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AIを用いた新しい採用のカタチ【住谷猛対談】(第3回)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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USEN-NEXT GROUPが実施している新卒採用方法は非常にユニークです。

同社のエントリーに必要なのは、「名前・生年月日・メールアドレス」の3つのみで、履歴書の提出も不要。AIに自己PR動画やインタビューの内容を分析してもらいフィードバックを得ることができる「AI エクスペリエンス」というシステムを導入している他、革新的な採用手法を数多く実施しています。どうしてこのような採用活動を始めたのか、執行役員

であり、コーポレート統括部長兼CISOの住谷猛さんに伺いました。

<ポイント>

・内定承諾率はどのように変化したか?

・AIインタビュー導入時に反発はあったのか?

・良い面接官の特徴とは

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■革新的な新卒採用はどのようにして生まれたのか

倉重:これまで「超!全力採用」や「就職維新」といったコンセプトを掲げて、シンプルなエントリーやAIインタビューなど新しい採用活動を行っていますよね。あの採用手法はどのように生まれたのですか?

住谷:実は経営統合してから、「超!全力採用」や「GATE」「就活維新」ということを言い始めました。

この革新的な採用手法は、宇野さんが社長になり、僕が人事部長になった24年前からずっと続けていることなのです。その進化系というか、現在のありさまが就活維新です。「学生さんにとって理想の就職活動はどういうものか?」ということを本質的に考えました。

 今でいうと、大学3年生の終わりから4年生の頭の3カ月ぐらい、みんな同じリクルートスーツ着て、エントリーシートを何枚も書かされて、上から目線で面接されて時に落とされるような就職活動をします。

「それって本当に正しいんだっけ?」というアンチテーゼから僕らはものを考えました。こんな就職活動をしているのは、世界中で日本だけなので。

倉重:エントリーシートも、長々したものは書かなくていいのですよね。

住谷:最初に必要なのは3つだけです。名前と生年月日と連絡先のメールアドレスでエントリーして、そこからメールを中心に、人事とのコミュニケーションが始まっていきます。履歴書も不要です。

倉重:学生が自分のPR動画を作るというのもユニークですね。

住谷:僕らは「スマートPR」と呼んでいますが、スマホで90秒の自己PR動画を撮って、当社のシステムに対して送信してもらうのです。

PRはどんな内容でも構いません。以前滝に打たれている人もいました。その動画は選考にも使います。その次にAIによるインタビューがあるのです。

倉重:もうAI面接を導入しているのですか?

住谷:AI面接は昨年から実施しています。24時間いつでも受けられて、この2つで1次ジャッジをするのです。

抜粋してお話しますが、AIインタビューまで受けると、「Finalコール」ができます。「Finalコール」とは「最終面接を受けたい」という意思表示です。

まだ最終面接を受けたくない、もうちょっと面接の練習もしたいなと思ったら、普通の面接も選べます。今だと1on1、グループディスカッションの中から選べます。1on1を最大3回受けても構いません。自分が手を挙げてFinalコールをした時が、ジャッジの瞬間なのです。

倉重:それまでは落ちないのですね。

住谷:Finalコールをすると役員との最終面接がありますが、1回落ちてもリベンジできます。Finalコールは2回できるので。「タイミングは自分で考えて」というのが僕らのポリシーです。

倉重:スタートの前から、自分で考えて決めるという訓練が始まっているのですね。

住谷:こういう形にすると、「早く内定欲しいからFinalコールしちゃおうかな」とか「会社の人と話して最終選考のヒントも得たいから1on1面接も受けとこう」等、いろいろなことを学生が考えますよね。それが大事なのです。

判断材料の一つとして、選考進捗情報は全て週次で公開しています。「今Finalコールしているのは何人で、内定者は何人か」という進捗状況を見ながら、より戦略的に、効率的に当社グループの選考に臨んでいただけます。

「就職活動において学生さんが自発的に考えてほしい」というのが、僕らからのメッセージなのです。

倉重:そこまで考えて合格したら、内定の辞退も減りそうですね。

住谷:僕らが経営統合する前の20年間は、ずっと内定承諾率が40%前後でしたが、今は68%に上がっています。

倉重:すごいですね。一度落ちてもリベンジがあるというのもいいと思います。

住谷:最終面接で不合格となった方でも、希望者を対象に復活選考を実施します。「トライアウトリベンジ」で内定を取る学生さんも結構います。「たった1度しかチャンスがない」というプレッシャーから解放されて、リラックスして面接に臨んでもらうために始めました。

学生さんもこういう就職活動を求めているはずなのですよ。今日本の企業で行われている就職活動を学生さんは歓迎しておらず、むしろ嫌だと思っているはずです。

僕らは採用活動を通して、「USEN-NEXT GROUPってこういう会社なんだ」と理解してもらい、「いい会社だな」「就職したいな」と感じてもらうことを目指しています。いわゆる採用のマーケティングとしても極めて有効です。

極めて革新的な採用方法なので、学生さんは少なからず敬遠すると思いますが、僕はそれでいいと思っているのです。なぜならうちの採用手法に共感してくれる学生さんは、Innovativeな人だから。

倉重:面白いと思ってくれる人に来てほしいということですね。

住谷:実際に選考活動をして「すごく面白かったです」と言う学生さんが多いのです。多分こういうことを言われる会社ってあまりないと思います。

■AI面接導入時に反発はあったのか?

