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東京都知事選2024でネットはどのように使われていたか

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
(写真:イメージマート)

東京都知事選挙2024は,7月7日に投開票が行われ投票締め切りとほぼ同時に小池都知事の当選確実が発表されました.

そんな都知事選で,ネットはどのように使われていたのか,いくつかのデータを分析してみました.

Xにおける候補者名

まず,X(旧Twitter)上でどの程度候補者名がツイートされたのかを分析しました.6月20日~7月7日までで候補者名が含まれる投稿の得票数上位3名について見てみた結果がこちらです.

各候補者の総言及数(筆者作成)
各候補者の総言及数(筆者作成)

この結果から,小池都知事への言及数が多いことが明らかとなりました.これは,もともと小池都知事は都知事という立場があったため言及数が多かったと考えられます.2番が蓮舫氏,3番が石丸氏でした.

次に,いつ頃それぞれの候補者について言及があったのかを調べてみました.1時間ごとの各候補者への言及数がこちら.

1時間ごとの候補者名言及数(筆者作成)
1時間ごとの候補者名言及数(筆者作成)

この結果から,小池都知事への言及数は当初から安定して多いことが明らかになりました.蓮舫氏はそれに追従していましたが,石丸氏は一時期言及数が少なくなっている時期があったようです.

ただし,言及されているからと言って支持されているという意味ではないことに注意が必要です.実際小池氏や蓮舫氏については,否定的な投稿も多かったことが確認されています.

検索数の変化

次に,GoogleTrendsを使って検索数の変化を調べてみました.各候補者名の検索数を正規化したものとなります.

検索数の変化(GoogleTrendsより筆者作成)
検索数の変化(GoogleTrendsより筆者作成)

この結果を見ると,検索数に関しては石丸氏が最も多かったことが分かります.

都知事選においては,石丸氏は他の2名に比べると知名度が低かったことから,話題に上ることで検索数が増えたのではないかと推測されます.

YouTube再生回数

最後に各陣営の公式YouTubeチャンネルの再生回数を見てみましょう.以下は1日ごとの再生回数の合計を示したものです.

YouTube動画の再生回数(筆者作成)
YouTube動画の再生回数(筆者作成)

これを見ると,石丸氏が圧倒的なことが分かります.他の候補の再生回数が多くて数万回なのに対して,石丸氏は一日当たり30万回程度の再生回数があり,YouTubeは石丸氏の独壇場だったといえるでしょう.

以上,上位3位までの候補者を見る限りネット上では石丸氏が目立っていたようです.NHKによると年齢別の支持率で,

▼10代と20代の▽40%余りが石丸さん
▼30代は、▽およそ30%が石丸さん

とのことなので,若い層に向けた戦略として,ネット戦略に力を入れていたのが効果的だったのかもしれません.

YouTube上で目立った他の候補者

YouTubeに関しては上位3候補以外にも積極的に利用している候補もいました.そこで,特に目立ってYouTubeを利用していて,得票数が上位に入っていた田母神氏,安野氏とひまそら氏の公式チャンネルの再生回数についても比較してみます.ここでは,累積再生回数を1日ごとに算出してみました.すなわち,ある日までに6月1日から合計何回再生されたかをグラフにしたものです.

YouTubeの累積再生回数(筆者作成)
YouTubeの累積再生回数(筆者作成)

この結果から,当初からひまそら氏のチャンネルは動画再生回数が多かったことが分かります.ひまそら氏自身がもともとYouTuberとしてもそれなりに活躍されていたことがうかがえます.一方で,石丸氏も市長時代からYouTubeを活用していることで有名でした.6月1日~11日までは動画投稿が無かったため0となっていますが,もともと多数の登録者を抱えていたため,一気に再生回数が伸びたのではないかと推測されます.

他の候補者がYouTubeチャンネルの登録者数1万未満なのに対して,石丸氏とひまそら氏はチャンネル登録者数が20万を超えており,それを生かした選挙戦を行っていたといえるのではないでしょうか.

しかしながら,石丸氏の動画の再生回数がずっと伸び続けていたのに対し,ひまそら氏の動画は立候補表明後は伸び悩んでいた様子がうかがえ,YouTube戦略については石丸氏に軍配が上がったようです.実はX上の言及数では石丸氏428万に対してひまそら氏462万とひまそら氏が僅差で勝っていたのと対照的でした.

ひまそら氏の動画再生回数が伸び悩んだ要因としては,新規支持者の獲得が上手くいっていなかったのではないかと考えられます.というのも,石丸氏の動画にコメントをする各ユーザは日々増加していたのに対して,ひまそら氏の動画にコメントは多数つくものの,同じユーザによるものが多く,新たなユーザによるコメントが増えていなかったという結果が出ています.

累積コメントユーザ数(筆者作成)
累積コメントユーザ数(筆者作成)

上記図は,各候補者の動画にコメントを付けたユーザの累積数を示しています.通常のコメント数とは異なり,同じユーザが複数回コメントをした場合も1人とカウントしています.これを見ると,ほぼ同じくらいの累積コメントユーザ数だった6月22日と7月5日を比較すると,ひまそら氏が1.27倍にコメントユーザ数が増加したのに対して石丸氏は2.60倍に伸ばしています.再生したユーザ数を正確に測ることはできないため確実なことは言えませんが,石丸氏の動画には新たなユーザが参入しており支持者を増加させるのに寄与していたのではないかと思われます.一方,ひまそら氏は既存の支持者向けに支持を強固にする戦略を取っていたのかもしれません.

ちなみに,蓮舫氏は動画へのコメントを許可していなかったため,全く情報が取れませんでした.YouTubeのコメント欄が荒れたりするのを警戒した結果でしょうか.また,AIを駆使した選挙戦で話題になっていた安野氏はYouTube再生回数では3位に入っていましたが,上位2名とは大きく差をつけられていたようです.

まとめ

以上,東京都知事選挙2024について,ネットでのデータからそれぞれの候補者の特徴について分析してみました.4年前と比べるとX(旧Twitter)のデータの取得が困難になったため,分析したくでもできないことが多かったのが心残りです.

例えば,一部の候補者を巡ってX上ではエコーチェンバーが多数発生していたようで分析してみたいところでしたが,残念ながらXのAPIの制限上難しい状況が続いているため断念しました.エコーチェンバーが強すぎて「自分が支持していた候補者が当選しなかったのは不正選挙だ」という主張もちらほらあるようなので,分析ができると良かったのですが.ちなみに,案外そういう主張をする支持者に対して,当の候補者は冷静だったりするのも面白いところです.

また,YouTubeでの各候補者のチャンネルも分析してみましたが,それぞれの候補者のネット選挙の戦略が見えたりもして,これはこれでなかなか興味深かったようにも思います.

取れるデータに限りがあるため状況というのは,なかなか自由に分析ができず難しいところです.しかし,今回の都知事選は,今年あるかもしれない衆議院選挙に向けて,分析をテストする良い機会になりました.新しい時代には新しい分析方法を考えることも重要と割り切る必要がありそうです.

なお,我々はデータ分析研究のためのスポンサーをずっと募集しています.なかなか見つからないけど.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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