オランダ ホロコーストを効率的に進めた「ユダヤ人登録カード」公開:アンネ・フランクのカードも
第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが支配下の欧州で約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。ナチスドイツに支配されたオランダでもユダヤ人は差別・迫害され、多くのユダヤ人が収容所に移送されて殺害された。「アンネの日記」のアンネ・フランクもユダヤ人だったために、ナチスからの迫害を逃れてオランダのアムステルダムの隠れ家で約2年間、身を潜めて生活していたことでも有名。アンネ・フランクは密告されて1945年にベルゲン・ベルゼン強制収容所で病気で死亡した。
そのオランダで約16万人のユダヤ人や政治犯などの登録カードがオランダの赤十字社から提供されて、初めてオランダのアムステルダムにある国立ホロコースト博物館で来年から展示されるようになった(現在はパンデミックのため閉鎖中)。アンネ・フランクの登録カードも公開される(下図)。
登録カードは2012年からデジタル化も進めており、生存者や移送された人の家族、研究者などは必要に応じて今までも閲覧することができた。登録カードには名前、住所、生年月日、結婚歴、家族構成がタイプされており、収容所への移送日が赤鉛筆で記されている。オランダに在住していたユダヤ人は1941年から登録カードで登録されていた。今までオランダ赤十字が管理していたが、4年間にわたってオランダ国立戦時資料研究所が当時の赤十字社がユダヤ人を援助できたかの調査を行ってきたが、その結果「オランダ赤十字社は当時、ユダヤ人を救うことができなかった」という調査結果が2017年に明らかにされ、当時のユダヤ人迫害に対して赤十字は「沈黙していました」と謝罪していた。
オランダのユダヤ文化センターのエミリー・シュリバー氏は「ホロコースト時代のユダヤ人登録カードが実際に展示されるようになったことは、当時の犠牲者の追悼になります。赤十字社が当時、ユダヤ人を支援してくれなかったことはとても残念ですが、今回、登録カードを提供してくれたことには歓迎します」と語っていた。赤十字社も「登録カードは歴史のアーカイブとしての価値があるだけでなく、ホロコーストの歴史を忘れないためにも重要です」とコメントしている。
ナチス占領前のオランダには約14万人のユダヤ人が住んでいたが、そのうち107,000人が収容所に移送されて、生き残ったのは5,200人のみだった。約24,000人のユダヤ人が隠れていたが、約8,000人が密告されて見つけられてしまった。
ユダヤ人迫害のための選別に貢献したパンチカードと技術
まだコンピュータがなかった時代に、ナチスドイツはIBMの提供したパンチカード技術を使い、ドイツ国民の名前、住所、家系、銀行口座などの情報がすばやく参照できるようにした。その技術で、例えば同性愛者を「ナンバー3」、ユダヤ人を「ナンバー8」、ジプシー(ロマ)を「ナンバー12」などと区分していた。このようにしてユダヤ人を峻別していた。エドウィン・ブラック氏の著書「IBMとホロコースト:ナチスと手を組んだ大企業」(小川京子訳 柏書房 2001年:原著は「IBM and the Holocaust: The Strategic Alliance Between Nazi Germany and America's Most Powerful Corporation」)にその詳細が記されている。
住民登録や資産登録だけではなく、パンチカードによる管理は他にも多数あった。例えば、食糧配布はデータベースに基づいて決められ、ユダヤ人だけを飢えさせることができた。強制労働もパンチカードによって確認、割振り、管理された。さらにパンチカードは列車を定刻通りに運行させたり、積み込まれた人間を登録したりするのにも使われた。IBMの精密なホレリスシステムはナチス支配下のヨーロッパを走る大半の鉄道網を精確に運行させた。ヨーロッパ各地に日々、何両の貨車と機関車を配備すればよいかを知るには、ホレリスの計算能力が必要だった。パンチカードにより、全ての貨物車両の正確な位置、積載能力、可能な最大効率の運行スケジュールを把握できた。
「IBMとホロコースト:ナチスと手を組んだ大企業」によると、1941年の1年間でIBMがアメリカからオランダに輸出したパンチカードは1億3,200万枚に達した。そしてオランダのユダヤ人の強制収容所送りを決定したのは、ダビデの星という外見的な特徴ではなく、システムによって作成・分類された80列のパンチカードだったと述べている。また同著によると、当時はユダヤ人だけでなくオランダ人もカードへの登録が必要だった。ほとんどのオランダ国民はカードへの登録に対して憤然と非難の声を上げたがユダヤ人は、抵抗しても無駄であることを理解していたから命令に従ったそうだ。
▼アンネ・フランクの登録カード
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