倉重:AI面接で落ちることもあるのでしょうか?

住谷:2回目のFinalコールでも駄目だったら不合格ですから、AI面接だけで終わりではありません。

AI面接を始める時に僕らの人事の中でもいろいろな意見がありました。「学生さんの反感を買います」という意見に対しては、僕は「ちゃんと説明すればいい」と説得したのです。

 僕らはコロナの前からオンライン面接をしていました。「オンラインでは熱意が伝わらない」「かえって緊張する」等いろいろ言われていましたが、コロナになってから多くの企業がオンライン面接を導入した結果、学生さんはみんな「オンライン面接のほうが便利だ」ということに気づいたのです。

倉重:面接会場まで行かなくていいから交通費もかからないし、場所を選びませんから。

住谷:ではAIインタビューはどうでしょうか。オンラインインタビューは場所の制約を取り払ったけれども、AIインタビューは時間の制約を取り払うことができます。

なぜならパソコンを開いてURLをクリックすれば、そこに面接官が現れるので、いつ、どのタイミングでも面接を受けることができます。

倉重:住谷さんは、すごい人数を面接しないといけないのではないですか?

住谷:当社グループでは最終面接をするのは僕だけなので、昨年は約800名を面接しました。まさに「超!全力採用」です。

倉重:住谷さんも全力なのですね。AI面接も始まった今、次に考えている採用の施策はありますか?

住谷:すごく現実的な話でいうと、学生さんにAI面接のフィードバックをしているので、その精度を上げていきたいです。

良い面接官を育成したいという想いもあります。面接は「2つのS」を行います。1つはセレクション、選考です。もうひとつはスカウティング、勧誘もしているのです。

倉重:学生からも「良い」と思ってもらわなければいけないですもんね。

住谷:学生さんのいいところを引き出すことができ、学生さんにこの会社に入りたいと思わせることができるのが良い面接官です。うちは4年間オンライン面接をしたので、数千の面接動画があります。これをデータ解析して、面接を受ける学生さんのプロファイリングに使うだけではなく、良い面接官を育てることにも活用したいのです。

面接官のパフォーマンスをデータ解析して、「良い面接官とはこうあるべき」ということを「見える化」したいと思っています。面接官に対してもフィードバックしてあげると、「こうすればいいのか」と気付くじゃないですか。

倉重:面接は普通ブラックボックスで何をしているのか分かりませんが、今後は動画データを活用していくということですね。面接は100%オンラインですか?

住谷:僕の最終面接は100%オンラインです。今年は脱コロナの年でもあるので、1on1の面接をどうするのかは学生さんに選んでもらっています。うちは1on1の面接官も選べるのです。面接官リストに60人ぐらいの顔写真があって、「自分はこんな仕事をしていて、趣味はこういうものです」という自己紹介や、「こんな人に来てほしい」という学生さんへのメッセージが書いてあります。

事業会社の社長と面接したいとか、趣味が合う人と話したい、年の近い人がいいなど自分で面接官を選ぶことができます。

倉重:それは大変面白いです。入社前からそんな体験をしていたら、当然自分で考える人が入ってきますよね。

(つづく)

対談協力:住谷 猛(すみたに たけし)

株式会社USEN-NEXT HOLDINGS 執行役員 コーポレート統括部長

(人事・総務・法務・情報システム・広報・コーポレートブランディング・サステナビリティ推進管掌)兼 CISO

早稲田大学法学部卒業。新卒で入社した証券会社で、1年目から人事部に配属されたことをきっかけに、人事部門でキャリアを築く。

1999年、人事部長として株式会社USENに入社。

人事・総務部門担当役員、法人営業部門担当役員などを経て、2017年12月、株式会社USEN-NEXT HOLDINGS発足時より現職。

現在は、人事・総務・法務・情報システム・広報・コーポレートブランディング・サステナビリティ推進などの幅広い部門を管掌。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒 KKM法律事務所代表弁護士 第一東京弁護士会労働法制委員会副委員長、同基礎研究部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)副理事長 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 紛争案件対応の他、団体交渉、労災対応、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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