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田澤ルールが撤廃できないのなら“逆”田澤ルールの導入検討を

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLBで十分な実績を残した田澤投手は助っ人外国人選手と同じ扱いでいいはずだ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【すでにNPBチームが不利益を被っている田澤ルール】

 今年3月にレッズから契約解除になっていた、MLB在籍9年のベテラン田澤純一投手が今月13日、ルートインBCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズと契約し、入団会見が実施された。

 田澤投手の日本球界復帰は2008年にENEOSに在籍して以来のことになるが、彼のこれまでの実績を考えれば、NPBのマウンドに立つ姿を見たいというファンも多いことだろう。

 だがすでに多くのメディアが報じているように、田澤投手のMLB挑戦を機にNPBが設けた「田澤ルール」により、現時点でのNPB入りは不可能な状態になっている。

 もし仮に田澤投手がFA選手扱いの選手なっていたら、阪神(中継ぎ防御率が7.11)をはじめとする、現在中継ぎ陣の整備に苦しんでいるチームは、田澤投手は喉から手が出るくらい欲しい人材のはずだ。

 それが自由に獲得できない事態に陥っていること自体、すでに田澤ルールはNPBチームに不利益をもたらす制度になっているといっていい。

【若手有望選手の引き留め措置ではあるが…】

 これまで本欄でも何度か取り上げているが、田澤ルールなるものは即刻撤廃すべきものだと思っている。

 だがその一方で、田澤ルールが疑問だらけの制度であるものの、ドラフト前の若手有望選手を日本に引き留めておきたいNPBの苦肉の策だという面も重々理解している。

 残念ながら侍ジャパンがプレミア12で優勝してようとも、WBSCランキングで日本が世界一になろうとも、現場の選手たちは今もMLBを世界最高峰リーグだと憧れを抱き、同リーグ挑戦を夢見ている。

 最近では清宮幸太郎選手などが、NPB入りした時点で将来のMLB挑戦を表明しているし、千賀滉大投手や有原航平投手などの主力選手たちがチームにMLB挑戦の意思を伝えている状況だ。

 大谷翔平選手はギリギリのところで高卒からのMLB挑戦を翻意しNPB入りしているが、今もNPBを経ずに直接MLBに挑戦する若手有望選手が出現する可能性は、今も燻り続けている。そうした状況を考えれば、NPBとしては田澤ルールを簡単に撤廃できないのかもしれない。

【田澤ルールはあくまで若手有望選手が対象では?】

 だが田澤ルールは、あくまでMLBへの流出を阻止したい若手有望選手を対象にしたもののはずだ。すでにMLBで十分な実績を積んだ、34歳の田澤投手に適用されるのもおかしくはないだろうか。

 そもそも田澤ルールがなかったとしても、田澤投手がNPB入りするには新人選手選択会議規約により、ドラフト指名を受けなければならない。なぜ彼が“新人選手”扱いになってしまうのか。この規則も田澤ルール同様に、現状には合わなくなっている古いしきたりでしかない。

 ならばいっそのこと、田澤投手のような海外リーグに一定期間在籍し、実績を残した日本人選手は、外国人選手と同じ扱いにする“逆”田澤ルールを設定すればいいのではないだろうか。

 そうなれば、NPBチームは自由競争で田澤投手の獲得に乗り出せることになる。

【ソフトバンクのスチュワートはNPB制度下の選手】

 これは逆の例だが、昨年5月、前年にMLBドラフトで1順目指名を受けたカーター・スチュワート投手が、鳴り物入りでソフトバンクに入団した。彼がNPB入りした時点でMLB機構に確認したところ、彼はNPB支配下の選手になったため、NPB制度下でFA資格を得るか、当該チームからポスティング制度での移籍を認められるか、自由契約にならない限り、MLBへの移籍はできないということだった。

 つまりスチュアート投手は、米国籍といえども日本人選手と同じ扱いになっているというわけだ。

 ならば田澤投手のように直接MLB入りした選手は、NPBから見ればMLB制度下の選手になったと考えるべきだ。すでに彼はMLBでもFA資格を得ているし、何よりも現時点で彼のステータスはMLB制度上のFA選手なのだから、他の外国人選手同様に、どのチームも自由に獲得できる存在であるべきだろう。

 “逆”田澤ルールを設ければ、田澤ルールや新人選手選択会議規約を変更しなくても、今後田澤投手のような選手が出現しても、障害なくNPB入りすることができるようになる。

 できればこのオフにもこのルールが認められ、田澤投手自身が新ルール適用第1号となり、来シーズンには彼がNPBのマウンドに立つ姿を見てみたいものだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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