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新婚女性を拘束、吐血・痙攣しても薬を与えず、口封じの脅迫―東京入管の難民虐待が酷すぎる

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
在日クルド難民メルバンさん(写真中央と右)。写真は親族の提供。

 難民条約を批准しているにもかかわらず、迫害から逃れて来た難民を、不当に刑務所のような収容施設に拘束している日本。東京入国管理局の収容施設で、また新たな難民への虐待疑惑が浮上した。パニック障害を抱える22歳の難民女性に対し、普段服用している薬を与えず、独房に閉じ込めた上、発作を起こしても放置した上、口封じの脅迫まで行っているというのだ。

◯結婚から間もなくの拘束

 トルコ籍クルド人女性のメルバン・ドゥールスンさん(22歳)は、彼女が6歳の頃、少数民族のクルド人への人権弾圧が横行するトルコから、両親に連れられて来日した。メルバンさんは、小学校、中学校と日本で義務教育を受け、高校も2年生まで通った。「どうせ、いつか強制送還されるのだから学校なんて行っても無駄。早く辞めてしまえ」という心無い入管職員の言葉に強いショックを受け、高校を中退するなど苦い経験もしながら、メルバンさんは日本育ちのクルド難民として、アイデンティティを確立していく。そして、メルバンさんは昨年、在留・就労資格のある在日外国人の男性と結婚した。だが、結婚から間もない昨年11月、東京入管に拘束されてしまったのだ。筆者の取材に対し、メルバンさんは流暢な日本語でこう説明する。

「私が子どもの間は、父親が入国管理局に難民認定の申請をしたのですが認定されず*、仮放免という扱いで、私達は日本にいることができました。成人したため、私は入管関係の手続きを自分でしており、これまで滞在できていたにもかかわらず、今回、突然拘束されてしまいました」。

 メルバンさんは犯罪に関わったわけではなく、仮放免の手続きも入管の指示通りに行っていたという。それにもかかわらず、メルバンさんが今回拘束された理由の詳細については、弁護士が調査中だが、メルバンさんは「5歳の頃からずっと日本にいたのに、なぜ突然、しかも結婚したばかりで、拘束されるの?」との思いに囚われている。「辛いです。夫と一緒にいたい。彼のことが心配です」(メルバンさん)。

*筆者注:

親日国トルコへの配慮なのか、法務省・入国管理局はトルコ出身のクルド人に対し異常に厳しく、彼らが難民認定されたケースは過去一例もない。

◯吐血、痙攣を起こしているのに、薬の持ち込みを禁止

 拘束中の状況にも重大な問題がある。メルバンさんは数年前からパニック障害に悩まされるようになり、個人輸入で得た外国産の治療薬を服用していた。ところが、拘束されてから、その薬の持ち込みが許されず、発作が頻発するようになったのだという。

「拘束される以前は、発作もほとんど出ないまでに回復していました。しかし、拘束されてからは、薬を飲むことができないので、症状は悪化していて、頻繁に発作が起きるようになってしまいました。手足が痙攣したり、熱が上がったり、血を吐いたり…本当に苦しいです」(メルバンさん)。

メルバンさんの知人で支援者の織田朝日さんのツイート。

 

 メルバンさんの症状が悪化しているのに、薬の持ち込みを認めないのはなぜか。筆者が東京入管に問い合わせたところ、「個別の問題としてではなく、一般論として言えば、悪意ある面会者が被収容者に毒物を与える、或いは被収容者自身が自殺することを避けるため」との回答を得た。しかし、それならば、医師の管理の下、必要な薬を調達したら良いことだ。入管側は、一度メルバンさんを施設外の病院で診療を受けさせたものの、症状は改善しないまま。結局、メルバンさんの健康はおざなりにされている。

◯独房に入れられ、発作を起こしても放置される

 入管側は「他の被収容者に悪影響」と、メルバンさんを雑居房から独房に移したことも、彼女を危うくしている。「他の被収容者の人々は『伝染する病気じゃないし、独房で何かあったら大変だから私達が面倒を見る。このまま雑居房に居させた方がいい』と言ってくれたのですが、入管側は聞き入れませんでした。入管側は『独房には監視カメラもあるから何か異変があれば対応する』と言っていたのですけど、先日の夜、発作を起こした際、私はのたうち回りながら、何度も『誰か助けて!』『救急車を呼んで!』と叫んでいたのに、結局、誰も来ず、本当にこのまま死んでしまうのではないか、と思いました」(メルバンさん)。

 実際、入管が適切な医療を受けさせず、被収容者を死なせてしまった事例はいくつもある―クルド難民弁護団事務局長で日本の入管行政の問題に詳しい大橋毅弁護士は外部の監視が及びにくい入管施設での危険性について指摘する。

