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安全性に問題ないが9社が次々自主回収決定「塩にヨウ素添加」法律遵守とはいえ、わさび好きにとっては涙

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(写真:アフロ)

東海澱粉が中国から輸入した塩蔵茎わさびに使われた食塩がヨウ素添加だったため、納入先企業9社が、その茎わさびを原料として製造した商品を、次々自主回収している。日本の食品衛生法ではヨウ素を添加した塩(ヨウ素化塩)は使用が認められていないためだ。とはいえ安全性には問題ない。

東海澱粉株式会社への取材

東海澱粉株式会社に取材したところ、次のような回答だった。

ー回収をしないといけないのでしょうか。

東海澱粉:弊社は、茎わさびの原料を輸入している。食品衛生法上、ヨウ素化塩という塩は、日本では認められていない。静岡市保健所と協議して、自主回収することを決定しました。

ーただ、安全性には問題ないのですよね?

東海澱粉:一般的に食する分には、ミネラルの一種なので問題ありません。

ー私はかつて食品メーカーに勤めていて自主回収を経験しました。乳業会社の事件で自主回収があまりに相次いだ時期、厚生労働省は、自主回収の判断基準として、消費者の健康被害があるかないかで決めるべきでは、ということを挙げていました。今回の件は、安全性に問題ないので、自主回収の必要はあるのかなと思ったので。

東海澱粉:日本の食品衛生法ではヨウ素化塩は食品添加物としては認められていない。塩蔵茎わさびに使用されたのは事実であり、静岡市保健所と協議し、自主回収することを決めました。

ーもったいないといえばもったいないですよね。

東海澱粉:まあ、はい。最終商品の流通販売者が自主回収の当事者となるので、事業者様で判断して動いていただくことになります。

厚生労働省監視安全課への取材

次に厚生労働省の監視安全課にも取材した。

ーヨウ素化塩は、食品衛生法上は認められていないので仕方ないものの、安全性には問題ないものです。かつて厚生労働省では、自主回収するか否かの判断基準として、消費者の健康被害があるかどうかで決めるべき、と発信されていたと思います。どうしても回収の義務があるのでしょうか。

監視安全課:自主回収や回収命令については、自治体が命令、判断することになっています。すでに自治体には相談しているのですよね?

ーそうです。厚生労働省としては、自治体と企業が決めることなので、それにおまかせする、という感じでしょうか。

監視安全課:おまかせ、というとあれなんですけど、判断するのは自治体になってしまうので・・・。自治体から相談があれば、相談にのるが、こうしなさい、と命令することはない。今回の件は、自治体からも相談はきている。回収するかどうかという話になっている。中間製品か最終製品かで変わってはくるが、まず保健所に相談いただき、保健所が判断に迷うようなら、厚生労働省にもあがってきますので。

ー各企業が管轄の保健所に相談して決める、ということなのですね?

監視安全課:そうですね。判断するのが自治体になってしまうものですから。

ー「安全性に問題がないから、ちょっと考えたらどうですか」と厚生労働省から言うことはないのですね?

監視安全課:そうですね。

食品関連企業の品質保証の責任者にも取材した

次に食品関連企業の品質保証部門の責任者にも取材をした。

日本では、海藻等からヨウ素を摂取するので必要ありませんが、海外では、海から遠い地域でヨウ素が不足するとして、食塩にヨウ素の添加を認めています。たとえばタイでは、市販用食塩に添加を義務付けています。そのような、国内外の添加物の基準の違いを理由にして、今回、東海澱粉の原材料を使用した商品すべてが回収となっています。

この判断をしたのは静岡市保健所で、輸入者である東海澱粉がその旨を納入先に伝達して、回収となっているようです。

海外ではヨウ素の使用を認めているくらいですから、安全性には問題ありません。添加物は、必要が無ければ認可しないのは事実です。でも、海外で安全性を認めているのに「ルール違反だから回収しろ」という指導はどうなのでしょうか?もったいない限りです。わさび好きな人にとっては、涙の回収でしょう。

おそらく、この先も、自主回収は増えると思います。報告を受けて、躊躇していた企業も、他社の動向を見て、「うちの会社も回収しなくては」と動き出すでしょうから。

このやりとりをしている間にも、回収を発表した企業が増えた。

「食品添加物の、国内外での(認可の)差が食品ロスにつながることも知らしめてほしい」とのことだった。

法律遵守で致し方ないにせよ、健康被害の有無が自主回収の判断基準では?

