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裁判所に異議あり!~刑事裁判で採用証拠の要旨告知を省いてはいけない

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
東京地方裁判所

 JR東海が建設中のリニア中央新幹線の工事を巡り、ゼネコン4社の間で入札談合があったとして、起訴されている大成建設、鹿島建設の担当者らの裁判で2月6日、東京地裁(楡井英夫裁判長)は採用した弁護側請求の証拠を要旨告知をさせずに取り調べを終えた。

 この裁判は、終盤に近づいており、このところ被告人質問と合わせて、検察、弁護側双方が請求した証拠の採否を判断し、採用したものを取り調べる、という手続きが行われている。6日の第32回公判では、弁護人による被告人質問の後、弁護側請求証拠についての判断が行われ、30点近くの証拠が採用された。

弁護人は要旨告知の準備をしていたのに…

 弁護側は、前回の裁判で採用された証拠の要旨を告げるための準備をしており、さらに「本日採用となったものは明日開かれる次回公判で、要旨告知を行う」と述べた。

 ところが楡井裁判長は、「証拠番号が続くよう(記録に)編綴したいので、今日、すべて取り調べたことにしたい」として、弁護人がこの日に用意していた要旨告知もさせないまま、法廷を閉じた。

 証拠採否の判断は、必ずしも証拠番号の順番には行われていない。前回の法廷で採用となった証拠の要旨告知を行い、取り調べを済ませ、後からこの日に採用した番号の若い証拠を採用すると、順番通りに記録が編綴されず、裁判官にとって「わかりにくい」状態になる、ということらしい。

 ならば、翌日の次回公判で一括して要旨告知を行い、取り調べをすればよいのに、弁護人にそのための指示もしないまま法廷を閉じた。

証拠は全文読み上げが原則

 刑事裁判の原則は、裁判所が証拠として採用するものは全文、法廷で読み上げることになっている。刑事訴訟法は次のように定めている。

〈検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠書類の取調べをするについては、裁判長は、その取調べを請求した者にこれを朗読させなければならない。(以下略)〉

出典:刑事訴訟法第305条第1項

 ただし、「訴訟関係人の意見を聴き、相当と認めるときは…朗読に代えて…その要旨を告げ」るだけでもよい、とされている(刑事訴訟規則第203条の2第1項)。

 制度的には、原則は全文朗読、例外的に要旨告知だ。だが実際の裁判では、すべての証拠を全文朗読すると膨大な時間を要するため、ほとんどがかなり簡略な要旨告知で済まされる。

 とはいえ、裁判記録を証拠番号順に編綴する、という裁判所の事務的事情で、要旨告知すらせずに取り調べを済ませる、という訴訟指揮は、法律や規則から逸脱しているのではないか。

国民に分かりやすい、真に開かれた裁判を

 傍聴人からは、裁判所がどのような証拠を採用して判断を行うのか、まったく分からない。これでは、本当の意味で公開裁判とはいえないだろう。

 楡井英夫裁判長は、検察側の証拠の採否を行った際には要旨告知をさせたが、「簡単でいいですから」「簡略でいいですから」と繰り返した。それを受けて検察官は、「○○の手帳」「××の△△駅での技術提案書」など、大まかなタイトルだけを極めて早口で告げて取り調べは終わった。これでは傍聴人には、どういう内容なのか分からない。

 証拠類は傍聴人に分からなくてよい、裁判官が部屋に戻って読めればいいのだ、と考えているのかもしれないが、そうした裁判のやり方への反省が、裁判員裁判の実現へとつながったのではなかったか。

 このリニア裁判では、証人尋問のたびに、さまざまな資料が証人に示されてきた。それは書画カメラを利用し、裁判官や検察官、弁護人はモニターで見ることができるが、法廷の大型モニターは切ったままで、傍聴人からは見えない。いったい、この大型モニターは何のために設置されているのだろうか。

 国民に分かりやすい裁判、ほんとうの意味での公開裁判とは何なのか。裁判官にはもっと考えてもらいたい。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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