旧統一教会はさらに追い込まれる!首相の答弁で、念書、ビデオ撮影の行為は、むしろ勧誘の違法性を示す。
「法人等が寄付の勧誘に際して、個人に対し、念書を作成させ、あるいはビデオ撮影をしているということ自体が、法人等の勧誘の違法性を基礎づける要素の一つとなる」
11月29日の衆議院予算委員会にて、岸田首相は答弁しました。
これにより、旧統一教会が献金行為の正当性を主張するために使っていた手法の一つが崩れ去ろうとしています。
以前に教団側の会見で「民事訴訟の数は減っている」それゆえ「2009年のコンプライアンス宣言の徹底で、献金トラブルはなくなってきている」という主張をしてきたことがあります。しかしその裏には、こうした念書、ビデオ撮影による口封じともいえる手口があったことがわかります。
今のままの救済新法では、救える人はごくわずか
現行の被害者救済新法では、救える人が限られており、本当の意味で被害者を救うものにはなっていません。すでに述べてきたように、一般の人に壺などを売る霊感商法は過去のものとなり、今は信者本人に多額の献金をさせる手法に変わっています。
同法案では「法人が寄付の勧誘をする際に、個人を困惑させてはならない」としていますが、信者らが献金をする際には、自主的に喜んで寄付を捧げるように仕向けています。信者自身が困惑して、不安を煽られて献金することは、ほぼありません。
教団の正体を隠されてのマインドコントロールが根底にある
その理由は、信者らは教団の正体を隠されたまま教義を教えられて、霊の恐怖などを心に埋め込まれ、入信させられているからです。つまり、人生を左右するような宗教(信じるもの)を選ぶという個人の自由意思が侵害された形で、信者になっているわけです。マインドコントロールされた延長線上に、高額な寄付や献金があります。その前提が抜け落ちたままの救済法では、被害者を本当に救うことはできません。
その後、寄付に勧誘する際の配慮義務として「自由な意思を抑圧し、適切な判断をすることが困難な状況に陥らせない」「寄付者や配偶者、親族の生活の維持を困難にさせない」「勧誘する法人名を明らかにし、寄付される財産の使途を誤認させない」との規定を設けました。
勧誘時に自由意思抑圧禁止「配慮」 旧統一教会を巡る救済新法要綱案(毎日新聞)
配慮義務を入れることで、被害の実情を反映させようとする意図は感じられますが、まだ真の救いには程遠いものといえます。
被害事例を通じてみえてきたこと
29日の衆議院予算委員会にて、立憲民主党の山井和則衆院議員から、被害者救済法案について、家族として被害を受けた橋田さん・中山さん(仮名)の事例をあげながら、一般論として被害がどこまで救済されるのかの質問がありました。
「橋田さんの妻が入信して、多額の献金をすることで家庭が崩壊し、息子さんは自ら命を絶ち、お亡くなりになりました。妻は1億円もの献金をしましたが、外形的には困惑せず、自主的に献金されています。入信した当初は不安を煽られ、困惑して入信しましたが、その状態が続いたなかで、1億円もの献金をして家庭が崩壊したわけです。(多額の)献金をする段階では『自らは困惑していない』と認識するなど、適切な判断ができずに献金をしています。このようなケースは政府案の対象になるのでしょうか」
岸田首相の答弁です。
「入信した当初に不安を煽られ困惑して、その後は自分が困惑しているか判断できない状態となり献金を行っても、その状態から脱した後に、本人が主張して取消権を行使することが可能な場合がある。そのような場合に対応するため、霊感等による知見を用いた告知による取り消しは、追認できる時、不当な勧誘をうけて困惑して行った寄付だったと気づいた時から、3年間は取り消すことができる」
献金時には自主的に行ったつもりでも、実は入信当初に「地獄に落ちる」などの不安に煽られた事実に気づけば、その献金は取り消しの対象になるということです。
念書に署名をさせる行為についての答弁
次に、中野さん(仮名)の高齢の母親が献金をした事例での質問がなされました。
母親は、2005年から2010年までに約1億円もの献金をしています。2015年8月に娘である中野さんが帰省した時、母から旧統一教会員であることを告げられて、被害が発覚。その後、教団に対して、返金を求める裁判を起こします。しかし一審、二審とも敗訴します。それは巧妙な教団側の対策ゆえでした。
教団側は中野さんの母親に対して、事前に念書に署名させて、ビデオに撮っていました。
山井議員から、念書が読み上げられます。
