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斎藤八段の名人連続挑戦&羽生九段の残留争いの行方は?ー第80期順位戦A級中間展望ー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 17日(金)の対局をもって、第80期名人戦・順位戦A級は年内の対局を全て終えた。

 挑戦争いは、斎藤慎太郎八段(28)がトップを走り、糸谷哲郎八段(33)が2敗で追う展開に。

 残留争いは、羽生善治九段(51)がピンチを迎え、A級で唯一のタイトル保持者である永瀬拓矢王座(29)も巻き込まれる厳しい戦いとなっている。

 ここまでの戦い、そして今後の展望を解説する。

挑戦争い

 前期挑戦者の斎藤八段が6戦全勝と独走状態にある。

 追うのは唯一2敗の糸谷八段だ。

同星で終了した場合、プレーオフで挑戦権を決める
同星で終了した場合、プレーオフで挑戦権を決める

 斎藤八段の2021年度は、名人戦以外のタイトル挑戦はなく、叡王戦では挑戦者決定戦で藤井聡太竜王(19)に敗れるなど、あと一歩が届かない状況だ。

 ただタイトル挑戦がないことでスケジュールにゆとりがあり、この順位戦に照準を合わせて調整が出来ているようにみえる。

 順位戦は先後が決まっているため、相手に合わせた作戦をとるなど、勝率をあげる策がほどこしやすい。

 斎藤八段は前期8勝1敗、今期6連勝と、A級に昇級してから14勝1敗という信じられない好成績をあげている。

 この成績と残り3戦で星2つの差をつけている現状をみるに、挑戦権は8割方決まったようにも思える。

 ただ唯一の2敗者である糸谷八段と最終戦での対戦があり、そこでアヤが生じる可能性もある。

 糸谷八段は17日に同じく2敗だった豊島将之九段(31)に逆転勝ちで大きな1勝をあげ、勢いに乗っている。

 斎藤八段としては、8回戦までに挑戦権を決めてしまいたいだろう。残り2戦を連勝、もしくは1勝1敗で糸谷八段が1つでも負けると8回戦で挑戦権獲得が確定する。

 糸谷八段としてはなんとしても連勝して最終戦に希望をつなぎたいところだ。

残留争い

 今期もA級では残留争いが注目を浴びるだろう。

 羽生九段がピンチを迎えているからだ。

成績下位2名が降級となる。同星の場合、順位が下の棋士が降級する
成績下位2名が降級となる。同星の場合、順位が下の棋士が降級する

 羽生九段はここまで2勝4敗。15日(水)に山崎隆之八段との直接対決を制して大きな2勝目をあげた。

 互角の展開から、終盤に一度は山崎八段に形勢の針が傾くものの、時間に追われた山崎八段のスキをついて逆転で勝利した。

 内容面でも終盤の逆転勝ちや逆転負けが多く、安定しているとは言い難い。

 前期成績に基づく順位も悪く、現状は下から2番目の成績で降級圏内にいる。直接対決を制しても厳しい状況に変わりない。

 ただ前期も年内を2勝4敗で終え、最終的には4勝5敗で余裕をもって残留している。羽生九段のここ一番での底力は言うまでもない。

 羽生九段との直接対決に敗れた山崎八段は残留に黄色信号が灯っている。残り3戦を全て勝つしかない。悲願のA級昇級から1期での出戻りは避けたいだろうが相当に厳しい情勢だ。

 17日に行われた永瀬王座ー菅井竜也八段(29)戦も残留争いの大一番だった。

 勝って3勝3敗とした永瀬王座は夏以降、王座の防衛戦や王将リーグがあり厳しい日程での戦いが続いている。もし年末に棋王戦で挑戦権を得ると、年明けもまた厳しい日程の中で順位戦を戦うことになりそうだ。

 今期は3勝3敗の棋士が多くいる。羽生九段より順位が上の3勝3敗の棋士は残留という面ではかなり有利で、実質的には表であげた4人の争いといえよう。

 菅井八段は永瀬王座に勝っていればかなり有利な立場だったのだが、敗れたことで残留争いに巻き込まれた。

 残留争いは直接対決が多く残っている。

 特に永瀬王座は8回戦、最終9回戦で残留争いの直接対決を残しており、7回戦でなんとしても4勝目をあげて安全圏に逃げ込みたいところだろう。

7回戦の注目カード

7回戦はそれぞれの日程で、8・9回戦は一斉に対局が行われる
7回戦はそれぞれの日程で、8・9回戦は一斉に対局が行われる

 7回戦の注目カードは、なんといっても△羽生九段-▲斎藤八段戦だ。

 斎藤八段が勝つと、挑戦争いも残留争いもだいぶハッキリしてくる。

 逆に羽生九段が勝つと、挑戦も残留も一気に混戦模様となる。

 今期順位戦A級の命運を占う戦いといえよう。

 この一戦は年明け早々、1月7日(金)に行われる。

 対戦成績では羽生九段が5勝3敗とリードしているが、直近2戦は斎藤八段が制している。

 先手番の斎藤八段がここでも周到な準備をみせるだろう。

 ただ、ここ一番で第一人者の底力を見たいという気持ちは、筆者のみならずファンの総意でもあろう。

 8回戦は2月4日(金)、9回戦は3月3日(木)に一斉対局が予定されている。

 果たしてどんな結末を迎えるか。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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