名古屋市の池に浮かんだ「死んだ野良猫」次々発見...【動物の法医学】ってあるの?
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公園を歩いていると、ベンチで猫が昼寝をしている風景を見ることもあります。「野良猫は、こんなのんびりできていいなぁ」と思っていませんか。ところが、名古屋市名東区の緑地公園で、以下のようなおぞましい事件がありました。
FNNプライムオンラインによりますと、池に浮かんだ野良猫の死体が次々と発見されたということです。3月に入ってから、少なくても10匹はいるそうです。この猫たちのことを思うといたたまれない気持ちになりますね。野良猫は、残酷な環境で生きている子もいるのです。
警察は何者かが故意に野良猫を殺した可能性があるとみて、動物愛護法違反の疑いも視野に調べているとあります。
人には法医学というものがあります。犯罪などが起こった場合にも司法解剖や行政解剖といった措置がとられます。人の変死には、行政の中に、検死のシステムがあります。死因を究明することで、住民の不審、不安を一掃し、死者の生前の人権を守り社会秩序を維持するものです。
一方、このような目に遭った野良猫はどうなのか?動物の法医学はどうなっているのか?を、今回は見ていきましょう。
私は法律の専門家ではありませんが、臨床をしていて、野良猫の変死について相談されます。それで、現実はどうなっているのかをお伝えてします。
池に浮かんだ「死んだ野良猫」次々発見…公園で見つかった死骸
名古屋市名東区の公園で起きた野良猫の変死について、もう少し詳しく見ていきましょう。
この公園には池があり、猫が次々と浮かんで亡くなっていたということです。そのような猫は3月に入ってから10匹はいるというものです。公園には、猫用のエサの袋が散乱していたといいます。不可解な点は以下です。
□猫は水が嫌い
一般の野良猫は、そもそも泳ぐことが嫌いより何より「水」を苦手とする子がほとんどです。ノネコに近いベンガルは水が好きだそうですが、そう多くはありません。猫は水が得意でない理由は、以下です。
•猫の出身である砂漠は昼と夜の寒暖差が激しい
家猫の祖先は、砂漠の出身なので、寒くなると急激な体温の低下が起こり、命にかかわるので、被毛が濡れないように水が嫌いになっています。
•猫の被毛には脂分が少ない
犬は、ブルブルとすると、水が飛んでいきますが、猫は、それをしても水分は残ります。つまり撥水性が弱いのです。
このようなことから考えると今回の猫は、自分で池に入ったわけではなく、何者かに投げこまれたか、苦しくなり意識がなくなり誤って落ちたと思われます。野良猫が池に浮いているということは変死だと推測されますね。
□急に複数匹いなくなる
ボランティア団体の人の話では、この事件が起こる以前は、彼女たちが野良猫のお世話にいくと、猫がわっと寄ってきたけれど、2月くらいからあまり来なくなったということです。
ボランティアの人たちは、不妊去勢手術をしながら、野良猫の世話をしている人ですが、一般的には、いわゆる「餌やり」さんが来ると野良猫は、どこからともなく複数匹、現れます。筆者が大阪で「餌やり」さんが来た現場を目にしたとき、どこからともなく野良猫たちは集まってきて、「餌やり」さんが来るのを待っているのだな、とわかります。
それなのに、野良猫の世話をしてくれるボランティアの人が来ても野良猫が現れないというのは、不可思議ですね。
科捜研は動くのか?
FNNプライムオンラインによりますと「警察は防犯カメラを設置するなどの対策に乗り出し、何者かが故意に猫を殺した可能性があるとみて、動物愛護法違反の疑いも視野に調べている」とあります。
このような場合は、警視庁および道府県警察本部の刑事部に設置される附属機関である科学捜査研究所、いわゆる「科捜研」が動いてくれるのでしょう。
ドラマ「科捜研の女」で沢口靖子さんが演じる榊マリコは、京都府警科学捜査研究所の法医研究員で、法医学者として事件を解決してくれます。
たとえば、ドラマで変死があれば、科捜研の榊マリは、ある事件の現場に出動したときは、以下のように調べています。
・死後2時間以内
・顎に薄い内出血
・索条痕鑑定をします
・爪に白いものが付着しているので、成分分析をします
など法医学的な立場から、遺体を検死していきます。
この名古屋の公園の野良猫は、死体もあるし、キャットフードの袋も散乱しているので、科捜研が動いてくれれば、死因はわかる可能性が高いでしょう。
実際は、そう簡単に警察は動いてくれないみたいです。他の野良猫の記事を読んでいても、虐待の疑いという言葉は、よく目にします。その後、どうなったかは、不明のことが多いですね。
事件に遭った野良猫は、無残にも殺されて死因を調べてもらえないと、浮かばれないですね。
動物の変死の原因究明は?
野良猫の変死の疑いがあれば、民間の動物病理解剖の研究機関に死体を持ち込むか、獣医大学があると病理解剖研究室にいくかになります。現実的には、なかなか難しいですね。
動物愛護法により、動物の虐待は、違反行為です。その犯罪を立証するためには、獣医学的な知見が必要です。
そのため、最近、「日本法獣医学研究会」というものが設立されました。動物の不審な状況の原因を多面的に解明することを目的としています。
動物虐待などがさらに残虐な犯罪へ発展する可能性も問題になっています。
地域社会の人たちが安全に暮らすためには、このような動物の法医学も必要な時代になってきているのです。
しかし、残念ながら、獣医学は進歩してきていますが、この法医学という分野はまだ、発展していません。
野良猫がこれだけ、虐待の疑いのある死に方をしているので、包括的に対応する受け皿が必要になってくるのでしょう。
動物の法医学の発展を
犬や猫は家族の一員と考えている人が多くいます。
野良猫がこのように虐待されているかもしれない事態は、許しがたいことです。このことを予防するためにも、私たちが、虐待に対する科学的な証拠を求める必要がありますね。
現実は、日本で獣医向けに毒物検査をしてくれるところはほとんどないと聞きます。
大学や獣医師の病理解剖者が、この未熟な動物の法医学を発展させていくことを切に望みます。そのためには、私たちが、この現状を知ることも大切ですね。野良猫にとって過酷な環境にならないように、住民の安全な生活のためにも。