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石破茂氏、早期に衆議院解散?近年ブログで解散権を制限すべきとの持論

楊井人文弁護士
自民党の石破茂新総裁の記者会見(9月27日)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 自民党総裁選で、小泉進次郎候補が早期の衆議院解散を訴え、争点化していた解散時期をめぐり、石破茂氏は当初、解散権の行使に慎重な姿勢を見せていたが、当選した後は早期解散の意向を示している。

 石破氏は、解散は憲法69条に基づき内閣不信任案が可決された場合に限るべきとの見解を述べたことがある。早期解散を行うとすれば、どのような理由に基づくのかが問われる。衆議院解散をめぐる石破氏の発言を整理してみた。

総裁選当選後「なるべく早く信を問う」年内解散を示唆

 まず、9月27日の総裁選後、新総裁としての発言から(いずれもカギカッコの発言引用は、特に断りがない限り、石破氏の発言)。

 当選後、最初の記者会見では「今回の総裁選でいろんな議論があったが、やはり野党の方々とも、論戦を交わした上でご判断をいただきたい。しかしながら、なるべく早くご審判をたまわらねばならない。その二つを合わせて適切な時期を判断をして参りたい」と述べたが、時期については言及しなかった(THE PAGE)。

 その後、テレビ朝日「報道ステーション」で出演した際、解散時期について問われ、「新体制が発足したらなるべく早く信を問うのは憲法の趣旨なんでしょう。不信任案が可決された、信任案が否決された、その時は解散ですよね。いま国会の意思と内閣の意思が違っているわけではないが、新しい体制を国民に信を問うのは早ければ早いに越したことはない。ただ、国民に判断いただける材料をなるべく早くお見せして、信を問うのは早い方がいい」と述べた。

 大越キャスターに「最速10月の上旬とか言える範囲でおっしゃっていただきたい」と聞かれても、「現場にご負担かからないようにしたいと思っています。補正予算、あるいは本予算、国民生活にとって重要なものだから支障が出ないようにしていかなければならない」と答えていたが、さらに「年内であることは間違いない?」と詰めて聞かれると、「断言はしないが、普通に考えれば常識的にそうですね」と年内解散の可能性を強く示唆したANN動画)。

 ただ、後述する通り、石破氏は近年、「内閣不信任案が可決されたり、予算案や重要法案が否決されるなど、内閣と衆議院の意思が異なった場合に主権者である国民の判断を仰ぐために行われるのが憲法の趣旨」と述べていた。

総裁選当初は早期解散を否定 発言に変化

 石破氏は8月24日の総裁選立候補表明時には、衆議院解散に言及していなかった。

 解散時期が浮上したのは、小泉進次郎氏が9月6日に立候補表明の際、「総理・総裁になったらできるだけ早期に衆議院を解散し、中長期の改革プランについて国民の信を問う」と述べたことがきっかけだ(NHK出馬会見全文)。

 小泉氏の早期解散論に対し、石破氏は、9月14日の日本記者クラブの討論会で「解散で衆院議員がいなくなることはよく認識した方がいい。世界情勢がどうなるかわからないのにすぐ解散しますという言い方は私はしません。解散していい状況が整うかどうかを判断する」と慎重姿勢を示していた。

 9月15日、NHK「日曜討論」でも「自民党の都合だけで勝手に決めてはいけない。それほど重いものだ。その時の政治情勢がどうなっているかをあわせて考えないと『今すぐやります』という話にはならない」と述べていた(NHK)。

 ところが、その選挙戦後半から、一定の条件をつけながらも早期解散論に言及するようになっていった。

 例えば、9月25日のBSフジ「プライムニュース」では、「国民の大勢の方が判断できる材料は出さねばならないが、同時に新政権であるのだからなるべく早期に信を問うのも当然」と述べている(BSフジ)。

