山田宏氏の「落書き」発言にYahoo!コメントの人々はなぜ怒っているのか
その怒りは正当か。山田氏は本当はどんな発言をしたのか。ニュースを正しく解釈することは、難しい。
■山田宏氏の発言はひどい?
3月31日夜、Yahoo!ニュースのトップに出たニュースです。
保育園落ちたブログ 山田宏・元次世代の党幹事長「生んだのはあなた。育児は親の責任」と発言(産経新聞)
Yahoo!ニューストップの見出しは、「保育園ブログは落書き 元議員」となっています。
この記事には、多くのコメントがつけられていますが、ほとんどが否定的なコメントです。
■何が怒りを生んでいるのか
たしかに「生んだのはあなた」と言う表現は、保育園増設を求める親を非難し、子育ての責任を親に押し付けているように感じさせます。保育園に落ちたことを嘆く、か弱き一母親のブログを、「落書き」と侮辱した言葉に続いての発言と受け止めれば、そう解釈されても仕方がありません。特に女性が怒るのもわかります。
そのように発言を見るなら、Yahoo!コメントの皆さんでなくても、怒りを感じるでしょう。さらに、個人ブログを軽蔑したかのような発言は、ネットユーザーにとって何となく不愉快かもしれません。
「「行政改革をして、(浮いた)費用で子どもが増える国にしたい」と強調した。」という上記記事内の表現も、山田氏がいかにも保育園建設、子育て支援を軽く見ているような印象を与えます。
記事の中では、山田氏を批判するような直接的表現は一切ないのですが、読者にそのように感じさせる記事になっているようには感じます。
■その怒りは正当か
記事は、決して山田氏を一方的に批判しようとはしていないでしょう。
子育ての第一責任者は親であり、「その上で、きちんと保育園の整備を」を山田氏は述べていると記事にもあります。
Yahoo!コメントの一部の人が誤解しているように、保育園などどうでもよいとか、政治家に保育園を作る責任はないとか、保育園に子どもを預けるのは育児放棄だなどとは、まったく言っていません。「きちんと保育園の整備をしていくことが大切」と言っています。
誤解によって怒っている方もいるかと思います。ただ、この記事が誤解を生み出しやすい書き方をしているとも感じます。また、誤解ではなく山田氏の発言を正論としつつも、お金持ちの政治家の発言として反感を感じている人もいるようです。
私達は、しばしば発言の内容自体ではなく、だれがどのような表現で語ったかによって、賞賛したり怒ったりするものです。
Yahoo!コメントの中には、このようなものもありました。
杉並区長時代に、杉並区を子育てをしやすい区にしてくれたのも事実。
決して子育てに理解のない人ではないはずなんだけど、どうしたのだろうか。
■山田宏氏は本当はどのような発言をしたのか
Yahoo!ニュースは、「詳しく知る」の欄で、「会合での発言要旨」として、「“保育園落ちた日本死ね”というような、まぁ、落書きですね」自民・山田氏の発言要旨」という産経新聞の記事を紹介しています。
この発言要旨記事の見出しも、見出しだけ見ると怒る人が多そうですが、ただ記事の内容を読むと発言への印象は変わるかと思います。
保育園に関して、区長時代に成果を上げ、国政においても「先頭にたって頑張りたい」と発言しています。保育園問題に消極的どころか、積極的と感じます。
予算に関しても、費用がかかるから行革をと述べていて、保育園を軽く見ているとは感じません。
「この言葉」が何を指すのかははっきりしませんが、「日本死ね」を指しているでしょうか。山田氏は、「日本死ね」という表現に対する批判として、発言しているように感じます。
■メディアリテラシー
ニュースをきちんと読むのは難しいものです。記事が明らかに間違っていたり、誹謗中傷の表現があればわかりやすいのですが、そうではなくて微妙な文章表現によって読者の印象が左右されるとなると、正しくニュースを見るのはとても難しいと思います。
発言要旨記事の全文を読んでも、それでも怒りを感じる人はいるでしょう。しかし、最初の記事を読んだときの印象とはずいぶん異なると感じる人も多いでしょう。
発言のどの部分を切り取り、どう表現するか、どんな見出しをつけるかによって、読者、視聴者の意見を左右することもできるということでしょう。
おそらく、山田氏はこの後弁明し、そのような意図はなかったが、誤解を与えたとしたら申し訳ないといった発言をなさるのでしょう。ただ、いったん着いてしまったイメージを取り除くのは、簡単ではありません。
あとは、この産経新聞の記事が掲載され、Yahoo!ニュースがトップに取り上げ、たくさんの批判コメントがついたことを、他のメディアがどう報道するかです。そして、私達のメディアリテラシーが問われています。
■記事へのオーサーコメント
最初の産経新聞の記事に関して、次のようなオーサーコメントをしました。
「日本死ね」のブログを書いた方は、メディアの取材を受けて、「独り言のつもりで書いた」と言っています。落書きという表現はどうかと思いますが、社会に向けての主張というつもりはなかったようです。
たしかに、子どもを育てる第一の責任者は親であり、その自覚を持つべきです。保育園は、児童福祉法によって、何かの理由で「保育に欠ける」乳幼児を保育することを目的としてます。
山田氏の発言が根本的に間違っているとは思いませんが、このように言い放った表現にされると、誤解を与えるでしょう。
子どもを育てるのは親の役割であり、その親を支えるのが社会の役割です。子育ては母親だけ、両親だけの仕事ではありません。だから、大昔から人は集団で暮らし、みんなで子育てをしてきました。
企業も政治家も、そして社会全体で、みんなで支える体制作りがあり、安心して子育てできる環境があってこそ、女性は子どもを産めるのでしょう。
(碓井真史 | 2016/03/31 19:41 新潟青陵大学大学院教授(社会心理学)/スクールカウンセラー
■補足:保育園とは
保育園は、本来「保育に欠ける」子どもを保育する福祉サービスですが、現在では実質的に女性が仕事を続けるための市民サービスになっていることも、問題を解決しにくくしていることの1つでしょう。