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スカイレール廃止と高地住宅団地のこれから~公共交通機関を維持するための負担は誰がすべきなのか

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
日本でここだけだった交通システムだった「スカイレール」(画像・筆者撮影)

・新交通システム「スカイレール」の廃止

 広島市のスカイレールは、2024年4月30日の運行を最後に廃止されることが決まりました。正式名称は「広島短距離交通瀬野線」です。見た目はロープウェイに似ていますが、実際には三菱重工と神戸製鋼所が共同開発した日本唯一のシステムを持つ交通機関です。1998年8月に開通し、わずか26年で廃止されることになりました。

 スカイレールは、広島市中心部から東に約10キロの山間部にある「スカイレールタウンみどり坂」への交通手段として設置されました。広島駅からJR山陽本線で約20分の瀬野駅に設置されたスカイレールみどり口駅から、高台のニュータウンにあるスカイレールタウンみどり中央駅までの1.3kmを5分で結んでいます。途中には、みどり中街駅が設置されています。

 「スカイレールタウンみどり坂」は、JR瀬野駅の北側の山間部に大規模開発された住宅団地で、総面積約121ヘクタール、総区画数1,880区画、人口約7200人の規模です。JR瀬野駅と団地の中心部との標高差は約200メートルあります。スカイレールに乗ると、急な斜面を一気に上がり、窓からはニュータウンの家並みが見渡せます。    

 スカイレールは、このいわゆる高地住宅団地の住民の利便性を考えて、開発業者である積水ハウスと青木建設(現・青木あすなろ建設)などの出資によって設置されました。しかし、運営会社であるスカイレールサービスは、赤字が続いたことを理由に運行終了の方針を決定しました。

「スカイレールタウンみどり坂」は、高台に造成されている。(画像・筆者撮影)
「スカイレールタウンみどり坂」は、高台に造成されている。(画像・筆者撮影)

・バブル経済期に進んだ「高地住宅団地」の開発

 人口急増期であった1970年代以降、日本国内各地において住宅団地の造成が行われました。特に大規模な住宅団地造成においては、開発業者である鉄道会社などが住民の交通手段の確保のために、系列会社によって路線バスを運行するということが行われてきました。

 こうした開発手法は、阪急グループの創業者である小林一三氏の発想が元になっています。当初は、買収した地域に鉄道を走らせ、その後は、その鉄道の駅からバスやタクシーの運行によって、より広範囲の開発を進めてきました。

 第二次世界大戦後になると、中短距離の交通機関として、モノレールや新交通システムが登場しました。1981年の大阪市営の南港ポートタウン線や神戸市営の新交通ポートアイランド線、1982年には住宅造成会社の山万が千葉県にユーカリが丘線を開業していきました。そうした中には、1991年3月に開業し、わずか15年で幕を下ろした新交通桃花台線もありました。

 バブル経済期には、都心周辺部の住宅地価格の上昇に合わせて、郊外の山間部を造成し、住宅団地を開発することが行われました。住民たちは、大都市中心部から、鉄道で移動し、さらにその駅からバスなどで高台の住宅地に移動する必要がでてきました。その中でも標高差が大きい、こうした高地住宅団地への住民の移動には、バス以外にエレベーターやエスカレーター、さらにスカイレールのような新交通システムが導入されてきました。
 高台の住宅団地の移動手段として、斜行エレベーターが導入されたのは、1984年に住宅・都市整備公団(現在のUR都市機構)が神戸市の花山東団地に設置した「花山東グリーンエレベーター」が最初です。その後、斜行エレベーターは高台に造成された大型マンションや団地にも導入されていきました。その中でも、高低差が大きな代表事例の三つが、今回の広島市のスカイレールに加えて、次の二つです。

 1991年、積水ハウスが山梨県上野原市に、造成したコモアしおつにある高低差約100メートルを結ぶ「コモアブリッジ」には、大型エスカレーターと斜行エレベーターが設置されています。

 2001年、清水建設とJR東日本が山梨県大月市に開発したパストラルびゅう桂台では、「シャトル桂台」と呼ばれる高低差約100メートルの急斜面を登るモノレールが開業しました。しかし、新しいシステムを導入したこともあり、トラブルが相次ぎ、わずか5年で運行を停止し、その後、エレベーターに代替されています。

「コモアブリッジ」のエスカレーター。このエスカレーターを降りたところにJR四方津駅がある。(画像・筆者撮影)
「コモアブリッジ」のエスカレーター。このエスカレーターを降りたところにJR四方津駅がある。(画像・筆者撮影)

