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水面下で続いている金属バットの日米格差を放置したままでいいのか

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
通算111本塁打を放った清宮幸太郎選手も金属バットを使用している(写真:岡沢克郎/アフロ)

 今更ではあるが、今月初旬にカナダで行われたWBSC主催のU-18ワールドカップに出場した日本代表は、初制覇の夢を達成できず3位に終わった。

 史上最多の通算109本塁打を放っていた清宮幸太郎選手、夏の甲子園で6本塁打を放ち大会最多本塁打数を塗り替えた中村奨成選手ら強打者を揃えて臨んだものの、結局日本代表が放った本塁打数は清宮選手の2本を含む3本のみ。チーム打率も.251に留まり、強力打線が本来の打撃を披露することはなかった。

 解説者などからは打撃不振の原因として「普段使用していない木製バット」だと主張する人が多かった。確かに木製バットは普段高校生が使用している金属バットほど飛距離が出ないと言われている。だがその説明にどうしても納得できていない自分がいた。

 というのも、予選を含めすべて全勝で決勝に進み、韓国代表に8-0と完勝し大会4連覇を飾った米国代表にしても、普段高校生は金属バットを使用しているからだ。残念ながら解説者らの分析には、同じ土俵で臨んだ米国代表がしっかり打てて、どうして日本代表が打てなかったのかという比較検証がなかった。

 改めて両チームの大会成績を比較してみると、日本代表がチーム打率.251、3本塁打、41打点に対し、米国代表は同.274、6本塁打、50打点だった。特に長打率においては、日本代表が.324に対し米国代表は.416と明らかな差が生じている。

 そんな自分の疑問が解消されない日々が続いていた中、以前から親交があり、アマチュア野球に携わるある関係者と偶然再会した折、衝撃的な事実を聞かせてもらうことになった。

 「日本とアメリカでは普段から使っている金属バットが違うんです。アメリカで使われているものは木製バットに近い反発係数にするよう規定があるんです」

 長年米国で生活していたため、現在も小中高に限らず大学生も金属バットを使用しているのは知っていた。だがその一方で、アマチュア野球を直接取材する機会がほとんどなかったこともあり、関係者から教えてもらった内容はまさに寝耳に水だった。

 早速調べてみたところ、2012年から規定が変更され、リトルリーグ、高校野球、大学野球すべてのレベルで『BBCOR』(Batted Ball Coefficient of Restitution…打球係数補償?)仕様の金属バットしか使用できなくなっていた。関係者が教えてくれた通り、反発係数は木製バット並みに抑えられているという。

 近年アマチュア選手たちも積極的に筋力アップのトレーニングを取り入れるようになり、アマチュア野球界も急激なパワー化が進んでいた。特に大学野球などでは、金属バットによる打球があまりに速すぎ投手らが対応できないアクシデントが発生するなど、危険性が指摘されるようになっていた。その問題を是正するために登場したのが『BBCOR』仕様バットというわけだ。

 一方で、日本の金属バット事情はまったく変化がないようだ。日本高校野球連盟がまとめている「平成29年度高校野球用具の使用制限」をチェックしたところ、金属バットに関して反発係数を制限するような規定はまったくなかった。つまり日本では今でも、白木バット(30~35)より反発係数が高い(50~60)金属バット*が使用されている。これこそがU-18W杯で米国代表が木製バットに対応でき、日本代表ができなかった根本的な理由なのだろう。

 (*美津和タイガー株式会社による資料から)

 また前述の関係者は以下のように、日本の現状を危惧している。

 「今のままジュニア期から金属バットを使っていると、しっかりしたスイングを身につけさせるのは難しいです。小さい頃からしっかりしたスイングができる選手は木製バットにも問題なく対応できます」

 確かに日本でも米国のように球界全体で低反発の金属バットを使用するようになれば、選手たちの木製バットへの適応はもっとスムーズになるはずだ。そうすれば使用するバットによってスイングが変わることなく、すべてのレベルで統一された理想的な打撃を習得できるようになるだろう。

 金属バットという単なる野球用具の1つにすぎない話ではある。しかし将来的な野球界の発展を考える上で、真剣に向き合うべき課題ではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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