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「ずっと台本を読んでいないと不安だった」細田佳央太が『七夕の国』でたどり着いた新境地

田幸和歌子エンタメライター/編集者
(C)2024 岩明均/小学館 /東映

 『寄生獣』の岩明均の同名コミックを原作に据えたドラマ『七夕の国』が、7月4日よりディズニープラス「スター」で独占配信されている。本作は、“あらゆるものに小さな穴を開ける”という役に立たない超能力を持った平凡な大学生・南丸洋二(通称「ナン丸」)が、とある地方で起こった怪奇事件をきっかけに、壮大な陰謀に巻き込まれていく物語だ。

主演を務めているのは、22歳の俳優・細田佳央太。実はオファーを受けたのは約3年前で、当時10代にしてディズニープラスの大作ドラマ主演を射止めていたわけだが、本作での挑戦はいったいどんなものだったのか。『七夕の国』という作品の魅力や、俳優としての作品との向き合い方、立場や覚悟の変化などについてじっくり伺った。

原作や台本を何度も何度も読み込む理由

――『七夕の国』のオファーを受けたのは約3年前だったそうですね。どんな思いでしたか。

細田 当時、配信ドラマに出演させていただく機会がまだ少なかった中、ディズニープラスという映像制作の第一線を走っているプラットフォームで大作をやれることの嬉しさがまずありました。しかも、当時はまだ19歳でしたから、そんな大作で、お金も時間もしっかりかけてもらえる現場に自分がいられることは楽しみでした。その一方、のほほんとした平凡な学生といった役どころはこれまでも経験があるので、過去作とどう対比をつけようか考えました。

――原作を何度も読まれたそうですね。

細田 ナン丸のヒントを得たくて、役作りのために繰り返し読んだんですよ。本読みの際、瀧悠輔監督からはもうちょっとお芝居を軽くしてと言われて、軽くするという意味がわからなかったので、ヒントを得るために必死で読みました。

――以前、ZIP!朝ドラマ『クレッシェンドで進め』(2022年/日本テレビ)でインタビューさせていただいたとき、監督や共演者の方々も「現場でずっと台本を読んでいる」とおっしゃっていたことを思い出しました。

細田 僕はナン丸と違って、楽観的に物事を考えられないほうで、台本を読んでいないと不安なんです。どれだけ考えても何回もテストをやっても、正解はないし、本番を少しでもいいものにしたいと思うと、結局台本を読むしかなくなっちゃうんですね。特に今回は、監督が思い描いているナン丸像と僕が最初に思い描いていたナン丸像はお芝居のテンション感や質感がちょっと違ったんですね。それでどうすればお芝居を軽くできるのかわからず、原作も台本も何度も読みましたが、結局、現場に行って、木竜(麻生)さんや濱田(龍臣)くんなど、丸神ゼミの人たちとお芝居をしていく中で、ナン丸の感じをつかむことができました。そういう意味では、人に見つけてもらった感じなんです。

――つかんだと感じる瞬間があったのでしょうか。

細田 ありました。撮影3日目で、丸神ゼミに丸神先生(三上博史)を訪ねていくシーンです。「あ、お芝居を軽くするってこういうことか」と思い、後で監督に確認したら、「(芝居が変わったのは)あそこだね」と言われたんです。木竜さんや、お芝居の上手い人たちと一緒だったことで、引き出された面もあると思います。これは僕のクセで、ある種意図的にドラマチックな分かりやすい芝居をやってしまっていたところがあるんですが、丸神ゼミにいようが、超能力でおだてられようが、結局ナン丸はナン丸だ、たぶん周りに流されているのがナン丸なんだという感じがつかめたんですね。

(C)2024 岩明均/小学館 /東映
(C)2024 岩明均/小学館 /東映

藤野涼子、山田孝之に感じた凄さ

――丸神の里で出会う幸子役の藤野涼子さんの印象はいかがでしたか。

細田 藤野さんは僕以上に現場で台本を読んでいる印象でした。カメラの前かどうかにかかわらず、撮影期間はずっと幸子さんとナン丸の距離感でいてくれて、本当にありがたかったですね。終始撮影中は、敬語でしたが実際、アフレコのときには気さくで、とてもフランクな雰囲気でした。

――同じく特別な能力の持ち主・頼之役の山田孝之さんとは、現場でどんなやりとりをしましたか。

細田 現場でガッツリ一緒になることはなく、終盤でお芝居をご一緒したくらいなんです。でも、山田さんはずっと「人ならざる者」の特殊メイクをされているのに、頼之さんのにじみ出る優しさ、あたたかさみたいなものはお芝居して伝わってきました。顔がほとんど見えない特殊メイクをしていてもなお、心の機微が伝わるのはすごいなと思いましたし、頼之さんのお芝居によって自分とナン丸との距離を一気に縮めてもらった感覚はありました。

(C)2024 岩明均/小学館 /東映
(C)2024 岩明均/小学館 /東映

「役が抜けない感覚」を初めて経験した『どうする家康』の信康、その理由

――本作では「球体」「丸神山」など、CGがふんだんに使われているのも特徴です。CG部分は何もないところに向けてお芝居をするわけですよね?

