芝/179/113/30/8)★
ヴァル アサエリ愛(パナソニック/187/115/28/―)
具智元(ホンダ/183/122/23/―)★
<ロック>
アニセ サムエラ(キヤノン/198/118/31/7)
ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモ/188/106/28/―)
ヘル ウヴェ(ヤマハ/193/115/27/6)★
谷田部洸太郎(パナソニック/190/107/29/15)★
<フランカー>
布巻峻介(パナソニック/178/96/25/3)★
姫野和樹(トヨタ自動車/187/108/23/―)
松橋周平(リコー/180/99/24/8)★
リーチ マイケル(東芝/189/105/29/50)◎☆
<ナンバーエイト>
アマナキ・レレイ・マフィ(NTTコム/189/112/27/16)☆
フェツアニ・ラウタイミ(トヨタ自動車/185/115/25/―)
<スクラムハーフ>
内田啓介(パナソニック/179/86/25/22)★
田中史朗(パナソニック/166/72/32/61)★☆
流大(サントリー/166/71/25/6)
<スタンドオフ>
田村優(キヤノン/181/91/27/45)★☆
松田力也(パナソニック/181/92/23/9)★
<センター>
立川理道(クボタ/180/95/28/51)★☆
シオネ・テアウパ(クボタ/183/99/25/―)
中村亮土(サントリー/178/92/26/11)
ティモシー・ラファエレ(コカ・コーラ/186/98/26/5)★
<ウイング>
マレ・サウ(ヤマハ/184/98/30/27)☆
福岡堅樹(パナソニック/175/83/25/23)★☆
山田章仁(パナソニック/182/88/32/23)☆
レメキ ロマノ ラヴァ(ホンダ/177/92/27/2)
<フルバック>
野口竜司(東海大学/177/86/22/11)
松島幸太朗(サントリー/178/87/24/25)★☆
選考は、難しいながらもいいバランスが取れました。若い選手と経験十分な選手が入った。
まずタイトファイブ(プロップ、フッカー、ロック)。常に日本代表で一番の課題になる部分ですが、ロックでは2枠、ルースフォワードもできる選手を選びました。それが姫野とファンデルヴァルトです。
キャプテンはリーチが入りました。(今年6月に)彼が代表に戻る選択をしてくれた。私自身、彼がベストだと思います。彼には日本代表での、特にワールドカップの経験が十分にあること。それに選手がついてくる。
(以前まで主将だった)堀江も知識、経験ともに豊富で、チームに与える貢献度が大きい。ただ彼は昨年まで、タフな位置づけにあった。昨季リーダー複数性を採っていました。経験豊富なリーダーが代表に入らなくなるというタフな時期に、立川、堀江というリーダーグループは強力だった。これから堀江は、本来の自分自身のプレーにフォーカスできると思う。彼の活躍を期待したいと思います。
フロントロー(プロップ、フッカー)、ハーフバックス(スクラムハーフ、スタンドオフ)では、複数のポジションをできる選手を念頭に置きました。ワールドカップは長丁場で、様々なことが起きる。そこで複数のポジションができる選手が価値を持ってくる」
――レメキ選手の選出背景は。
ジョセフ
「レメキは昨秋ツアー時も、怪我をする前は素晴らしいパフォーマンスを見せてくれた。今回、それを完治させてくれた。コンディションのところは、これからも見させてもらおうと思っています。彼はチームで最もフィットして1人で、チームで最も強いバックスの1人。フィジカルの素晴らしさは卓越したものがある。課題を挙げるとすれば、普段のプレー環境が国内セカンドティアであるということ(ホンダは下部のトップチャレンジリーグに加盟)。そこから代表での活動に加わると、少し戸惑う部分も出てくると思う。ただ今回の4試合で、素晴らしいラグビーを見せてくれると期待しています」
――秋の候補合宿に選ばれていないサウ選手、中村選手が入っている背景。また、その候補合宿に参加も選外となった選手については。
ジョセフ
「立川選手を副キャプテンと位置付けていますが、先週、負傷して復帰まで3週間かかる。最初の2試合への出場が厳しい。一方、最初の方にオーストラリア代表とのテストマッチが控えている。それを鑑み、誰か入れなきゃいけない。ここで考えたのは若いセンター…。ということで、テアウパを入れている。テアウパの普段のプレー環境を考えると、立川と同じクボタ。さらに若い選手で補完を…と考え、センターもプレーできる松田選手なども入れています」
――このツアーのテーマを具体的に。
「この後、代表とサンウルブズを率いる。成長を加速させる。もっと戦い方も定まるだろうと、これからのことを期待しています。ただまずは、今回の4試合を先にフォーカスすべき。どこのチームも同じだが、選手とチームとして同じ時間を過ごす時間がないなかでの活動です。そんななか、NDS(ナショナル・デベロップメントスコッド、候補合宿に相当)がいい機会になっています。我々がどんなプレーをしたいかを教える、非常にいい機会。ただそれも一朝一夕ではできず、時間をかけながらやっていくものです。その意味では、福岡でやる世界選抜戦が非常に大事。この戦いは、その後に控えるオーストラリア代表戦のためにも不可欠なものだと考えています。どんな試合であれジャージィを着るために全力を尽くすのは変わらないが、一番に挑むべきポイントはワラビーズ戦。タフな相手です。最近のオールブラックス(ニュージーランド代表)との戦いを見ても明らかです」
――山田章仁選手について。
ジョセフ
