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笑いを取り巻く、笑えない状況

中西正男芸能記者
割引セールのボードの横で店先に立つ笑福亭仁幹さん

 9月19日、プロ野球やJリーグで入場者の上限が従来の5000人から収容人員の50%に緩和された。徐々に活気を取り戻しつつもあるが、劇場など室内で“密”が懸念される空間では依然苦しい状況が続いている。さらに、劇場のみならず、これまで劇場ばりに客に笑顔を提供してきた周辺の店舗でも厳しい状況は変わっていない。今回、2つの事例を取材した。

「確実に倒産します」

 大阪・なんばグランド花月(NGK)前に店を構える「吉本キャラクターカステラ人形焼」。同店のオーナーは落語家の笑福亭仁幹さんだ。

 1998年、落語家として活動しつつ“吉本ギャグキーホルダー”を手掛け、200万個以上を売り上げた。その後も“吉本キャラクターゴルフボール”を50万個以上販売するなど、ヒット商品の仕掛け人として次々に事業を展開していき、06年からはタレントをかたどった「―人形焼き」の店を出し、NGKの土産物売り上げ1位を記録する人気を誇ってきた。

 しかし、コロナ禍で3月2日からNGKが休業となり売り上げが激減した。

 「ウチの店の売り上げの7割は、NGKにお越しのお客さんなんです。なので、劇場にお客さんがお見えにならないと、もうそれだけで劇的に売り上げが下がります。これまで、一番売り上げが下がったのが10年ほど前に“豚インフルエンザ”があった時で、その時に1日の売り上げ13200円というのが最低記録でした。でも、今は1日に1万円売れたらいい方。前年比およそ95%減です。このままでは、年内に確実に倒産します」

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土産物の特性

 コロナ前は年中無休で、ゴールデンウイークなどいつも以上に劇場がにぎわう時期には「朝から晩まで行列が途切れる時間が1秒もなくて、1日の売り上げが100万円を超える時もありました」という状況だっただけに、今は比べるべくもない状況となっている。また、コロナならではの情勢がさらにダメージを深いものにしているという。

 「県をまたいでの移動が制限される中、NGKに来ていただく方のほとんどが大阪のお客さんなんです。これまでは中四国、九州からのお客さんも多くて、そういった方々は『せっかく大阪に来たんだから』とたくさん買ってくださった。今はそれがないので、お客さんの数以上に売り上げが厳しくなっているんです」

 スタッフも通常時の12~13人から2人にまで減らし、営業日も土日祝に絞りこんだ形にしているが、それでも月に約300万円は固定費がかかる。

 「こんなん言うのもナニですけど、事務所のセコムも解約しましたし、細かい話、スタッフが飲むためのウォーターサーバーも置くのを辞めました。できる切り詰めは全部やってますが、せめて今年のうちに50%減の水準まで戻らないと、もうどうしようもありません」

 通販で人形焼きを割安販売したり、吉本新喜劇座長のすっちーら芸人仲間がツイッターで宣伝したりもしてくれているというが、劇的な回復は見込めず。クラウドファンディングによる支援や新商品開発など、あらゆる手段をとって何とか凌いでいるのが現状だという。

「何かやらなくては」

 また、大阪・天神橋筋商店街にある飲食店「べろべろばあ」でも、コロナ禍で大きなダメージを受けている。

「べろべろばあ」を経営する白尾克己さん
「べろべろばあ」を経営する白尾克己さん

 「ダウンタウン」が司会を務め、伝説的な人気を誇ったMBSテレビ「4時ですよ~だ」(1987年から89年)などで放送作家をしていた白尾克己さんが経営する店だ。約20年前に放送作家から飲食の世界に飛び込み、9年前に同店をオープンさせた。

 土地柄、近くにある上方落語の定席「天満天神繁昌亭」で落語会をした落語家の打ち上げ場所としても頻繁に使われ、昔からの付き合いで笑福亭鶴瓶や「トミーズ」雅らが訪れる店としても知られている。

 「ウチの店は1階のカウンターが9席、2階のスぺ―スが30席。2階部分で、繁昌亭や近くのラジオ局『FM802』などの打ち上げをしてもらうのが売り上げの5割ほどを占めてたんです。ただ、今のご時世、なんとかイベントはお客さんの数を減らしてやったとしても、みんなでワイワイやる打ち上げは避ける傾向が非常に強い。そんな流れが重なり、コロナ前の売り上げを100とすると、今は20くらいです」

 なかなか好転しない現状を前に「何かやらなくては」と始めたのがYouTubeチャンネルだった。以前の仕事のノウハウや人脈を生かし、9月10日から「BBちゃんねる」を立ち上げた。

 中身は「とんぺい焼き」など同店の名物メニューを調理する動画や、天神橋筋界隈にゆかりのある人物にインタビューをする“天神橋筋経済学”などを軸に構成した。

 「とんぺい焼きを作る動画を見て、動画アップ翌日に3人が食べに来てくれました。店の2階をYouTubeのスタジオとして使っているんですけど、これが意外といい感じでハマりまして。鶴瓶さんの番組が『A-Studio』(TBS)なので、こちらは『B-Studio』ということにして(笑)。もちろん、大変なことがほとんどなんですけど、そうやって新しいものが見つけられたのはプラスだし、なんとか、しんどいだけでなく、一つでも笑えることを見出せればと考えています」

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(撮影・中西正男)

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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