「ふざけるな解散だ」原発事故避難者に憤り 福島地裁では「吉田調書」検証へ
■福島からの憤りは総理に届くか
「一言で言うなら「ふざけるな解散」。原発事故の責任も曖昧なまま、十分な賠償も受けられていない。もう事故から4年目を迎えたというのに」。郡山市に住む60代の女性は語気を強めてそ う語った。きょう、安倍総理大臣が決断した衆議院の解散、総選挙。原発事故後、およそ3年8ヶ月にわたって避難生活を続ける福島県民からは憤りの声があがった。
きょう(18日)午後3時より福島地裁で行われた「生業を返せ、地域を返せ!福島原発訴訟」9 回目の口頭弁論。
福島県や隣県に住むおよそ4000人の住民が、国や東京電力に対して、均等な賠償や将来の医療制度の充実、事故原因や責任の所在の明確化などを求めて訴訟を起こしたもので、原発事故関連の住民訴訟では国内最大規模となっている。(「生業を返せ、地域を返せ!福島原発訴訟」原告団が全国最大の4000 人規模に)
まず、福島地裁近くの弁護士事務所前に集まった原告団や支援者達を前に関係者が挨拶。
取材に訪れていたラジオ福島の大和田新さんも拡声器のマイクを握り、強い口調でこう訴えた。
「震災から3年8ヶ月が過ぎました。福島県では、地震、津波による直接死を関連死が大幅に上回っています。きょう現在直接死よりも関連死の数が200人上回っているという状況です。関連死の主な原因は明白です。原発事故による無理な避難によるストレス、持病の悪化、さらには将来家に帰れないという長期の不安から、自ら命を絶つ人が増えているからです。福島、宮城、岩手、被災三県と言われているこの状況の中で、関連死が直接死を上回っているのは福島県だけです。これは震災関連死ではなく、原発事故関連死だというふうに思っています。震災から3年8ヶ月。誰も責任をとらない。誰も謝らないというこの原発事故の不条理に風穴を開けるのがこの生業訴訟だと思っ ています」。
福島地裁に向かう途中、原告側の住民の皆さんに、解散、総選挙を決めた安倍総理の判断について率直にどのように受け止めているか聞いた。
■「県民不在」に大義なし、高まる不満
郡山市から原告団に加わった60代女性。
「卑怯なやり方だと思います。まず鹿児島県の川内原発を再稼働させることにしましたよね、本当に福島を馬鹿にしている。福島の現状をみていないから再稼働できるんだと思います。そして沖縄県知事選挙、基地反対派の候補が勝ちましたよね。与党が推薦した候補は負けたんです。それ なのにしっかりした説明もなく、解散して自分たちを守ろうとする姿勢に憤りを感じます。「ふざけるな解散」だと言いたいです。私は郡山に住んでいるのですが、孫も来なくなりました。事故 前までは娘夫婦達と一緒に二世帯住宅で暮らす予定だったんです。でももう帰ってこないですから。 夫と2人での生活です。仕事もないし、収入も本当に少なくなっています。こんな世の中で本当にいいのかなと思っています」
生業訴訟事務局長の服部浩幸さん。
『まず、国民不在というか、県民不在ですよね。政治の都合で、自分たちの都合で勝手に解散して、 当然政治の空白が続けば被災地の復興は遅れるわけで。それをわかっている上で解散をする訳ですから、私たちもそれに対してしっかり選挙で示さなくてはならないと思いますし、逆にそういうチャンスがまわってきたのかなという風に捉えれば、本当は(被災者にとって)厳しいタイミ ングでの選挙ですけれども、逆に私たちにとっても、もの言えるチャンスになるのではないかなと前向きに考えたいと思っています。「アベノミクスの化けの皮をはがす解散総選挙」、私たちが結果を突きつけたいと思っています』
■福島地裁が「吉田調書」の検証へ
一方で、この「生業訴訟」は9回目の口頭弁論を迎え、非常に興味深い局面を迎えている。
今年9月に政府によって公開された「吉田調書」。この内容を巡って前回の期日で裁判長は国や東京電力の代理人に対して、事故原因の究明に必要だとして吉田昌郎第一原発所長(当時)の発言内容についてそれぞれの見解を求めた。
「吉田調書」で吉田所長は、津波による電源喪失についての対応を聞かれ、1991年10月に福島第一原発で発生したトラブルを想起したと語っている。このトラブルは、冷却水系の海水配管から水が漏れて地下に設置された非常用ディーゼル発電機が海水に浸かり、結果、原子炉を手動停止させたというもの。
裁判長はこの吉田所長の証言について、原発事故の発生原因の究明や責任の所在を明らかにするためにも「裁判所として非常に関心を持っている」と法廷で語り、国や東電に対し、浸水による電源喪失リスクを事故前にどの程度認識していたのか、そして91年のトラブル後の対応が十分であったかなどを質問した。
今日の口頭弁論では、そうした裁判長からの質問に対し国や東電がどのような見解を述べるのかに注目が集まっていた。
何故なら「吉田調書」の中身について法廷の場で国や東電が言及するのは初めてのことで、しかも、浸水による非常用電源の喪失リスクを知りながらこれまで対策を怠っていたとしたら「原発のメルトダウンは人災である」とする裁判所の判断も現実味を帯びてくるからだ。
■国や東電は焦点となった1991年の非常用電源への浸水トラブルをどう説明?
今日の法廷では結局、国や東京電力はどのように説明をしたのか? 結果的には、両者ともに何も語らなかった。
津波の予見性がどの程度あったかという、事故原因や責任の所在に関する核心をつく部分でもあり、 彼らは具体的な言及を避けた形だ。 原告側の弁護団は、裁判の引き延ばしだとして、2ヶ月後に開催される次回の審理で説明するよう求め、裁判長もそれを国や東電の代理人に求めて終わった。次回、1月20日午前11時から開かれる第10回の口頭弁論では、原告側の求めに応じる形で専門家たちも証言に立つ。
原発事故はなぜここまで深刻化したのか。 皆さんにもぜひ関心を持ってもらえたらと思う。
吉田所長が聴き取りの中で言及した、1991年10月の海水漏れトラブルによる原子炉手動停止については原子力規制委員会のHPに記録がある。当時の報道発表資料なども掲載されている。こち らのリンクからぜひアクセスを→原子力規制委員会HP
また1991年のトラブルについて「吉田調書」での該当部分はこちらの内閣府発表のPDFファイル の3頁に。吉田所長が津波に襲われる中真っ先に想起したという過去のトラブルについて生々しく語っている。内閣府・政府事故調聞き取り資料
避難生活を続ける方々の話に耳を傾けると、原発事故発生から四年目を迎えた今も責任の所在がはっきりせずもどかしいし、悔しいという声を度々聞いてきた。福島地裁で争われている「生業訴訟」では、事故原因の究明や責任の所在を明らかにすべく丁寧な審理が積み重ねられている。 今回の解散総選挙の争点として、原発事故からの復興・復旧、被災者への速やかな救済などに注目が集まるかどうかは、現時点では期待できない。しかし本来であれば、しっかりと議論すべき問題の1つだ。
ぜひ、皆さん、この福島の問題を忘れないでください。