法律が第一に判断基準になることは当然、理解できる。とはいえ、今回、含まれていたのはミネラルだ。東海澱粉株式会社のリリースにも次のように「健康への影響は極めて低い」としている。

食塩へのヨウ素添加は、中国を初め、アメリカ、スイス、オーストラリアなどで、人体へのヨウ素不足を解消するため添加物として認められています。しかし日本では海産物など高ヨウ素食材を多く摂取する食習慣があるため、食品添加物としては認められていません。

当該品の製造工程で使用する食塩の配合は8%で、ヨウ素の残留量は極めて微量です。また当該品は加工を前提とした食品原料であるため、単体で人が摂取することはありません。そのため当該品を含んだ加工食品による健康への影響は極めて低いと考えられますが、食品原料として食品衛生法に定める規準から外れるため、出荷停止と自主回収することといたしました。

現時点では、どの企業の対応も、法律を順守しており、否定されるものでも非難されるものではない。とはいえ、かつて厚生労働省は「資源活用の面からも、自主回収の判断基準は消費者の健康被害の有無におくべき」としていた。2000年に乳業メーカーの食品事故が発生し、どの食品企業も、消費者の健康被害の有無を問わず、自主回収を連日繰り返していた時期のことだ。資源活用の観点からは、本当にもったいない回収が多かった。当時、食品メーカーに勤めていた筆者も、そのあおりを受けていた。

厚生労働省は「自治体の判断にまかせる」だけでいいのだろうか。また、保健所は「回収して廃棄」の判断でよしとするのだろうか。

SDGs12(国連広報センター)
SDGs12(国連広報センター)

自主回収を実施している企業

9月14日18:14時点で自主回収を実施している企業と商品名、自主回収の理由は次の通り。他にも今回の原料を使っている大手企業が複数社あるので、横並びで「うちも回収」と増える可能性がある。

はごろもフーズ「パパッとふりかけ わさび、ほか3SKU」国内では未認可の添加物(ヨウ素)を加えた塩(ヨウ素化塩)が使用されていることが判明したため

永井海苔「弊社ギフト製品 OJ-30N 、 NA-B 」構成品のわさび茶漬けに海外の一部では認可されており、日本では未認可添加物であるヨウ素が含まれた食塩(ヨウ素化塩)が使用されているとの報告があったため

日本海水「のりわさびふりかけ、わさびふりかけ」日本では未認可添加物であるヨウ素が含まれた食塩が使用されていることが判明したため

おむすびころりん本舗 「わさび茶漬け」原材料の一部である冷凍塩蔵わさびに未認可添加物であるヨウ素が含まれた食塩(ヨウ素化塩)が使用されていたため

厚生産業「ベジレンド即席わさび漬の素、コミローナわさび漬の素」未認可添加物であるヨウ素が含まれた食塩(ヨウ素化塩)が原材料「わさび茎」の加工工程において使用されていたことが判明したため

三幸産業「まぜ×かけ わさび(ふりかけ) 」原材料に日本では未認可の添加物(ヨウ素が含まれた食塩(ヨウ素化塩))が使用されていたことが判明したため

ハナマルキ「香り楽しむおみそ汁わさびと海苔 5食」ヨウ素が含まれた食塩(ヨウ素化塩)が使用されていたことが判明したため

合食「たこわさび、蛸わさび、たこわさび(めかぶ入り)、たこわさび(きざみわさび入り)」ヨウ素が含まれた食塩(ヨウ素化塩)が使用されていたことが判明したため

丸美屋食品工業 「牛わさびふりかけ」使用している原材料(本わさび茎)に、 日本では未認可添加物であるヨウ素を含んだ食塩(ヨウ素化塩)が使用されているため

参考資料

輸入「冷凍塩蔵茎わさび」におけるヨウ素添加食塩の使用に関するご報告(東海澱粉株式会社、2021年9月13日発表)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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