債券投資において凸な曲線を更に凸にすることの意味
債券の利回りと価格との関係を曲線化したものは、債券投資に必須の分析手段です。さて、この凸な曲線から、どのような情報を得て、いかに投資戦略の実行に活かすべきか。
利回りとデュレーション
債券投資とは、現時点で、債券の元本を取得するために資金を投じ、将来の時点で、元本に対応する利金を得て、最終的に満期時に元本償還金を得ることです。故に、論理的に、債券の元本を取得するときの価格は、将来の利金と元本償還金の現在価値に一致しなければならず、その現在価値に割引く金利、即ち、内部収益率が債券の利回りとなります。
初期に投じられた資金を回収するまでに要する時間は、投資においては極めて重要です。債券の場合、回収時間は、各利金が回収されるまでの時間と、元本が回収されるまでの時間について、各利金と元本の現在価値の加重をかけた平均として計算され、その平均回収期間はデュレーション(duration)と呼ばれます。
修正デュレーション
市中金利に連動して、債券の利回りは変化しますが、表面利率は変わらないので、利回りと表面利率の差が元本償還時の差損益で調整されることになって、債券の価格が変動します。このとき、当然に、利回りが上昇すると価格は下がり、利回りが低下すると価格は上がり、また、満期が長いほど、利回りの変化に対する価格変動幅が大きくなります。
そこで、縦軸に債券価格、横軸に利回りをとって作図すると、右肩下がりの線が引けます。数学的な説明は省略しますが、この線は下に凸、即ち、下に膨らんだ曲線となります。凸であることは、英語でコンベクス(convex)といわれ、凸である度合のことは、コンベクシティ(convexity)と呼ばれます。
この曲線について、ある利回り水準において接線を当てれば、その接線の傾きは、当該利回り水準から、利回りが上下に変化したときの価格変動幅になります。煩瑣な数学の証明を省略しますが、この傾きは修正デュレーション(modified duration)と呼ばれていて、その名の通り、デュレーションに簡易な修正を加えて導出されます。
コンベクシティ
曲線に接線を当てると、接点から離れるほど、またコンベクシティが大きいほど、曲線との乖離が大きくなり、より大きな測定誤差がでます。例えば、1%の利回り変動では、接点からは遠く離れるので、誤差が大きくなりますが、0.1%の利回り変動については、価格変動の推計値として、修正デュレーションは十分に精度の高いものになります。
デュレーションは、利回りの関数ですから、利回りが変化すれば、デュレーションも変化します。利回りが低下するにつれて、現在価値が大きくなり、その加重をかけた平均であるデュレーションが次第に長くなっていくので、債券価格の上昇幅も次第に大きくなっていきます。同様に、利回りが上昇するにつれて、次第にデュレーションが短くなっていき、価格の下落幅も次第に小さくなっていきます。こうして、利回りの変化に伴うデュレーションの変化は、価格変動の推計誤差の原因になるわけです。
このとき、当然に、コンベクシティが大きいほど、誤差が大きくなります。実は、面倒な数学的証明は省略しますが、コンベクシティとは、利回り変化に伴うデュレーションの変動幅の指標なのです。別の表現をすれば、債券価格は利回りの関数ですが、利回りの変化と価格の変化の関係を求めることは、この関数を利回りについて微分することであって、修正デュレーションは一階微分であり、コンベクシティは二階微分だということです。
ポジティブコンベクシティ
債券の価格と利回りの関係を示す曲線は、単調に右肩下がりになりますから、コンベクシティは、どの利回り水準においても、価格の上昇を加速させ、価格の低下を抑制するように、正の貢献をします。そのことをポジティブコンベクシティ(positive convexity)と呼びます。
余談ですが、ポジティブコンベクシティという表現があるからには、ある極めて特殊な場合には、ネガティブコンベクシティ(negative convexity)、即ち、負の貢献をするコンベクシティがあり得るわけです。しかし、ネガティブコンベクシティの領域は、特殊なだけではなく、技術的に非常に高度なので、専門家だけに閉ざされています。
ポジティブコンベクシティ戦略
投資戦略としてのポジティブコンベクシティとは、コンベクシティを意図的に大きくすることです。なぜなら、修正デュレーションが同じでも、コンベクシティが大きいほど、その正の貢献が大きくなって有利だからです。しかし、注意すべきは、コンベクシティが大きいほど、修正デュレーションの長さの変化幅も大きいことです。
例えば、利回りが低下したときには、修正デュレーションが長くなっているので、利回りが反転して上昇したときには、その効果で、価格の下落幅が大きくなります。同様に、コンベクシティが大きいと、利回りが上昇したときには、修正デュレーションが短くなっているので、利回りが反転して低下したときには、価格の上昇幅が小さくなるわけです。
ポジティブコンベクシティが投資戦略になるためには、コンベクシティを大きくしつつ、変動した修正デュレーションの長さを常に元に戻すことが必要です。こうすると、利回りが循環的に上下動を繰り返すとき、価格は、上昇の後に、その上昇幅よりも小さな幅で下落し、下落の後に、その下落幅よりも大きな幅で上昇することになって、小さな利益を積み上げることができるのです。
コンベクシティの大小
最もコンベクシティが小さくなるのはゼロクーポン債です。クーポンは債券の利金のことですが、それがゼロなので、ゼロクーポン債では、満期時に元利合計が一括して支払われるわけです。この場合、満期までの年限とデュレーションは一致していて、どのように利回りが変動しようとも、満期が変わらない以上、デュレーションは変わりません。つまり、コンベクシティはないのです。
ゼロクーポン債においてコンベクシティがゼロになる事実から、逆に考えていけば、クーポンが高くなるにつれて、コンベクシティが大きくなると理解されるはずです。コンベクシティの大きな債券は、高金利のときに高いクーポンを付されて発行された債券で、満期が長くて低金利のときにも残存しているものです。
クーポンが高くなるほど、元本償還の占める比重が低下します。つまり、元本償還の占める比重が低下するほど、コンベクシティは大きくなるのです。そこで、仮に、例えば、10年満期で、元本額面100に対して、元利均等で毎年11支払われる債券を作れば、10年満期の年金になり、年金において元本償還の占める比重が最低になるので、コンベクシティが最大になります。
ラダー型のポートフォリオ
ラダー(ladder)は梯子で、梯子を横に倒すと、同じ高さの棒が横に並んで、年金と同じ形になります。ポートフォリオ(portfolio)は多数の銘柄の集合で、ラダー型のポートフォリオとは、毎年の償還額が同じになるように、満期の異なる債券を組み合わせたものです。ポジティブコンベクシティ戦略とは、要は、ラダー型のポートフォリオを組成して、適宜、デュレーションの調整を行うことなのです。
コンベクシティの二面
利回り変化に対する価格変動を予測しておくことは、債券投資において重要なことです。このとき、中心的な役割を演じるのは修正デュレーションです。コンベクシティは、修正デュレーションによる推計において、誤差として機能しますから、誤差は小さいほうがいいという考え方も成立します。
それに対して、ポジティブコンベクシティ戦略では、正の誤差を利益機会ととらえているのです。これは、同じリスクについて、損失機会と利益機会との二面を考え得るのと同じことです。