細田 そうですね、あれは難しかった……本読みの段階で、球体のビジュアルイメージを映像で見せてもらい、なんとなくイメージができました。そこから、能力の成長に伴って、作れる球体の大きさが変わってくるので、現場では発泡スチロールに棒が刺さった状態のものを大中小サイズで揃え、テストの際には演出部の方が引っ張ってくださり、球体の動く軌道と速さを覚えました。さらに本番では何もないところで、その軌道や速さを頭の中で再現する形でお芝居をしました。

――頭の中で再現するお芝居を繰り返しているうち、ご自身が何か特別な能力を持っているような感覚にはなりませんでしたか。

細田 それはないですね(笑)。僕はあまり入り込んじゃう方ではないので。ただ、昨年、大河ドラマ『どうする家康』で松平信康をやらせてもらったときは、唯一自分が信康を引きずっていることを自覚しました。これまでは役を引きずるとか、役が抜けないみたいな話を聞くたび、自分にはないだろうと思っていましたが、「あれ、意外と自分もそっちなんだ」と。撮影が終わってからも、終わった感じがなく、信康が自分の中にずっといるような不思議な感覚でした。たぶん彼のことを大好きになりすぎちゃったんだと思います。

――発達障害の高校生を演じた『ドラゴン桜』(2021年/TBS)や全盲の高校生を演じた『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール』(2021年/日本テレビ 以下『恋です!』)など、他者には見えない世界や力・個性を要求される役柄で、高い評価を得ています。観客・視聴者に信じさせるために必要なことはどんなことでしょう。

細田 その人にしかない力や特徴・個性が明確にある場合には、それを勉強して自分の中に落とし込んでいく必要があると思います。例えば、『恋です!』では、全盲の青野くんを演じるために、目の不自由な方の話を聞きに行って勉強させていただきました。そういう勉強の積み重ねが、ある種信じさせる説得力につながっているんじゃないかな、と。

――『恋です!』の杉咲花さん、田辺桃子さん、細田さんは、見え方の違いが三人三様にあることがわかりました。あの説得力は凄かったです。

細田 ありがとうございます。ただ、僕らの仕事って、誰かを演じる以上、嘘をついているわけじゃないですか。そこに真実味みを持たせるためには、見ている人にその役を好きになってもらうこと、自分自身が好きになることも必要だと思うんですね。例えば、『恋です!』の青野くんは、全盲という特徴だけでなく、性への関心を素直に口にするような人としての正直さがあるので、そういう人間臭さや可愛らしい部分を拾ってあげたいというのは、どの作品・どの役でも思います。

(C)2024 岩明均/小学館 /東映
(C)2024 岩明均/小学館 /東映

『七夕の国』が今発表される意義について思うこと

――『七夕の国』では特別な力が描かれますが、もしご自身で何か特別な力を手に入れられるとしたら、どんな力が欲しいですか。

細田 梅雨はもう明けましたが(※記事公開日には明けているはず)、雨が降ると撮影スケジュールがどうしても崩れるので、そういうときに自分の周りだけ天気を変えられる能力が欲しい(笑)。

――やはり真面目で、仕事人間ですね(笑)。キャリアを重ねて、求められる責任が大きくなっているところもありますか。

細田 役や作品に対する向き合い方・スタンスは、映画『町田くんの世界』(2019年)で得たものをブレずに持ち続けていますが、自分が求められるものの責任の大きさは確かに強くなっている気がします。特に『ドラゴン桜』から世間的な知名度が上がった自覚はあって、かつて求められた「これくらいできるよね?」の基準に、今は2、3プラスまたはそれ以上に自分がなっていないとダメだなと思っています。

――『七夕の国』が今作られ、発表される意義をどう感じますか。

細田 今はSNSが浸透して、情報が溢れ、何が嘘で何が本当かを自分で吟味しなきゃいけない時代。いろんな意見を言う人がいて、それをひっかき回そうとする人もいて、情報伝達手段が発達し、顔が見えない人とも話せる・つながれる一方、合わない人はすぐにシャットアウトしても良い。実はどんどん1人の世界が確立されている気もするんです。そんな今と、1995年に原作が描かれた『七夕の国』に登場する丸神の里とは、どこか閉ざされた世界という意味で共通するものがある。そうした時代への違和感や皮肉が投げかけられる作品ではないかと思います。

――この作品は細田さんにとってどんな作品になりましたか。

細田 『七夕の国』を撮影していたのは昨年で、あのときにやった僕の全力でした。22歳という年齢で、素晴らしいキャストの皆様・スタッフの方々に囲まれて主演を務めることができたのは、すごく大きな経験になっています。フラットな生っぽいお芝居をする表現方法も自分の引き出しとして持つことができたので、その成長ぶりを感じていただけたら嬉しいなと思います。

(田幸和歌子)

(C)2024 岩明均/小学館 /東映

原作:岩明均「七夕の国」(小学館刊)

『七夕の国』はディズニープラス「スター」で独占配信中

公式サイト https://disneyplus.disney.co.jp/program/land-of-tanabata

【作品概要】 「寄生獣」岩明均の怪作を、『ガンニバル』のディズニープラスが実写化。ある日、ビルや人が、謎の“球体”にまるくエグられた——この怪事件の真相を追い、役に立たない“超能力”をもつ平凡な大学生ナン丸は閉鎖的なある町を訪れるが、そこで自分がこの町に先祖をもつ “球体を操る能力者”だと知る。町に隠された3つの謎〈季節はずれの七夕祭り 町民だけが見る悪夢 丸神一族の掟〉は何を意味するのか? さらに、巨大な球体を操る男が、ナン丸の運命を大きく狂わせ、すべての謎は一つの衝撃的な答えに導かれていく…。この夏、日常をエグる、不気味な超常ミステリーが始まる。

エンタメライター/編集者

1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌・web等で俳優・脚本家・プロデューサーなどのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。エンタメ記事は毎日2本程度執筆。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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