「2014年3月に東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で、カメルーン人の被収容者が死亡した事件は、典型例でしょう。この事件では、カメルーン人の男性が体調不良を訴え、独房で苦しんでいる様子を、入管職員らは監視カメラで確認出来たにもかかわらず、7時間も放置した挙句に死なせてしまった。遺族らは、昨年9月、国の責任を問う訴訟を起こしています。こうした死亡事件では、そのほとんどが、苦痛を訴える被収容者を雑居房から独房に移し、孤立させています。メルバンさんの状況も、病気で苦しむ彼女をケアするためというよりは、他の被収容者の目の届かないところに移すことが入管側の目的なのではないでしょうか」(大橋弁護士)。

◯「解放呼びかけをやめさせろ」と入管職員が脅迫

 東京入管側がメルバンさんを脅し、精神的にも追い詰めている疑いもある。入管内の人権問題に取り組む市民団体「SYI」(収容者友人有志一同)は、FAXや電話でメルバンさんの解放を入管に求めていくよう、ネット上等で呼びかけている。SYIの織田朝日さんは「面会で会いに行く度に、メルバンがやつれていることが、本当に心配ですし、辛いです」と危機感を募らせるが、入管側は織田さん達の訴えに耳を貸すどころが、メルバンさんを脅迫したのだという。

 「B466とのバッジをつけた入管の女性職員が、先日の夜、私のところに来て、『あなたの解放を求めるFAXや電話をやめさせなさい。さもなければ、家族や友人との面会も出来なくするし、自由時間に共同スペースに行くことできず、ずっと独房にいることになりますよ』と言ってきたのです。でも、私は脅しには屈したくないので『嫌です』と断りました。すると、その職員は突然『応援してもらって良かったなぁー、応援してもらって良かったなぁー』と大声で何度も叫び始めました。とても不気味で、怖かったです」(メルバンさん)。

 後日、入管職員「B466」は、メルバンさんに「脅すつもりはなかったのよ」と弁明。その職員に対し、メルバンさんが「応援をやめさせろというのは、あなた個人の要求ですか?それとも東京入管としての要求ですか?」と問い質したところ、「東京入管としてのもの」とその入管職員は答えたのだという。

 入管職員に脅迫されて以降、メルバンさんは悪夢にうなされるようになった。「入管職員に、首を絞められたり、熱湯をかけられたりする夢を見るようになって…あまり眠れなくなりました」。睡眠障害は、ただでさえ体調が悪化しているメルバンさんを、ますます衰弱させている。

◯国連の人権理事会や拷問禁止委員会も幾度も是正勧告

東京入国管理局(東京都港区)。筆者撮影。
東京入国管理局(東京都港区)。筆者撮影。

 虐待とも言える、収容施設内でのメルバンさんの扱いについて、筆者は東京入管へ事実確認を求めた。だが、入管側の返答は「個別のケースには回答できない」という、お決まりのものであった。入管の収容施設での人権状況については、第三者機関として、入国者収容所等視察委員会が、各収容施設の視察や被収容者への聞き取りなどを行っているものの、チェック機能が充分働いているとは言い難い状況だ。昨年、筆者が配信した記事の中で、児玉晃一弁護士が語っていたように、収容施設の視察はイギリスを見習うべきだろう。同国では、人権侵害が行われていないか、待遇面等で改善すべき点はないか、6,7人のチームが徹底的に5日間視察して、A4用紙で100ページくらいの勧告を行うなど、質・量ともに日本のそれとは全く異なる(関連記事)。

 そもそも、難民やそれに類すると思われる人々を、数ヶ月から1年以上、時には2年以上もの長期にわたり、収容所に拘束していること、迫害の恐れのある国に送還するという、日本の入管行政自体が、国連の人権理事会や、拷問禁止委員会などからも繰り返し、是正勧告を受けていることだ。

 メルバンさんは「仮に悪いことをしたなら、収容所に拘束されても、強制送還されても仕方ないと、私も思います。でも、悪いことを何もしていない人々を拘束することはやめてほしい。日本にいさせて欲しい」と訴える。

 いつまで、日本は、迫害を逃れてきた難民を、難民として認めず、苦しい体験をしてきた人々にさらなる苦しみを味わわせるといったことを続けるのか。政府与党は勿論のこと、野党や市民社会も、その人権感覚が問われている。

(了)

*本記事では、筆者がメルバンさん本人及びご家族の了承を得て、実名・顔写真を公開している。本記事をSNS等でシェアするなどの場合を除き、メルバンさんの顔写真の無断使用、とりわけメルバンさんを誹謗中傷する目的での写真の使用は、厳しく禁じる。

*2月16日追記:本件の続報記事

「赤ちゃんが欲しかったのに」新婚女性を拘束、病状悪化、脅迫でトラウマ―難民虐待の東京入管の疑惑続報

https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20180216-00081689/

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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