「私がこれまで世界平和統一家庭連合に対して行ってきた寄付ないし献金は、私が自由意志によって行ったものであり、貴団体職員ないし、会員等による違法・不当な働きかけによって行ったものではありません。よって、貴団体に関して、欺罔・強迫、公序良俗違反を理由とする不当利得に基づく返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わないことをここにお約束します」
この念書は15年11月の日付であり、まさに母親が娘に教団への高額献金を打ち明けてから、しばらくしてから署名をさせられています。
同議員によると、この形はほぼ定型になって全国で行われていたとのことです。献金の返還が起こりそうな信者たちに「念書を書かせることで、本人の意思で献金したことにさせており、その結果、地裁、高裁で敗訴することになった」と指摘します。
同議員からの質問です。
「入信当初に不安を煽られ、困惑して、その状態が続いたなかで、1億円以上の献金をしたが、献金の段階では困惑はしていません。自主的に献金した旨の念書に署名させられた場合、政府案の救済の禁止や取り消しの対象になるでしょうか」
岸田首相は「寄付の勧誘に際しての法人等の不当勧誘行為により、個人が困惑した状態で取消権を行使しないという意思表示を行ったとしても、そのような意思表示の効力は生じないと考えられる。
むしろ、法人等が寄付の勧誘に際して、個人に対し、念書を作成させ、あるいはビデオ撮影をしているということ自体が、法人等の勧誘の違法性を基礎づける要素と一つなり、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求が認められやすくなる可能性がある」との認識を示しました。
救済法が施行されても、困惑した状態での献金ではないことを、教団側が念書やビデオを撮って「自主的に献金した」との正当性を訴えてくる可能性がありました。しかしそれをすれば、かえって違法性を示す要素になるとの認識を首相が示したことは、被害を増やさないためにとても重要です。
恐怖、義務感、使命感の思考の流れで、信者らは献金する
「信者の思考パターンの変化」と題した、デビルさんという旧統一教会2世の作成したボードを示しての質問です。
入信する時には、地獄に落ちるなどの「恐怖」を煽って入信させます。ここでマインドコントロールされてしまうと、次の段階では、先祖の因縁を解怨して、子孫を幸せにしなければならないという「義務感」を持たせての献金をさせるようになります。三段階目においては、神の国実現のための世界平和に使われると信じ切っての「使命感」で献金をします。こうなると、喜んで、自主的に献金することになります。
同議員は「最初に勧誘をするビデオセンターでは”旧統一教会である”ことを告げず、正体を隠し、不当に教義を教え込み、数年後に献金をさせていく。旧統一教会の典型的被害である、正体を隠しての教え込み、教義に基づく責任感や義務感による献金も取り消しや禁止の対象となるのでしょうか?」と質問します。
岸田首相は「救済法案では、不安を抱いていることに乗じて、勧誘を行う場合、取り消し権の対象とすることを検討する」とし「入信当初だけでなく、その後の献金についても当てはまると考える。正体を隠した件について『寄付の勧誘をする際に』で記載しているのは、寄付の勧誘を行う場合”個人と接触してから、その個人が寄付を行うまでの間に”という趣旨であります。寄付の勧誘を行う法人等において、特定できる事項を明らかにすることを、配慮義務として定めることにより、これに反する行為があった場合に、不法行為に基づく損害賠償請求による裁判が容易になると考えます。よって、正体を隠すということは、これに反することになる。悪質な勧誘行為による被害が取消権だけでなく、実際の裁判実務でもっとも活用されている不法行為に基づく損害賠償請求を通じても救済されるようにしてまいりたい」と述べました。
宗教2世の救いの道はいまだ見えず
損害賠償を求める裁判において、救済法案は有利に働くとしています。それは1世信者の被害を想定した場合の発想です。
信者を親に持つ宗教2世は、これまで両親の高額献金の煽りを受けて、自らもお金を詐取され続けて、奨学金の借金を背負うなど、今も厳しい生活を強いられています。
宗教2世らが育てられた両親に対して返金を求め、訴えることは現実的ではなく、もし裁判を起こすとしても、金銭的、精神的負担は大きく難しいことです。特に、成人になった2世は、現在の救済法案を通じての救われる道は見えていません。
いずれにしても、被害者救済法をその名にふさわしいものにするために、救いの高みを目指した議論を重ね、より実効性のあるものにできるのかが問われています。