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アジア初 タイが大麻を合法化 ~現地ビデオリポート~

阿佐部伸一ジャーナリスト
娯楽目的で大麻を吸うタイの若者たち=バンコクの大麻”喫煙店”で、筆者写す

 アジアの国で初めて2022年6月9日、タイが大麻を合法化した。ただし医療用とし、娯楽目的や公共の場での吸引には、3か月以下の禁錮刑や罰金約11万円が科されるという。だが、現実は街のあちこちに大麻専門店がオープンし、若者や外国人観光客を主なターゲットに販売され、吸飲場所も提供されている。加えて、大麻エキス入りを売りにした清涼飲料水やビスケット等の菓子、スキンケア用の化粧品が、大手企業も乗り出して製造販売されている。気分を高揚させるテロラヒドロカンナビノール(THC)の含有率は0.2%未満というガイドラインはあるが、基準値を超して摘発されたというニュースは今のところ見たことがない。

風力発電会社が始めた大麻大規模農園=ナコンレチェシマーで、筆者写す
風力発電会社が始めた大麻大規模農園=ナコンレチェシマーで、筆者写す

 観光産業がGDPの20%を占めていたタイは、新型コロナの世界的蔓延の影響をもろに受け、1997年のアジア通貨危機以来のマイナス成長となった。失業者は1千万人を超したという情報もある。今回の大麻解禁は、新型コロナ収束に伴って自由な往来が可能になったのを捉えた経済刺激策の一つである。合法化に踏み切ったアヌティン・チャーンビラクル保健相は、選挙の際に大麻自由化を公約に挙げていた。

大麻起因の救急搬送や自殺が増えていると警鐘を鳴らすスミッスリソン医師=国立ラマティボディ病院で、筆者写す
大麻起因の救急搬送や自殺が増えていると警鐘を鳴らすスミッスリソン医師=国立ラマティボディ病院で、筆者写す

 国際的な背景としては、2020年12月に国連の麻薬統制委員会が大麻を最も危険なグループから外し、医療利用への道を開いたことがある。日本も去年から医療用大麻は薬事法に基づいて承認されれば、輸入製造使用できるよう動き出している。

伝統薬だが、過剰摂取はダメと話すカレン族出身のタイ人、チャイさん=カンチャナブリで、筆者写す
伝統薬だが、過剰摂取はダメと話すカレン族出身のタイ人、チャイさん=カンチャナブリで、筆者写す

 今回タイで取材している間に、立てこもり事件を起こした警察官が大麻常用者だったというニュースが一面トップとなった。タイ市民の間でも大麻自由化への関心は高く、反対する人や、条件を付けるべきだという人が少なくない。娯楽目的の乱用による心身への悪影響を懸念し、一部の企業や人だけが潤うという不公平感が、そこにはある。ただ、白日の下で取り引きされることで、大麻を反社会的勢力が資金源にすることは難しくなり、大麻は覚醒剤などハードドラッグへのゲートウェイという位置づけも的外れとなる。

 大麻取締法改正を進める日本は一方で、これまで定めがなかった大麻の使用罪を創設する方向だ。というのも、タイは日本人にとっても人気上昇中の観光地で、新型コロナ前の2019年には年間約180万人と過去最多の来訪者を記録していた。また、タイ在住の日本人は8万人を超す。在タイ日本大使館は「日本及びタイの法令を遵守の上、トラブルに巻き込まれたり、ご自身の健康を損ねたりすることがないよう、安易に大麻に手を出さないように」と注意喚起している。

オープンしたばかりの店で大麻を買い求める日本人の若者たち=バンコクのスクビット通りで、筆者写す(加工も)
オープンしたばかりの店で大麻を買い求める日本人の若者たち=バンコクのスクビット通りで、筆者写す(加工も)

 薬学博士の正山征洋さん(79)=九州大学名誉教授は、陶酔効果がない大麻の品種や認知症治療への有効性などを長年研究している。2千年前から功罪両面が知られている大麻であるが、功の部分ばかり喧伝するタイの大麻合法化は、様々な社会問題を引き起こすと憂慮している。そして「大麻に興味がある日本人は、みんなタイへ行くのではないでしょうか」と。

 バンコク・スクンビット通り、午後8時。オープンしたばかりの大麻専門店の前で観察すること30分ほど。観光客然とした6人の若い日本人が入って行った。

※上の記事中埋め込みからビデオリポートが開かない場合は、ブラウザーに下記URLをコピペしてください。ただし、内容的に年齢制限がかかっています。

https://www.youtube.com/watch?v=6bcAwNnez6k&t=4s

ジャーナリスト

全国紙と週刊誌編集部、ラテ兼営局でカメラマンや記者、ディレクターとして計38年、事件事故をはじめ様々な社会問題や話題を取材・報道してきました。そのなかで東南アジアは1987年に内戦中のカンボジアへ特派員として赴いて以来、勤務先の仕事とは別にライフワークとしています。東南アジアと日本は御朱印船時代から現代まで脈々と深い繋がりがあり、互いに大きな影響を受け合って来ました。日本の人口減が確実となり、東南アジアの一般市民が簡単に来日できるようになった今、相互理解がますます求められています。2017年に定年退職しましたが、まだまだ元気な現役。フリーランス・ジャーナリストとして走り回っています。

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