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2か月弱で集まった360万円 窮地のゲーセンを救ったクラウドファンディング

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
ゲームセンター「ファンタジスタ」の店内(※大島店長提供。以下同)

岡山県倉敷市にあるゲームセンター「ファンタジスタ」では、コロナ禍の影響で昨年は1100万円もの損失を計上。金融公庫などから受けた融資の額は合計800万円で、今春からはその返済が始まったこともあり、運転資金が底をつきかける窮地に陥った。

当初の想定以上に経営が悪化したことから、同店では当面の運転資金を確保すべく、6月7日~7月31日にかけてクラウドファンディングを実施したところ、想定以上の支援を受けることができたという。

お世辞にも大きいとは言えない、店長1人で切り盛りする地方のゲーセンが多くの資金を集められた要因は何だったのだろうか? そして、いまだにコロナの終息の見通しが立たない状況にあって、クラウドファンディングはゲームセンターの救世主となり得るのだろうか? 「ファンタジスタ」の大島幸次郎店長に話を伺った。

「ファンタジスタ」店舗外観
「ファンタジスタ」店舗外観

休業でロスした売上金をほぼ補填することに成功

大島店長によると、今回のクラウドファンディングでおおよその目標にしていた金額は200万円だったが、のべ人数で184人もの支援者が集まり、寄せられた金額は何と358万8千円。なぜ、短期間でこれだけの成功を収めることができたのだろうか?

「返礼品として、当店のマスコットキャラクター『ジスたん』のグッズに、担当声優の金元寿子さんの直筆サインを添えてお送りする支援コースがたいへんご好評をいただき、開始から約24時間で受け付けが終了しました。お好きなイラストとメッセージを描いたLINEスタンプをお送りするプランも、開始から3日ほどでご用意した枠がすべて埋まりました」(大島店長)

実は金元氏は、地元倉敷市の出身で、学生時代に「ファンタジスタ」の前身にあたるビデオレンタル店を利用したこともあるそうで、大島店長が所属事務所を通じて協力をお願いしたら快諾をいただいたとのこと。同氏のサイン入った、アクリルパネルがもらえる支援コースは1口3万6千円、タオルやバッグなどが入った「POWERBOX」は4万2千円と高額でありながら、短期間で終了したのは声優ファンの取り込みもできたからであろう。

また、かつて「ジスたん」と「萌えキャラグランプリ」で1位の座を争ったことが縁で交流ができた「にじよめちゃん」のスタッフから提供された、グッズ類が返礼品となるプランも人気を集めたそうだ。

返礼品のひとつ、金元寿子氏のサイン入りアクリルパネル
返礼品のひとつ、金元寿子氏のサイン入りアクリルパネル

成功の要因は、有名人の起用だけではない。なかでも筆者が特に驚いたのは、支援者は地元の常連客だけでなく、全国各地から現れたことだった。しかも、公式サイトに名前を載せるだけで返礼品のまったくない、1口10万円、5万円、3万円のコースにも多数の支援者が現れたという。

「当店のお客様だけでなく、全国から『ゲーセンを残したい』という方からのご支援をいただくことができました。特に古めのゲームがお好きで、ゲーセンに特別な思いをお持ちの方が多かったように思いますね。なお、ご好評をいただいたLINEスタンプは、現在第2弾の募集も行っております」(大島店長)

大島店長によると、今回のクラウドファンディングのおかげで、臨時休業でロスした約2か月分の売上をほぼカバーし、年内まで経営が続けられる目処が立ったそうだ。2か月分に相当するキャッシュが、どれだけありがたいものかはゲーセンに限らず、店舗経営の経験者には言わずもがなだろう。

1口8千円で、支援者が任意のメッセージとデザインを指定できるLINEスタンプの返礼品
1口8千円で、支援者が任意のメッセージとデザインを指定できるLINEスタンプの返礼品

もはやなりふり構ってはいられず、苦渋の決断を迫られる

大島店長は、当初はクラウドファンディングの実施に難色を示していた。融資を受けるなど、資金調達の方法はほかにもあるのに、軽々しく他人のお金に頼ることに対して違和感を持っていたからだ。

しかし、資金ショートの危機が間近に迫り、もはやなりふり構ってはいられない状況に追い込まれ、ついにクラウドファンディングの実施に踏み切った。

「運転資金がなくなりかけて、本来は手を出してはいけない両替金も取り崩し、融資の返済もできないとなると、もう私ひとりだけの力では無理でしたね……。以前にクラウドファンディングを実施した、知り合いのゲーセンの店長さんからも『やったほうがいいよ』とアドバイスを受けたので、実施を決断しました」(大島店長)

クラウドファンディングで集めた資金は、日々の運転資金と融資の返済のほか、もうひとつの難題を解決するためにも使われる。その難題とは、今後発売される新作ゲームへの投資だ。

「先日、年内に発売予定の新作を注文したので、発売時に数百万円の支払いが必要になりましたが、もしクラウドファンディングを実施していなければ経営が破綻していたかもしれません。前もって注文しておかないと、ゲームが発売された後からでは買えなくなってしまうので、苦しくても先に頼むしか手がないんです」(大島店長)

ちなみに岡山県では、国の一時支援金の給付対象とならない県内事業者を対象とした、第2期の岡山県飲食店等一時支援金(※法人は40万円、個人事業者は20万円)の申請が7月から始まり、大島店長いわく「たいへんありがたかった」そうだ。とはいえ、コロナ禍が終息する見通しが立たず、1年以上も自転車操業が続く状況はあまりにもつらい。

「当店だけでなく、全国的にも同じだと思いますが、お金がないのにまた次の支払いに振り回される状態が続いているので、資金がいくらあっても安心できません」(大島店長)

運転資金の確保に難儀するなかでも、すぐに次の投資が待つ自転車操業はまだ改善されていない
運転資金の確保に難儀するなかでも、すぐに次の投資が待つ自転車操業はまだ改善されていない

クラウドファンディングはゲーセン存続の「最終試験」

大島店長は、今回のクラウドファンディングは金額の大小とは別に、「ファンタジスタ」という店舗自体の存在意義を世に問うものであり、もし支持する人がいなければ決断を迫られる「最終試験」の意味もあったと、その真情を吐露した。

「支援していただいた方から『今の自分があるのは、昔ゲーセンに通っていたおかげ。だから恩返しがしたい』ですとか、『以前からゲーセンに通っているけど、最近はコロナ禍で行けなくなったので、遊びに行ったつもりでお金を出します。頑張って下さい』と温かいメッセージをたくさんいただけて、本当にありがたかったです。

 多くの方から支援が集まりましたので、今後も店を続けてもいいんだ、大事にしていかなければと、すごく勇気付けられました。本当に人に恵まれたなとは思いますが、クラウドファンディングの実施は今回が最初で最後にしたいですね」(大島店長)

すでにクラウドファンディングを実施したゲームセンターはいくつもあるが、地元出身タレントや他のキャラクターの応援企画を実現させ、全国から支持者を集めた「ファンタジスタ」の成功例が出たことで、今後も追随する店舗が各地で増えることになるかもしれない。

・参考リンク:「ファンタジスタ存続のためのクラウドファンディング」(※受付終了)

こちらは1口5千円コースの返礼品で、「ジスたん」の応援企画で参加した萌えキャラ「にじよめちゃん」のミニ色紙
こちらは1口5千円コースの返礼品で、「ジスたん」の応援企画で参加した萌えキャラ「にじよめちゃん」のミニ色紙

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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