なぜ、線状降水帯は予測できないのか
今月から気象災害を防ぐ取り組みに「顕著な大雨に関する気象情報(線状降水帯発生情報)」が加わる。一方、線状降水帯の予測は不十分なまま。一つ一つの積乱雲が階層構造を形成する過程が予測できないからだ。
豪雨の約7割が線状降水帯で
次々と発生する積乱雲が列をなし、3時間以上にわたってほぼ同じ場所に停滞する線状の降水帯を「線状降水帯」と呼びます。台風による直接的な大雨を除き、集中豪雨の7割が線状の形状を持つことが知られています。
線状降水帯がテレビで頻繁に使われるようになったのは2014年8月の広島豪雨からです。それまでは著しい大雨被害を「集中豪雨」と表することが一般的でした。
雨雲が停滞すると線状になることは以前から知られていて、気象学の教科書にも書かれています。線状の降水帯は特別な雨雲ではなく、気象現象としてはありふれたものです。大規模な豪雨災害が発生するたびに線状降水帯が取り上げられるようになり、今では豪雨の代名詞となった感があります。
緊迫感を伝えるねらい
主な気象災害を防ぐ取り組みとしては(運用開始年度順に)2005年「土砂災害警戒情報(鹿児島県から)」、2013年「大雨特別警報」、2019年「大雨警戒レベル」があります。そして、今月17日(予定)から新たに「顕著な大雨に関する気象情報(線状降水帯発生情報)」が加わります。
気象庁は顕著な大雨に関する気象情報を「非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている状況を線状降水帯というキーワードを使って解説する情報」と説明します。その背景には大雨特別警報を待つことなく避難して欲しい思いがあります。豪雨を引き起こす原因として、社会的に浸透している線状降水帯を使って、このままでは危ないという緊迫感を伝えることにしたそうです。
しかし、避難できない状況も
気象庁が発表する気象情報は激しい気象現象を予測して、災害が発生する前に警戒や注意を呼びかけるものです。つまり、予想(未来)の情報です。しかし現在、線状降水帯を十分な確かさで予測することはできません。そのため「発生しました」という実況(過去)の情報となったのです。
実況(過去)の情報となったことで、問題が露わになりました。顕著な大雨に関する気象情報(線状降水帯発生情報)が発表されたときにはすでに避難できない状況になっている可能性が高いことです。
なぜ、線状降水帯は予測できないのでしょう
台風予報のようにとはいかないまでも、雨が弱いうちに、暗くなる前に、線状降水帯が発生することが分かれば、被害の軽減や安全な避難に役立ちます。線状降水帯の予測が難しい理由の一つに線状降水帯の構造があります。こちらは線状降水帯の階層構造を図にしたものです。
線状降水帯はそれだけで一つの雨雲ではありません。実は大きさ10キロ程度の積乱雲が複数集まって、大きさ50キロ程度の積乱雲群を作り、さらにこの積乱雲群が複数集まって、大きさ200キロ程度の線状降水帯を形作っています。つまり、積乱雲の層が3つあるのです。
さらに、積乱雲の寿命は大きさで決まります。一つ積乱雲の寿命は30分くらい、それが積乱雲群となると1時間以上になり、そして線状降水帯では3時間以上になります。
線状降水帯を的確に予測するためには一つ一つの積乱雲が階層構造を形成する過程を精度よく予測することが必要です。
今の予報技術では線状降水帯の階層構造がぼやけてしまい、線状降水帯の特徴である激しい雨を表現できません。そのほとんどがよくある雨雲になってしまうのです。
線状降水帯の予測ができるようになるのは早くて2030年頃で、発生がわかると言ってもわずか一日前です。線状降水帯には一筋縄では行かない難しさがあります。
【参考資料】
加藤輝之、2017: 第3章大雨の発生メカニズム、図解説中小規模気象学、気象庁、80-111.