九州から上京のサンウルブズファン。徹夜でジャバの絵描いた。「もう会えないかもしれないと思って」
リーグ参入初年度から毎年「最低4試合」は秩父宮へ。
40代男性のYさんは、南九州在住のサンウルブズファンだ。
仕事のかたわら画家としても活動。専門は風景画で、熊本・阿蘇や鹿児島・桜島へスケッチに出掛ける。
高校時代はラグビーに打ち込み、県選抜にもなった。地方銀行に勤めながら20数年ラグビーは観てきたが、トップゲームの開催が少ない南九州という地理条件もあり、現地観戦とは疎遠だった。
そんなYさんがのめり込んだのが、2016年にスーパーラグビー(SR)に参入した日本チーム・サンウルブズだった。
「ラグビーはテレビで応援はしていましたが、飛行機に乗って応援に行ったのは、サンウルブズが初めてでした」
「私はトップリーグ(TL)チームの社員でもありませんし、強い大学のOBでもありません。そういう私がジャージを着て(それらのチームを)応援するのは気が引けるんです」
「サンウルブズはそこに気を遣わずに入り込めた、ということはあると思います」
リーグ参入初年度の2016年から4シーズン、飛行機を使って東京・秩父宮に通ってきた。
南九州から東京・秩父宮まで往復交通費・宿泊費で約5万。1泊は試合後の出待ちでサインをもらう時間を考慮している。幼子の面倒も見る妻の理解を得ながら、チーム愛を貫いてきた。
大好きな選手はジョージア出身のHO(フッカー)ジャバ・ブレグバゼだ。
「愚直で、昔の日本人みたいな人柄がすごく好きです」
そんなジャバを通じて、サンウルブズの意義を感じたことがある。
■サンウルブズは“7人の侍”。「このチームは教科書に載ってもいい」
ヘイデン・パーカーの逆転サヨナラドロップゴールで劇的勝利を収めた、2018年第14節のストーマーズ戦。
Yさんは試合後、チームメイトと抱き合うジャバの写真を目にした。
仕事のかたわら、脳梗塞で倒れた兄の介護もする身。介護の現場を知るYさんは、サンウルブズにこれからの日本の道しるべを見た気がした。
「これから日本は介護の世界など、世界の人に手助けしてもらわないと成り立たないと思います」
「ジャバが仲間と抱き合っている写真を見た時、いろんな背景の人たちが団結してひとつの目標へ向かっていく、その理想がコレだというモデルになるんじゃないかと思いました。けっして大げさではなく、このチームは教科書に載ってもいいと思いました」
サンウルブズは多国籍軍。今年は8カ国以上から結集している。
「サンウルブズは黒澤明の『七人の侍』(1954年)の世界なんです。痛快なんです。いろんなキャラクターの人間が集まって、汗水垂らして勝利を掴むために集まる。それこそサンウルブズの世界です」
「今後の日本が追い求めるべき姿を、サンウルブズで体感したからでしょうかね。さらにラグビーが好きになりました」
■サンウルブズのリーグ除外は「ショックでした」
今年3月、2020年シーズンを最後に、サンウルブズがSRから除外されることが発表された。
Yさんは2017年11月、運営団体「一般社団法人ジャパンエスアール」が発表したスローガン「5 BEYOND 2019」を信じていた。
これは、2018年からの5年間の組織スローガンであり、「サンウルブズを5年以内にスーパーラグビーで優勝できるチームとすること」などを掲げていた。
「(リーグ除外は)ショックでした。まだファンとの約束を果たしてないじゃないかと。『5 BEYOND 2019』という目標を掲げていたわけですから。それをやってないまま終わってしまうのかと、残念な気持ちです」
2022年1月には新たなトップリーグが開幕予定だが、Yさんは現地観戦に消極的だ。
「嫌いとかそんなことではなく、サンウルブズのようにのめり込めない自分がいるんです」
サンウルブズの消滅とともに、ラグビー場から姿を消すファンがいる。
ただYさんは諦めていない。銀行では営業職も経験。1年あれば状況は変えられると断言する。
「これから営業しようと思えば、いくらでもでききます。相手が扉を閉じていたとしても、三顧の礼をもってすればできます。(サンウルブズの)形は変えて、ということはできるはず。まだ信じています」
■徹夜で描いたHOジャバの姿絵。「もう会えないかも知れないと思って」
6月1日(土)、2勝11敗と低迷するサンウルブズは、東京・秩父宮ラグビー場で今季最後のホームゲームを迎える。
現地観戦するYさんは、今季最後の国内戦へ向けてHOジャバの絵を描いた。
「もう会えないかもしれないと思って」
全国公募の『日本の自然を描く展』にも入選経験があるなど、専門は風景画だ。人物画は慣れないが、ジャバが疾走する姿を徹夜で描いた。背景にジョージア国旗、富士山と桜も描いた。
Yさんは上京後のキャプテンズラン観戦中も書き続け、そして仕上げた。
ラグビーを応援している姿はいつもと違う。妻にそう言われる。
「ラグビーを観たあとは生き生きしているらしくて、『応援したくなる』と言ってくれます」
サンウルブズの2019年シーズン国内最終戦。
スタンドには今回もサンウルブズを心から愛し、生き生きと応援するYさんの姿があるはずだ。