・運行負担金約20億円を取り崩し

 「コモアブリッジ」とびゅう桂台のエレベーターは、住民の負担金によって運行管理されています。一方、「スカイレール」は、積水ハウスが主要株主である民間企業によって運営され、利用者は運賃を支払う形態を採っています。

 「スカイレール」は開業以降、年2000万円近い赤字を出し続けてきました。その赤字も、実はこの土地を開発した瀬野川土地区画整理組合が、1998年の開業の際に支出した運行負担金約20億円を取り崩して軽減してきました。ところが、この運行負担金を2017年度に使い果たし、2018年度以降は赤字が毎年約1億円となり、ついに廃業ということになりました。

 当初、運行管理コストが他の新交通システムに比較して低価格であることを売りにしたスカイレールでしたが、新たなユーザーが現れず、補修や部品調達のコストも高額になってしまったことも負担を大きくしました。

 スカイレールの廃止後には、運行会社のスカイレールサービスが芸陽バスに委託し、電気自動車バスを平日には1日75往復、土日祝日には同67往復を運行することになっています。運賃は、スカイレールの大人170円から、EVバスでは大人200円に値上げされます。

 みどり坂に住む夫婦は、「スカイレールが無くなるのは残念だし、さびしいです。ただ、スカイレールの駅から、うちは少し距離があったので、バスの方が便利かもしれません。この地域は、まだ若い方が多く、一家に二台の車があり、移動は車が中心ですしね」と話しています。

 広島市内には、多くの住宅団地があり、その中には高齢化が進み、買い物難民問題や公共交通の維持問題が深刻化している地域も多くなっています。一方、「スカイレールタウンみどり坂」は、段階的に入居が進んだこともあり、高齢化率は非常に低い地域です。
 今回、スカイレールという公共交通機関が経営難から廃止になっても、開発業者である積水ハウスが大手企業であることもあり、代替するEVバスの運行が企業主導で行われます。

スカイレール廃止後は、EVバスが住民の足となる。(画像・筆者撮影)
スカイレール廃止後は、EVバスが住民の足となる。(画像・筆者撮影)

・いつまで造成、分譲した企業が負担してくれるのか

 大都市郊外の高地住宅団地の中には、高齢化が進み、通勤通学客が減少したことで、バス会社が路線を撤退し、公共交通機関が失われる地域も出ています。高齢者が増加し、運転免許を返上し、自家用車による移動ができなくなる一方で、公共交通機関が失われることで、買い物難民問題が一気に浮上することも多いです。高地住宅団地は、開発時に同世代の住民が入居することから、高齢化も同時に起こり、その影響は深刻です。

 ある大手私鉄企業の幹部社員は「高齢化が進む中でバスの利用客は減少しており、関係会社だからといって路線の維持を無理強いできない状態にまでなっている。造成、販売した責任をどこまで、いつまで負うべきなのか、といって買い戻すわけにもいかない。難しいところです」と話しています。スカイレールの廃止とEVバスへの転換は、造成から年数が経ち高齢化の進む他の高地住宅団地と比較すると問題は小さいと言えます。しかし、「スカイレールタウンみどり坂」でも20年後、30年後には、他地域と同様の問題が起きるでしょう。また、いつまで造成、分譲した企業が負担してくれるのかも、大きな問題です。

・交通機関の維持は、誰が負担すべきなのか


 先に紹介した事例では、施設の設置においては造成、分譲した企業が負担をしていますが、管理費に関しては住民負担となっています。
 「コモアしおつ」では、宅地の購入者は「コモアしおつ管理組合」に加入する必要があり、入居の際に管理費一時金100万円を支払い、さらに管理費を月額6,500円支払うことで、エスカレーターや斜行エレベーターを維持管理しています。
 また、「パストラルびゅう桂台」では、エレベーター施設管理費として月額4,500円支払う必要があります。

 使う使わない関係なく、地域住民が全体で公共交通機関の管理費を負担するという方法は、他地域でも導入可能でしょうか。一つの方法としては検討の余地はあると言えます。
 JR各社のローカル線の存続問題も同じく、地域の公共交通機関を維持するための負担を誰がすべきなのかは、極めて重要な課題です。高齢化と人口減少がさらに進むことが予想される中、こうした住民負担も難しくなった場合は、どうするのか。今後、地域社会の大きな課題になることは間違いないでしょう。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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