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Acid Black Cherry、“人生の儚さと悲しさと愛を歌う”小説のような衝撃作とは?

ふくりゅう音楽コンシェルジュ
Acid Black Cherry

2015年2月9日、第57回グラミー賞授賞式『最優秀アルバム賞』でプレゼンターを務めたプリンスのスピーチが話題となった。プリンスは壇上にあがると「アルバムって皆覚えてるかい? アルバムはまだ大事だ。」と語った。単曲配信や聴き放題サービスが普及した現在の音楽シーンへの皮肉を込めて、1枚のアルバムをじっくりと味わう楽しみ方を伝えたのだ。

2015年2月25日、Acid Black Cherryがリリースした、“愛”をテーマにしたコンセプチュアルな4thアルバム『Lーエルー』がオリコン・デイリーチャートで1位となり話題だ。

波乱の人生を送った女性エルの人生を綴った、ストーリーと絡み合うコンセプトアルバムに仕上がっている。コンセプトアルバムとは、アルバムに収録された1曲1曲が有機的に絡み合い、総合して物語を織りなす作品を指す。伝説的な作品では、ザ・ビートルズ『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(1967年)や、デヴィッド・ボウイ『ジギー・スターダスト』(1972年)、ピンク・フロイド『ザ・ウォール』(1979年)などで知られた手法だ。日本では、100万枚をセールスしたTM NETWORK『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』(1988年)、近年では小説も大ヒットしたじん(自然の敵P)による『カゲロウプロジェクト』(2012年〜)などで話題となった。

そもそもAcid Black Cherryは、3年前にリリースしビッグセールスを記録した前作3rdアルバム『2012』でもコンセプトアルバムを提示していた。マヤ暦が終わることから“世界が終わる”と言われた2012年。たとえ世界が終わろうとも、生きることを諦めない人達の唄と物語がリンクしたコンセプト・アルバムだった。もちろん世界は終わらなかったが、アルバムの物語の中で登場したおばあさんが語られていた一節が印象的だった。「世界が終わらなかったことがハッピーエンドではないのよ。美しい世界を取り戻すにはとても時間がかかるの」。この状況は、3月11日に起きた大震災を経験した今の日本に少し似ているような気がする。

4thアルバム『Lーエルー』は、100ページに渡るコンセプト・ストーリーを記したブックレットがCD+DVD盤に同梱されている。物語のテーマは“愛”。少女エルはどんな環境で生まれ、どんな人生を送るのか。そして、その結末とは? 主人公エルの波瀾万丈な生涯を俯瞰の視点で伝えることで、リスナー自身の人生と照らし合わせ、“生きるとは?”という問いへの“気づき”を与えてくれる。音楽単体としても、小説としても楽しめる、アルバムの世界観に同化できる共感度の高い作品に仕上がっているのだ。

4thアルバム『Lーエルー』Acid Black Cherry
4thアルバム『Lーエルー』Acid Black Cherry

アルバム『Lーエルー』は、Acid Black Cherry らしさ溢れるハードなギターが印象的なエモーショナルなロックナンバーが多数収録されている。なかでもオススメは3曲目「エストエム」だ。リズミカルなビートロック・ナンバーであり、エロティックな世界観をつむぎだす言葉が感情をアップリフトしてくれる。ロックバンドBOOWYに憧れていたというジャパニーズロック伝統芸とも言えるサビでの高揚感を、次世代へつないでくれる王道感と実験性のせめぎ合いがたまらない。

物語が展開していく5曲目「Lーエルー」で鳴り響くファンタジックなストーリーテリングな楽曲にも注目したい。もはや、Acid Black CherryはV系の呪縛を乗り越え、ロック&ポップ・シーンで独自のポジションを築き上げた逸材だが、淡くせつない音楽性の豊かさに驚かされた。このファンタジー性は7曲目のポップなシャッフル・ビートが心地良い「7 colors」でも体感できる。さらに、ハードに盛り上がる先行シングルでリリースされた9曲目「黒猫 ~Adult Black Cat~」でのホーンセクションとのメロディックに妖艶なセッションもヤバい。物語としては、ここでの出会いが主人公を破滅へと誘うことになる。

アルバムを締めくくる13曲目「Loves」での、エルへ手向けられたシンプルながら力強いピアノバラードの神々しさには涙が止まらない。そして、コンセプチュアルに連なってきた物語を受け止め、14曲目「&you」へと畳み掛けるようにエンディングへと流れていく開放的なドラマティック・ナンバーへ。“人生の儚さと悲しさと愛を感じる”驚愕のラストシーンに注目して欲しい。

iPhone&iTunesストアの成功以降、より音楽消費が加速化した単曲主義な時代。数千曲、数万曲単位で楽曲をポータブルに持ち運べる便利な時代にはなったが、アルバム作品のテーマやタイトルなどが記憶に残りづらい時代となったことは否めない。しかし、そんな時代において、アルバム作品ならではの広がりある音楽の楽しみ方を、時代とは逆行する形でAcid Black Cherryはコンセプトアルバム『Lーエルー』で挑戦して実証してみせたのだ。

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Acid Black Cherryオフィシャルサイト

http://acidblackcherry.net/

アルバムL-エル-Special Site

http://acidblackcherry-album-l.com/

音楽コンシェルジュ

happy dragon.LLC 代表 / Yahoo!ニュース、Spotify、fm yokohama、J-WAVE、ビルボードジャパン、ROCKIN’ON JAPANなどで、書いたり喋ったり考えたり。……WEBサービスのスタートアップ、アーティストのプロデュースやプランニングなども。著書『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)布袋寅泰、DREAMS COME TRUE、TM NETWORKのツアーパンフ執筆。SMAP公式タブロイド風新聞、『別冊カドカワ 布袋寅泰』、『小室哲哉ぴあ TM編&TK編、globe編』、『氷室京介ぴあ』、『ケツメイシぴあ』など

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