「損失10億円超えが倍増」「債務超過が2割」危険水域の地方交通、コロナが追い打ち
コロナ禍は鉄道事業者を中心とした公共交通に大きな影響を与えている。JRや大手私鉄でも経営が厳しくなっていると報じられているが、地方の第三セクターや私鉄ではなおさらである。
交通系シンクタンク(一財)地域公共交通総合研究所は、コロナ禍での公共交通の現状を調査した「第4回公共交通経営実態調査」の結果を公表した。10億円を超える累積損失を抱える事業者がこの2年間で倍増し、債務超過の事業者も2割に及んだという。行動制限が解除され、状況は好転したように見えるが、コロナ禍が公共交通の経営に与えた影響は根深く厳しいとの実態が報告書から浮き彫りになった。
調査結果は具体的にどんな内容だったのか?
輸送人員減少・損失拡大・展望の見えない経営
調査は、2020年4月から9月の経営状況について、鉄道をはじめバスや旅客船など約500社に対してアンケート形式で行い、そのうち2割以上から回答があった。
それによると、コロナの行動制限がなくなった現在は回復基調にあるものの、9割の事業者がいまだ「10%以上の輸送人員の減少」があると回答。「30%以上」も3割を占めた。累積損失は積みあがる傾向にあり、2割の事業者が債務超過の状態に陥っている。公的補助・支援がないと2年以内に経営に限界が来る回答したのは8割、そのうち1割は半年以内が限界だとした。さらに、債務を自力で返済するのが困難な事業者は2割で、10年以上返済が困難な事業者は4.5割に及ぶ。
各社は経営体力が確実に失われている中、人員削減を進め、減便や路線廃止も検討せざるを得ない状況に追い込まれている。その上に燃料費高騰がのしかかる。
カネがないと公共交通は維持できない
報告書では、累積損失に対する補助・支援、長期かつ無利子の金融支援、燃料費補助の緊急支援の必要性を訴えており、乗務員不足も課題としている。鉄道やバスなどの公共交通は、他産業よりも待遇が低く、去っていった人が戻るとは限らないという。
中期的には、利用者の利益と事業者の両立を図り、黒字体質への業態変革が促進を目指した法整備、恒久的な財源の確保など、カネのことが中心的な課題となっている。いっぽう、「乗って残そう公共交通国民運動」といったキャンペーンの早急な発動が必要ということも求めている。
具体的には、
(1)地域公共交通の確保維持改善事業への財源確保と事務簡素化による公有民託、公有民営の推進
(2)債務超過や事業破綻に備えた「地域公共交通再生機構」の設立
(3)縦型から横型にあらゆるモビリティを総動員して地域公共交通を確保・維持するための「地域公共交通総合局」を国土交通省に設置
を主張している。
鉄道を中心とした地域の公共交通は守れるのか?
今回の調査では、鉄道だけではなくバスや船舶などの事業者にもアンケートを取り、その結果、地域の公共交通が厳しいという実態が示された。地方によっては、他産業よりも鉄道やバスの運転士は給料が安く、そして公共交通自体も赤字である。コロナ禍が地域の衰退を加速させ、公共交通の現場は疲弊していく。
とくに、ある程度人が乗らないとペイしない鉄道では、地域の衰退がダイレクトに経営実績に直結する。高校生の通学需要は依然大きいものの、少子化が進んでいる現状で今後の利用者拡大には期待できない。
鉄道を中心とする公共交通の厳しさは全国的な課題となっており、そのために国が前面的に取り組むことが必要だ。もはや「地域のことは地域で」では解決しない問題なのだ。人口減少地域に余裕はない。
包括的に地方の公共交通を支援する仕組みをつくることが必要であるとこの報告書は主張し、このことには筆者も同意する。
最近、北海道新幹線の延伸にともない、函館本線の新函館北斗~長万部間をどうするかという議論がさかんに行われている。ほかにも、JR各社の営業係数が高く輸送密度の低い路線をどうするかについても議論がある。
日本経済自体が衰退していく中で、公共交通を維持していくことの大変さというのは確かにある。しかし、全国的に公共交通を守ろうとしなければ、地方のことはどうだっていいということになりかねない。国がきっちりテコ入れしなければ、鉄道を中心とした地方の公共交通は守れない状況になっており、コロナ禍がその傾向を加速させているのである。