 そして、総裁選に当選した後は、前述の通り、年内の解散に言及している。

近年は不信任案可決時に限るべきとの持論も

 石破氏はこの総裁選前までは、衆議院解散については慎重に行うべきという持論を述べてきた。

 例えば、2020年7月2日、共同通信加盟社論説研究会での講演で、「解散は憲法69条に基づき、内閣不信任決議案が可決された場合に限るべき」だとする持論を披露したと報じられている(共同通信産経新聞)。

 今年4月には、憲法審査会で「私は解散が総理の専権事項だとは必ずしも思っていない」とも発言している(国会議事録)。

 近年はブログでも、同様の見解を繰り返し述べてきた(太字は引用者)。

…(略)… 本来の解散・総選挙について規定しているのはあくまで憲法第69条の「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、または信任案を否決した時は10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない」というのが原則で、第7条に列記されている天皇陛下の国事行為の中の一つである解散に「内閣の助言と承認」を必要とする、というのは、政治的な行為をなさらない天皇陛下による解散を行われるにあたっての形式要件を規定したものと解するのが自然でしょう。
 国会閉会中でも衆議院解散は可能、とするのが政府の見解ですが、会期延長と解散が絡めて論じられるのは「国会開会中に衆議院が示した意思が内閣の意思と異なった場合、国民に判断を仰ぐ必要が生じる」からであるとされています。そうであるとすれば、衆議院において「衆議院の意思と内閣の意思が異なる」ことが明確にならなければなりませんが、与党が安定多数の議席を持っている場合、そのような事態は考えにくい、ということになります。この前提においては、選挙の際の公約を果たすため、与えられた四年の任期を全うするのが国民に対する責任であると考えます。
 自民党の先人である故・保利茂元衆院議長は、第69条に明記されている場合に加えて、「予算案や、国の行方を左右する内閣の重要法案が否決されたり審議未了になったりしたとき」「その直前の総選挙で各党が明らかにした公約や政策とは質の異なる重要な案件が登場し、国民の判断を求める必要が生じたとき」に限り、7条解散が許されるとの見解を示され(1979年・保利衆院議長見解)、故・宮澤喜一元総理は「解散権は好き勝手に振り回してはいけない。あれは存在するが使わないことに意味がある権限で、滅多なことに使ってはいけない。それをやったら自民党はいずれ滅びる」と語っておられたそうですが(出典未確認)、この言葉の持つ重さと恐ろしさを感じます。

石破茂氏のブログ・2019年6月7日

衆院の解散・総選挙は、内閣不信任案が可決されたり、予算案や重要法案が否決されるなど、内閣と衆議院の意思が異なった場合に主権者である国民の判断を仰ぐために行われるのが憲法の趣旨であり、時の内閣の基盤を安定させるために行うといった発想はとるべきものではありません。憲法第69条によるのみならず、第7条による解散も認める立場に立つ以上は、衆院解散は総理の専権事項であり、現在の憲法解釈上、誰も異論を唱えられないのは事実ですが、主権者たる国民の前に謙虚であるべきこと、権力は恣意的に行使すべきでないことは、どの政権や為政者においても極めて重要なことです。

石破茂氏のブログ・2023年3月31日

本来解散は内閣不信任案の可決、信任案の否決、予算案・法律案等政府提出議案の否決等々、衆議院の意思と内閣の意思が異なった場合、主権者である国民の判断を仰ぐために行われるものであり(憲法69条)、政権の延命や「野党の準備が整っていない今なら勝てる」というような党利党略目的で行われるべきものではないと私は考えていますが、現行憲法下での解散のほとんどはいわゆる69条解散(ママ、注)で行われているのが実情です。

(注)「7条解散」の誤記と見られる。

石破茂氏のブログ・2023年6月9日

解散権の限界をめぐる議論

 衆議院の解散権は「首相の専権事項」と言われる一方で、首相が都合のよいタイミングで解散権を行使することについては根強い批判があり、憲法学の観点からも解散権の限界について議論されてきた。

 第二次安倍政権では2回、衆議院の解散が行われたが、特に2回目の2017年の臨時国会冒頭での「国難突破解散」は強い批判が巻き起こった。石破氏が解散権の限界について言及するようになったのは、この後とみられる。

