戦争加害者被害者の「歴史の傷」を癒す:平和を作る人になるために
終戦から70年。私たちは、加害者で、被害者です。
■日本の子どもの戦争意識
調査によれば、日本の中学生の7割が平和のために何かをしたいと願っています。けれども、何をしたら良いのか、わかりません。それは、私たち大人もそうかもしれません。
日本の子どもたちは、欧米よりも「正義の戦争」にも否定的です。アメリカでは、ベトナム戦争後の平和教育が、湾岸戦争が圧倒的支持を得たあと進めにくくなったと語る人もいます。
日本の子どもたちは、とても平和的です。でも何もしたくないわけではなく、子どもたちの15パーセントは、将来平和な社会をつくる活動や仕事をしたいと思うと回答しています。
その子どもたちの思いに応えるために、私たちには何が必要でしょか。
■私たちは何を学んできたか。子どもたちに何を伝えるか
昭和一けた生まれの親を持つ人は、親からリアルな戦争体験(戦争被害体験)を聞いています。親族からの話は、ドラマや映画とはちがいます。けれども1990年代あたりから、戦争体験を語る家族が減っってきます。現代の子ども若者は、マスメディアや学校教育を通して、戦争を学びます。
日本の場合は、戦争を否定的に描くことが他国よりも多く、戦争を知らない世代の戦争観に大きな影響を与えてきたでしょう。
ただし、近年戦争の悲惨さを伝えにくくなったとの指摘もあります。戦争の語り部の方や、原爆資料権などの、悲惨すぎる表現を否定する人もいます。
もちろんどんな情報も、真実であるならそのまま伝えても良いわけではありません。各々の発達段階に合わせた表現方法はあるでしょう。「カラー写真」を見せるのが良いのか、「絵本」が良いのかは、その子の年齢によります。
ただ「子どもを傷つけてはいけない」という人もいますが、そんなことはないでしょう。「はだしのゲン」や語り部の話にショックを受けても、支えてくれる家族がいれば、大丈夫です。
けれども、戦争の悲惨さを伝えるだけでは、平和を作り出す子ども若者を育てることはできません。
■平和のための教育
たとえば、クラスの問題と平和問題を関連させた教育実践があります。
いじめや暴力のある教室は、もちろん平和なクラスではないでしょう。では、誰かが暴力や暴言でみんなを脅しているのはどうでしょうか。力づくで作られた秩序は、平和なクラスといえるでしょうか。
このようなディスカッションなどを通して、子どもに平和について考えさせます。
みんなが、脅しや暴力ではなく対等に話し合い、みんなが平和を作り出そうとする「文化として平和」「積極的平和」を理解させ、実践させます。
私は、すべての武力行使が常に絶対悪だとは思いませんけれども、平和的解決への思いと能力を育てることは、とても大切でしょう。また、良い間関係づくり、良い人間関係づくりに、歴史学習が効果的に働くとする研究もあります。
■歴史の傷を癒す
“Healing the Wounds of History”(HWH)「歴史の傷を癒す」という考え方があります。
心理学的に言えば、怒っている人も泣いている人も、どちらも心が傷ついている人です。心の癒しが必要です。被害者として心が癒されていないと、積極的な活動ができないだけでなく、加害者からの謝罪も受け入れられません。
加害者も、周囲から責められ、自分を責め、その心の傷が癒されていないと、心からの謝罪もできず、ときに逆ギレすらするでしょう。
これは、個人だけの問題ではありません。どの国も、歴史の中で様々なことをしています。加害者であり、被害者です。他国からいろいろ言われますし、自国内でも様々な報道やドラマや映画もあります。国全体が心の傷を負い、癒されないまま時間が過ぎていくこともあります。心の傷の世代間連鎖が起き、「歴史のトラウマ」となります。
歴史による国家的トラウマは、親、教師、メディア、国内外の様々な団体からのメッセージなどで作られ、意識的無意識的に自国のイメージや他国との関係に対する意見に影響を与えます。
互いに歴史のトラウマを抱えた国同士が、関係を改善しようとしても、様々なトラブルが発生します。時には、為政者の都合でさらに問題を悪化させることすらあるでしょう。
教育の中で、文化の中で、歴史の傷を癒すことが必要です。そのための研究実践としては、タブーや沈黙を破る、加害性に気づく、悲哀の体験、儀式やパフォーマンスなど様々な活動が行われつつあります。
平和を作るために、私たちは全精力をあげて、学び、活動していかなくてはなりません。
■参考ページ
人間科学と平和教:~体験的心理学を基盤とした歴史・平和教育プログラム開発の取り組みから
「人間科学と平和教育~体験的心理学を基盤とした歴史・平和教育プログラム開発の視点から」を開催して:HWH のこれから