Yahoo!ニュース

ダルビッシュに続きマー君も? パドレスの積極補強は合理的それとも無謀?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
停滞状況が続く今オフに積極的な補強を続けるパドレスのAJ・プレラーGM(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【今オフの積極補強が目立つパドレス】

 スプリングトレーニング開始まで約1ヶ月に迫る中、今オフのFA市場は相変わらず停滞傾向が続いている。

 1月中旬に入り大物FAリリーフ投手の1人だった、リアム・ヘンドリックス投手がホワイトソックスと合意するなど、多少は動き始めたとはいえ、今もトレバー・バウアー投手をはじめとする大物FA選手は未契約のままだ。

 ただFA市場が停滞する一方で、主力選手のトレードが度々成立するなど、チームの中には積極的に補強を続けているチームも存在している。

 その最たる例がパドレスだ。FA市場でメジャー契約を結んだのは、KBOからポスティング・システムを利用しMLB移籍を目指していた金河成選手のみで、あとはダルビッシュ有投手をカブスから、ブレイク・スネル投手をカブスからトレードで獲得するなど、確実にアップグレードすることに成功している。

【球界内では懐疑的な見方も】

 ここまでの選手補強で、すでに米メディアの間ではMLB屈指の先発陣が完成したとの声が上がる中、日本でも報じられているように、『Athletic』のケン・ローゼンタール記者によれば、パドレスは更に実績ある先発投手の補強を画策しているようだ。その数人の獲得候補の中に、田中将大投手も含まれているという。

 それだけに留まらない。今やチームの主力選手として認知されたフェルナンド・タティスJr.選手と、年俸調整権取得を待たずに10年間の契約延長を結ぶ方向で交渉を続けているとも報じられているのだ。

 新たな先発投手獲得やタティスJr.選手との契約延長が実現するかどうかは、今後の動向に注目していくしかないが、ただ1つ断言できるのは、新型コロナウイルスの影響で多くのチームが今オフの補強に慎重な姿勢を貫いている中、パドレスの積極姿勢が際立っているという点だ。

 こうした動きに対し、前述のローゼンタール記者の記事では他チームのフロント陣の疑問の声を紹介しているが、球界内でも懐疑的な見方があるようだ。

【長年低予算チームであり続けたパドレス】

 というのもパドレスは、球界の中でも典型的な低予算チームであり続けたと歴史があるからだ。

 そこで別表をチェックして欲しい。2010年から2019年まで10年間における、パドレスの年俸総額をまとめたものだ(資料元:USAトゥデイ紙)。順位は全30チームの高額順位を示している。

(筆者作成)
(筆者作成)

 説明を挟む必要はないと思うが、過去10年間でパドレスが年俸総額で上位10チームに入ったのは2015年の1度だけで、ほとんどは下位5チームに甘んじてきたチームだった。

 ところが昨シーズンはシーズン途中のトレード期限でも積極的に補強を断行するなどして、最終的に年俸総額はチーム史上最高額の約1億6800万ドルまで跳ね上がっている(資料元:FANGRAPHS)。

 今シーズンに関しても、現時点で約1億6400万ドルに達しており、さらにFA市場から先発投手を補強するようなことになれば、昨シーズンを上回るのは必至の状況だ。

【毎年のように結んできた大型高額契約】

 昨シーズンの場合は60試合の短縮シーズンだったため、実際にチームが支払ったのは年俸総額の37%でしかなかった。さらに13年ぶりにポストシーズン進出を果たし、MLBから分配金も得ている。

 だがシーズンを通して無観客試合だったのは他チームと同じであり、減収を余儀なくされている。しかもサンディエゴのマーケット規模はMLBの中で4番目に小規模であり(シンシナティ、ミルウォーキー、カンザスシティに次ぐ)、決して大幅な増益を見込める状況にはない(資料元:SPORTS MEDIA WATCH)。

 にもかかわらず、2017年のウィル・マイヤーズ選手(6年総額8300万ドル)を皮切りに、2018年のエリック・ホスマー選手(8年総額1億4400万ドル)、2019年のマニー・マチャド選手(10年総額3億ドル)と、チーム記録を塗り替える大型高額契約を結んできた。

 そして今オフもダルビッシュ投手、スネル投手という高額選手を獲得したのだから、年俸総額が高止まりしているのは必然ともいえる。

【現在の年俸総額をいつまで維持できるのか?】

 パドレスがチーム初のワールドシリーズ制覇に向け、真剣に取り組んでいるのは理解できる。だがその一方で、パドレスのようなマーケット規模が小さいチームには、年俸総額に回せる予算が無尽蔵にあるわけではない。

 果たしてパドレスは、MLBトップクラスの年俸総額をいつまで維持することができるのか。それともマチャド選手やダルビッシュ投手のような高額選手たちを長年にわたり抱えきれるチームに変貌できたのだろうか。それこそが球界に広がる疑念ともいえる。

 過去の例を見ても、高額の年俸総額を費やしながら2015年にポストシーズン進出を逃した後はチーム再編にシフトを切り、2017年には約1/4まで縮小している。

 2014年から編成部門の責任者を任されている、AJ・プレラーGMに勝算はあるのだろうか。すべては今シーズンの結果次第だろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事