 主流の見解は、衆議院の解散は、憲法上、内閣不信任案を可決された場合(69条解散)に限らず、内閣の判断でも行える(7条解散)とされている。

 政府見解は、7条解散は「国政上の重大な局面等において主権者たる国民の意思を確かめる必要があるというような場合」に、内閣の政治的責任で決められるというものだ(なお、解散の権限はあくまで「内閣」にあり、「内閣総理大臣」にあるとはされていない。大臣が閣議決定に反対した場合には罷免できることから、事実上「首相の専権事項」と言われている)。

 現実にも、過去24回の解散のうち、69条解散は4回だけで、大半が7条に基づいて解散が行われている。

衆議院の解散は憲法第七条の規定により天皇の国事に関する行為とされているところ、実質的に衆議院の解散を決定する権限を有するのは、天皇の国事に関する行為について助言と承認を行う職務を有する内閣であり、内閣が衆議院の解散を決定することについて憲法上これを制約する規定はなく、いかなる場合に衆議院を解散するかは内閣がその政治的責任で決すべきものと考えている。この衆議院の解散権は、内閣が、国政上の重大な局面等において主権者たる国民の意思を確かめる必要があるというような場合に、国民に訴えて、その判定を求めることを狙いとし、また、立法府と行政府の均衡を保つ見地から、憲法が行政府に与えた国政上の重要な権能であり、その行使が、法の支配との関係で問題があるとは考えていない。

2017年10月6日・政府答弁

新政権発足後の早期解散例はまれ

 この総裁選では、小泉氏の発言をきっかけに「新政権が発足したら早期解散」という論調が広がっているが、これまで新政権の発足直後に解散した例は少ない(衆議院選挙と内閣の対応一覧)。

 最も早かったのは、岸田内閣が行った前回の解散(2021年10月14日)で、首相指名から10日後だった。このケースは衆議院議員の任期が10月21日に迫っていた。任期満了に伴う総選挙も考えられたが、岸田首相は解散を選んだ(岸田首相会見)。

 森内閣が行った解散(いわゆる神の国解散、2000年6月2日)は発足から2か月後だった。小渕前首相の死去に伴い総裁選なしに首相を決めたことが問題視され、野党から内閣不信任決議案が提出された日に解散が決まった。

 政権交代、連立政権など、政権の主体に大きな変更が生じた場合は国民に信を問う必要性が高まると考えられるが、必ずしも早期解散が行われていたわけではない。

 非自民政権の細川内閣・羽田内閣(1993年8月〜1994年6月)が瓦解した後、自社さ政権の村山内閣が発足したが、衆議院解散・総選挙は行われることはなかった。解散が行われたのは、自民党が政権に復帰して2年以上たってから橋本内閣の時だった。

 自公連立政権が初めて成立した小渕内閣の時も解散は行っていない。

 解散時期については、衆議院議員の任期4年間の半分、2年を超えているかどうかも、一つの目安とみられている。

 現在の議員の任期は2025年10月30日まで。もし年内に解散となれば、任期は1年を切っており、タイミングとしてはさほど問題ないのかもしれない。また、野党側が解散に事実上同意しているなら許容されるという考え方もあり得る。

 それでも、解散には大義が必要とされる。石破氏は10月1日にも新首相に指名され、組閣する見通しだ。早期解散に踏み切る場合、過去の発言との整合性も含め、どのように説明するかが注目される。

新政権が衆議院を早期に解散した例(内閣発足から解散まで100日以内)

・岸田文雄内閣:10日後(2021年10月4日発足、10月14日解散)※任期満了は10月21日

・鳩山一郎内閣:45日後(1954年12月10日発足、1955年1月24日解散)※自由党の吉田茂内閣から憲法改正を掲げる日本民主党の内閣に政権が移行

・森喜朗内閣:58日後(2000年4月5日発足、6月2日解散)※いわゆる「神の国」解散、野党が内閣不信任案提出

・池田勇人内閣:97日後(1960年7月19日発足、10月24日解散)※60年安保改定の岸信介内閣が退陣した後に発足

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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