ラグビー国内最高峰リーグワンに求む。誇れる公平性と公正性
ラグビー国内最高峰の「ジャパンラグビーリーグワン」は、2022-23シーズンのスローガンに「GO FORWARD AS ONE~ファンと共に世界一のリーグへ~」を掲げている。
競技性だけでなく、スポーツの根幹にある公平性、公正性においても世界一と誇れる水準を追求し、日本スポーツ界の模範となってほしい。
そこで考えたいのが、リーグワンの実質トップである東海林一(しょうじ・はじめ)専務理事が、パナソニックコネクト(株)の社外取締役を務めている点だ(※2023年4月時点)。
同社はパナソニック ホールディングス(株)の事業会社。リーグワンには、昨季優勝した埼玉パナソニック ワイルドナイツが参加している。
法令やリーグ定款・規約上、問題はない。
ただ公平公正であるべきスポーツリーグの実質トップが、リーグ傘下チームの母体の事業会社で、社外取締役という責任ある職を負っている。利益相反(りえきそうはん)の観点から検討されるべきだろう。
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2022年1月に開幕し2季目を迎えているリーグワンで、東海林専務理事はスポンサー獲得から、リーグ代表者としてのメディア対応まで多岐にわたり貢献。リーグ運営における存在感、貢献度は突出している。
一方でパナソニックコネクト(株)では、2022年1月1日付でエグゼクティブ アドバイザーに就任し、同年4月1日付で社外取締役に就任している。
パナソニックコネクト(株)は、パナソニックホールディングス(株)の8つある事業会社の1つ。従業員は世界で2万8000人超。売上高は2021年度で9249億円という。
スポーツと無関係ではない。同社の公式ホームページでは、事業例として、国立競技場(東京都新宿区)への大型メインビジョン、スピーカー、約600枚のデジタルサイネージ等の納入を紹介している。
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今回の件について、リーグワン側に質問状を送付し、回答を得た。
【質問1】東海林専務理事のパナソニックコネクト(株)社外取締役就任は、利益相反にあたると考えているか。
【回答】「同社の社外取締役を務めていることが、ジャパンラグビー リーグワンにおいて利益相反にあたると捉えておりません」
【質問2】利益相反にあたらないのであれば、その根拠は何か。
【回答】「利益相反にあたる行為などを行っていないためです。法令や定款・規約の観点からも問題がないと法務と確認しています」
リーグワン側は、東海林専務理事の同社への社外取締役就任は、リーグ専務理事就任前、前職中から依頼され引き受けていたものだと補足した。
また、パナソニックコネクト(株)とラグビーチームの直接的な関わりはなく、社外取締役の業務は社業に対してのみであり、ラグビーへの影響はない、としている。
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ここでいう利益相反とは、そもそも何か。
利益相反とは「ある行為が、一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為のこと」だ。
スポーツ団体の運営においては、たとえば以下のような事例が利益相反となる可能性がある。
▼利益相反の例
(例1)スポーツ団体の大会運営担当が、自身の出身校を勝ち進ませるために、トーナメントの組合せを操作する。(※大会の公平性、他の参加校の利益が害される可能性がある)
(例2)日本代表の強化責任者が、みずからが監督を務めるチームから、代表選考基準を満たしていない選手を日本代表に選出する。(※公平公正でなければならない代表選考が阻害されている。選考基準を満たす他の代表候補選手の利益が害される可能性がある)
▼利益相反「取引」の例
(例1)スポーツ団体の理事が、同団体のイベント運営を、通常より高い金額で自身の会社に発注する。(※リーグに不必要な損失を生じさせている)
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リーグワン側の回答にあった通り、今回の件は法令やリーグ定款・規約には違反していない。この点について、弁護士の楠晋一氏に解説してもらった。
