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中国が温暖化対策でアメリカとの共同宣言の意図は?

宮崎紀秀ジャーナリスト
写真は中国の重要会議「六中全会」が報じられた様子(2021年11月11日北京)(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカと中国が地球温暖化対策で共同宣言を発表し、協力しあっていく方針を示した。二大国がこの分野で歩み寄った結果は、喜ばしい事実だが、中国が台湾情勢や人権問題で激しく対立するアメリカと協調姿勢を示した真意はどこにあるのか。

中国はアメリカと協力できる

 共同宣言は10日、発表された。COP26(=国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)が開かれているイギリスのグラスゴーで、米中の特使がそれぞれ記者会見を開いた。

 共同宣言で、両国は、2020年代に温暖化対策を加速させることを約束し、「パリ協定」で設定された、地球全体の平均気温の上昇を産業革命以前と比べ2度未満に保つ目標を目指すと同時に、できれば1.5度以内に止めるよう努力することを確認し合った。また作業部会の設立や、温室効果が高いとされるメタンガスの削減対策を強化し、来年2022年前半に共同会議を開催する計画も謳った。

 翌日、中国外務省の報道官は北京の定例記者会見で、「中国とアメリカは、国際的に重要な問題に対しては協力できる」と自信を見せ、中国が好んで使う「責任ある大国」としての面目を保った。

中国は対策実現に自信?

 このいささか突然に見えた共同宣言について、中国メディアも「国際世論にとっては意外だった」などと報じた。

 中国共産党系の新聞で、時にアドバルーン的な論調を出す新聞「環球時報」は、中国側の意図を探るのに参考になる。同紙は、中国側は約束した温暖化対策を実現できる、と社説で自信を示した。

「中国は、2020年代のメタンガス排出を抑制・削減するために、行動計画を制定すると約束した。中国が最新の貢献をすると決定したことに疑いの余地はない。中国はこれまでも約束したことは必ず守っており、中国がこの共同宣言にある内容を、国家の行動に転化することは、高く期待できる」

 と、中国の体制の優位性と責任ある大国としての振る舞いを強調している。

中国が最大排出国なのは他国が原因?

 一方、中国が温室効果ガスの最大の排出国であるという事実はあるものの、国際社会の気候変動への取り組みに対し、道義的には何ら負い目はない、という主張もした。

 なぜなら、中国は人口の最も多い国であり、歴史的には排出量は少なかったが、現在、現代化に向かっており、排出量がピークを迎えるのは避けられず、これは中国の人権上必要で保障されるべき条件なのだ、と説く。

 また、世界の工場であり、西側諸国が使っている商品は、中国が温室効果ガスを排出して生産したものであるので、中国の排出量は同時に世界の排出量でもある、という理屈を展開した。

 そもそも中国に温暖化の責任は無い、と言わんばかりだ。

中国の本音は対立を解消したい?

 社説は、中国、アメリカ共に温暖化対策に積極的であると評価するものの、気候変動への対応そのもの以外の「政治的な思惑は違う」とも触れている。

 中国側のその思惑とは「気候変動での協力を通じて、他の分野での対立を解消したい」のだ、という。

 これは、今回の共同宣言が、中国共産党の重要会議「六中全会」の閉幕の前日に出された点とも無縁ではなさそうだ。

 「六中全会」で、共産党の百年の歩みを評価する「歴史決議」をして、自らの権威を高めた習近平氏は、来年の党大会で異例の三期目を目指すものと見られるが、これまでの習近平政権では、対外関係の悪化、特にアメリカとの軋轢はマイナス要素だ。国際社会と上手くやれない指導者に、国を託して大丈夫かと懸念を抱く人々に対して、タイミングの良いサプライズとなったはずだ。

温暖化対策をカードに?

 一方、アメリカの思惑は「気候変動での取り組みを通じて、中国の更なる発展に対し制約を設けたい」のだという。

 その上で、社説は、物事の進展は、一方だけが望むようにはならないので、「複雑な駆け引きのプロセスとなる」と続け、中国の今後の立場の変化にも含みを持たせたようにも思える。

 中国としては、気候変動アメリカとの融和の糸口にしたいところだが、両国に横たわる軋轢の一つ、例えば台湾問題では中国は絶対に譲らない。この問題で、中国側からの歩み寄りは期待できない。温暖化対策については、確かに中国の体制を持ってすれば、国内の産業をコントロールし、やり遂げる「実力」があるだけに、中国は今後、温暖化対策をカードに、中国が核心的な利益と位置付ける台湾問題などで、アメリカをはじめとする国際社会に、揺さぶりをかけるかもしれない。

実現できなければアメリカはペテンの国?

 社説は、両国で確認し合ったはずの温暖化対策について、アメリカ側の実現性に疑問を呈する。

 アメリカのトランプ政権が「パリ協定」を離脱した事実にも触れ、「長い目で見ると不確定要素はアメリカにある」と指摘した。

 確かに、アメリカには大統領選挙があり、共和党政権が生まれて方針を転換する可能性はある。

 一方、中国では、指導部が決めた方針は、金科玉条だ。産業界の意向や、そもそもない政権交代によって、転換する可能性はまずない。そのため、大盤振る舞いをした後に、アメリカに梯子をはずされ、「自分だけが損をした」と、ほぞを噛む事態は避けたい。

 社説は、バイデン政権に対し、国内の法律などにより、現政権の約束が、アメリカの永遠の約束とすべきだと釘を刺した。

「そうでなければ、世界は、責任ある大国と付き合っているのか、ペテンの国家に向き合っているのか分からなくなる」

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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