「私の見る限り、トップリーグで最も才能のあるウイングの1人。選ぶのに迷いはなかった。若い選手と一緒に選んでいるので、いいバランスが取れている。若い選手にとってはいまここで経験を積んで、もっと成長のチャンスを…と思っている。代表の戦いを経験してもらい、成長してもらえれば、さらにいいバランスも生まれる。山田にとってもいい刺激になる。彼は次のワールドカップへも意欲があるし、皆が切磋琢磨していける。
ティア1(強豪国)との戦いでは、最後の2分が大事になる。そこでどういった選手が力を発揮するかを考えると2019年で34歳という彼の年齢は気になるものではない。前回のオールブラックスもそれを表しています。ソニー=ビル・ウィリアムズといった経験のある選手は落ち着いてプレーをしていた」
――改めて、サウ選手、中村選手を選んだ理由は。今後、複数ポジションをこなす選手を選ぶ考えはあるのか。メンバーの固定については。
ジョセフ
「この2人を選んだ理由は経験値です。年齢を見た時に少し…と思われますが、特にマレはラグビーの経験を豊かに持っている。立川もそこに入ってきますが、経験をチームに持ち寄り、浸透させてくれることに信頼をしている。
過去のテストマッチを見ると、相手が強豪になるほどフォワードのフィットネスが肝になる。どうするか。ルースフォワード(ロック、フランカー、ナンバーエイト)を固めることに重点を置かないといけない。そうすると、バックスで複数ポジションできる選手を並べ、怪我やHIA(試合中の脳震盪の検査)などの備えにしたいところもあります」
――共同主将制は取らないのか。ワールドカップまでキャプテンはリーチか。
ジョセフ
「共同キャプテンのシステムはいまも持っています(会見後、日本協会側は今回のキャプテンはリーチのみだと説明)。この共同キャプテン制の重要性をお話しすると…。リーチは天性のリーダー。フィールド上でも信頼できるし経験も豊富。ただ、テストマッチを戦う上では準備が大事。準備の段階で整えるには1人は大変。そこで(職務を)分散をさせたいと思っています」
――ルースフォワードには経験の浅い選手が多い。
ジョセフ
「姫野は若くて経験が不足していますが、大きな可能性を秘めている。ロック、フランカー、ナンバーエイトをすべてこなせる。フィジカルであり、所属先でも毎週、80分間元気にプレーしている。もっと強化をしていきたい、もっと一緒にやりたいと思える選手です。
他の選手についても話すと…。松橋も若いが、この選手はプロ意識がある。普段の姿勢がプロ意識に基づいている。その姿勢、意識が、代表やサンウルブズの強みになっていく。これからも続けて強化していきたい選手です。
ラウタイミについても、他の選手と同じ流れで選んでいる。強化して見ていきたい。トンガ代表戦、フランス代表戦はフィジカルな試合になる。だからこういう選手を選んだ」
――呼びたかったが呼べなかった選手、小野晃征選手やツイ ヘンドリック選手など、今回参加しない経験者の位置づけは。
ジョセフ
「小野はずっと患っている首の状況があまりよくないということ。代表レベルの試合では不安が残るということでした。状態が良ければ選びたかった選手ですが、今回は先行しなかった。ツイは、単純に私たちが選ばなかった」
――トレーニングスコッドの強化日程、サンウルブズとの兼ね合いについて。
薫田
「サンウルブズでの過ごし方も含め、コンディションを考えたい。今季のトップリーグ終了後の最初の過ごし方はしっかりコントロールしていきたい(2018年1~2月)。またスーパーラグビーが閉幕し、トップリーグが始まるまでの間のリコンディショニングも考えていきたい(2018年夏)。その時のスーパーラグビーでの出場試合数によって、その内容は変わって来る。しっかりコントロールする。2018年のトップリーグは年内に終わりますが、こちらでトップリーグとしっかり調整を図りながら(選手の体調や日程の管理を)やっていきたい。『どこの試合をコントロールして欲しい』など、トップリーグ側と調整を図りながらやっていきたい」
――今回の目標、戦い方は。
ジョセフ
「全部の試合を勝ちたいです」
――どの程度の成績を求めるか。
薫田
「全く同じです。アイルランド代表戦(6月に2連敗)もそうですが、戦うには勝たなくてはならない。テストマッチは重みが違う。勝ちだけにこだわってやっていきたい」
――勝つための準備について、具体的に。
ジョセフ
「新しいジョン・プラムツリーディフェンスコーチがチームに加わる。トップリーグの下位チームを見ても、ディフェンスが最大の課題だとわかります。日本は、トライを取れる。アタックに関しては向上が大前提だがOKと考えられる部分もある。ただ、ディフェンスはやっていかないといけない。特に秋のツアーでは、最初の2週間が大事。ジョンがディフェンスでどんなことを考えているか、チームで共有して落とし込んでゲームに反映させたい」
――キックング主体のゲームプランは継続か。
ジョセフ
「キッキングゲームは大事な要素。ここを足かせにアンストラクチャーを満たす。より良いゲームができるようにしていく。ボールを蹴る、取られたら取り返す、…。れを見せてくれるのを楽しみにしている。そこでディフェンスコーチとしていい経験を持つジョンとは、すでにディフェンスのプランについてスカイプ会議などをおこなっている。ディフェンスがもっと向上すると思います」
会見中話題に挙がったトレーニングスコッドの創設と同時に、2018年のトップリーグの規模は縮小される。各トップリーグクラブに所属の代表候補がトレーニングスコッドの管理下に置かれる期間中も、その給与や年棒などはクラブを保有する各企業から出されるはずだとある協会関係者は言う。
抜本的な改革の背景について、薫田強化委員長は、東芝相談役でもある岡村正・日本ラグビー協会会長が各企業へ説明に回ったと証言。この国の楕円球界に携わる人たちがスクラムを組んだ格好のなか、ナショナルチームのかじ取り役への期待は高まるばかりだ。