「質問状に対するリーグワンの回答で『法令や定款・規約の観点からも問題がない』とある通り、一般社団法人法、リーグワンの定款29条、理事会規程16条には違反していません」
「その理由は、これらが利益相反『取引』行為のみを規制しているからです」(楠弁護士)
利益相反取引の例としては、今回の場合【リーグワンとパナソニックコネクト(株)の随意契約】などがそれにあたる。
「しかし、利益相反は、必ずしも『取引』行為によってのみ生じるとは限りません」(楠弁護士)
取引という経済行為だけが、利益相反ではない。
上記に書いた【出身校を勝ち進ませるための対戦カードの操作】なども利益相反にあたる。
「リーグワンの定款・規約は『取引』だけを規制するという内容です。それは一つのスタンスではあります。ただ色眼鏡で見られる要素は払拭しきれないのではないかと思います」
「スポーツにおいては公平公正であること、社会からも『公正である』と見てもらえることが重要です。『取引』以外の場面でも公正性を疑われる場面は想定できます。利益相反『取引』以外へのケアも必要ではないかと思います」(楠弁護士)
リーグワンに対しては改めてラグビー憲章を範とする、より高い倫理観を求めたい。
ノーサイドの精神などに代表されるラグビーの気高さ、精神性を愛する一人として、法令やリーグ定款・規約に違反していなければ問題ない、とする姿勢はやはり物足りない。
たとえば日本アイスホッケー連盟では【取引以外の利益相反】も規定している。リーグワンでも【取引以外の利益相反】も規制対象とすべきか、積極的な議論を期待したい。
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リーグワンにおける利益相反の懸念でいえば、より利害関係性が出やすい【チーム理事】の観点もある。
ここでいうチーム理事とは、リーグ傘下チームに在籍しているリーグワン理事のこと。
リーグワンでは、チーム関係者であってもリーグ理事であれば、通常毎月1回開催される理事会に参加し、リーグの意志決定に関わることができる。
ただ全プレイヤー、全チームの利益代表として参画しているのであれば、チーム理事の存在はむしろ有益になる可能性もある。
2022年12月には、リーグ2季目以降の理事および監事(2022年12月~2024年12月)が決定した。
傘下チームの運営スタッフに名を連ねる理事では、大阪体育大学の同級生でもある、以下の2名が再任された。
●高橋一彰(たかはし・かずあき/54歳)トヨタ自動車株式会社/トヨタ自動車ヴェルブリッツ アドバイザー
●福冨文明(ふくとみ・ふみあき/54歳)マツダ株式会社/マツダスカイアクティブズ広島 副部長
新任のチーム理事も2名いる。
1季目のチーム理事だった東芝ブレイブルーパス東京の薫田真広GM、横浜キヤノンイーグルスの永友洋司GMが退任となり、以下の2名が新任された。
●桜庭吉彦(さくらば・よしひこ/56歳)一般社団法人釜石シーウェイブスRFC 代表理事
●福本正幸(ふくもと・まさゆき/54歳)株式会社神戸製鋼所/コベルコ神戸スティーラーズ チームディレクター
リーグワンの傘下チームはラグビー同様、多様性がある。プロチーム、企業チームもあれば、クラブチーム制度を採用するチームもある。世界的に見てもユニークだ。
これまでのチーム理事構成は、そんな傘下チームの多様性が反映されていない印象だったが、今回はクラブチームとして設立された(一社)釜石シーウェイブスRFCの桜庭代表が入った。
当然の事ながら、チーム理事は所属チームへの利益誘導のために、理事会参加の特権が与えられているのではない。
もしもチーム理事による、他の傘下チームを顧みない利己主義的な利益誘導があれば、スポーツ庁のガバナンスコード(原則8)に照らし、利益相反の視点からの是非が議論されるべきだろう。
特権には責任と監視が伴う。全プレイヤー、全チームの利益代表としてのリーグ参画がなされているか、我々は注意深く見守っていく必要があるだろう。
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日本ラグビー最高峰の舞台は、リーグワンの他にない。
ファン・関係者全員でリーグワンが公平公正な、真の「世界一」のラグビーリーグに発展するプロセスを支援し、楽しみたい。
そのためにはサポートと同時に、公平公正なリーグ運営が行われているかを注意深く見ていく必要がある。